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 翌日、男は早く起きた。今日は早番だからではない。勇人の秘密を暴くためだ。勇人は何か悪い事を考えているに違いない。それは明らかだ。だが、それを証明しなければならない。あの子たちを元の世界に返すためにも。


「おい、起きろ」


 男は隣で寝ている若者を起こした。その若者は、昔からここにいる。なので死なない。


「ご、ごめん・・・」


 若者は戸惑っている。こんなに早く起きるのがおかしい。若者は知っている。勇人の秘密を知りに行くんだと。あの子たちを救うためにも。


「調べるぞ」

「ああ」


 男は玄関を開けた。そこには佐藤がいる。佐藤はすでに起きている。佐藤は真剣な表情だ。なんとしても勇人の秘密を暴くんだ。


「みなさん」

「あっ、おはようございます」


 佐藤は軽くお辞儀をした。この人はとても丁寧だな。いい大人だな。


「今日はあいつを調べに行くぞ」

「うん」


 3人はその場所に向かって歩き出した。早朝、この辺りはとても静かだ。昼間はあれだけ賑わっている敏別がまるで嘘のような静けさだ。そんな中、炭鉱のモーターの音がいつも以上によく聞こえる。


 ふと、佐藤は思った。どうして勇人は子供たちをここで働かせようとしたんだろう。そして、大輔とはどんな関係があるんだろう。


「いったいどうして、こんな事になってしまったんだろう」

「それに、大輔って奴にも気をつけないと」


 男も大輔を気にしていた。勇人と何らかの関係があるのは確かだ。だが、どうしてここに来ているのか、知りたかった。


「そうだね。勇人と何の関係があるのか」

「ああ」


 と、そこに武と上田、光がやって来た。光は眠たい目をこすっている。少し眠たそうだ。


「おはよう」

「おはよう」


 佐藤は光の表情が気になった。どうやら眠いようだ。こんな早い時間に起きた事があまりないようだ。


「じゃあ、行くぞ」

「ああ」


 彼らは裏山に向かった。その裏山は敏別のはずれにある。その先には幾部が見えるだろう。そこは敏別炭鉱鉄道で採れた石を国鉄に積み替える重要な駅だ。


 彼らは裏山にやって来た。裏山は敏別が見下ろせる位置にあり、敏別の様子がよく見える。武はそこからの風景を見て、感動していた。敏別はこんな感じだったんだな。とても賑やかだったんだな。今では湖底に沈み、思い出とともに水の中だ。


 男は首をかしげていた。いくら待っても勇人が来ないのだ。まさか、自分たちが来るのを知って、ここに来ていないんだろうか? 自分が来るのを知られたのでは?


「来ないなー」

「本当に来るのかな?」


 武は疑問に思っていた。本当にここに来るんだろうか? そして、勇人はどんな秘密を持っているんだろうか?


「確か昨日はここに来てたって噂だ」


 男は知っていた。確かに昨日はこの先に向かうのを見ていた。だが、その先は全くわからない。その先に行けば、何か秘密があるんじゃないかな?


「そうなんだ・・・」

「本当に来るのかな?」

「わからないけど、信じよう」

「うん」


 どうしてこんなところに来るようになったんだろう。まさか、誰かに操られているんじゃないかな?


「本当に何なんだろうな」

「そうだな。元の人に戻ってほしいんだけどなー」


 男は思っていた。30年前に来た時には全くそうじゃなかったのに、何があったんだろう。


「うーん・・・、どうしてこうなってしまったんだろう」

「わからない。30年ぐらい前だったんだけど、本格的におかしくなったのはここ最近だよね」


 ここ最近、様子がおかしくなったのか。ひょっとして、あの駆け込みサイトができてからだろうか?


「ああ」

「あの子たちを何とかしないと」


 2人は真剣な目をしていた。あの子たちを守りたいんだな。一緒に元の世界に戻りたいんだな。その為にも僕たちが頑張らないと。


「そうだね。あの子たちを死なせないためにも」

「あの子たちを早く現実の世界に戻さんと」

「うん」


 と、そこに勇人がやって来た。勇人は真剣な表情だ。いつもと明らかに表情が違う。


「あっ、あいつだ!」

「本当だ!」


 勇人は山奥に向かった。一体どこに行くんだろう。彼らはじっと見ている。


「おいおい! 行くぞ!」

「ああ」


 勇人に気付かれないように、彼らは後をつけ始めた。彼らはとても静かに歩いている。勇人に気付かれてはいけないからだ。


「あっちだ!」

「生い茂る山林の中だな」


 勇人の歩く道は、どこまでも続くような雑木林だ。この辺りは無人の山林で、開発された形跡が全くないらしい。こんな所に何があるんだろう。全く想像できない。


「あの先に何があるんだろう」

「全くわからないよ」

「とにかく行こう!」

「ああ」


 彼らは勇人の後ろを付けていた。勇人は何度も振り向いたが、そこには誰もいない。勇人は首をかしげた。自分のやっている悪い事が、炭鉱の人々にばれたら大変だ。絶対に秘密にしないと。


 しばらく歩いていくと、そこには神社がある。その神社の前には、狐の石像がある。ここは稲荷神社だろうか?


「これは?」

「神社?」


 と、勇人が再び振り向いた。


「隠れるぞ!」

「うん」


 それを察知して、彼らは隠れた。絶対に見られてはならない。見られたら、どうなるかわからない。


 勇人は神殿の前にやって来た。そして、稲荷ずしをお供えした。


「お稲荷様、昨日は3人狩ってまいりました」

「そうか・・・。よくやった・・・」


 神殿の扉の向こうから、不気味な声が聞こえる。これがお稲荷様だろうか? とてもクールな声だ。


「ありがとうございます」

「平和な世界を築くにはこうするしかないのだ! 他人をいじめるような奴は現実の世界からいなくなればいいのさ」


 ここのお稲荷様は、いじめを許さないようだ。だから、彼らを狩ってきたんだろうか? いくらなんでも、それはやりすぎなのでは?


「素晴らしいお考えでございます」


 勇人は笑みを浮かべている。いじめている子供たちを買って、死ぬまで労働させるのがいい事だと思っているようだ。


「そんな・・・」


 彼らは絶句した。勇人がこんな事を考えているとは。とても許せないな。現実世界に戻ったら、逮捕しなければ。

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