26
翌日、男は早く起きた。今日は早番だからではない。勇人の秘密を暴くためだ。勇人は何か悪い事を考えているに違いない。それは明らかだ。だが、それを証明しなければならない。あの子たちを元の世界に返すためにも。
「おい、起きろ」
男は隣で寝ている若者を起こした。その若者は、昔からここにいる。なので死なない。
「ご、ごめん・・・」
若者は戸惑っている。こんなに早く起きるのがおかしい。若者は知っている。勇人の秘密を知りに行くんだと。あの子たちを救うためにも。
「調べるぞ」
「ああ」
男は玄関を開けた。そこには佐藤がいる。佐藤はすでに起きている。佐藤は真剣な表情だ。なんとしても勇人の秘密を暴くんだ。
「みなさん」
「あっ、おはようございます」
佐藤は軽くお辞儀をした。この人はとても丁寧だな。いい大人だな。
「今日はあいつを調べに行くぞ」
「うん」
3人はその場所に向かって歩き出した。早朝、この辺りはとても静かだ。昼間はあれだけ賑わっている敏別がまるで嘘のような静けさだ。そんな中、炭鉱のモーターの音がいつも以上によく聞こえる。
ふと、佐藤は思った。どうして勇人は子供たちをここで働かせようとしたんだろう。そして、大輔とはどんな関係があるんだろう。
「いったいどうして、こんな事になってしまったんだろう」
「それに、大輔って奴にも気をつけないと」
男も大輔を気にしていた。勇人と何らかの関係があるのは確かだ。だが、どうしてここに来ているのか、知りたかった。
「そうだね。勇人と何の関係があるのか」
「ああ」
と、そこに武と上田、光がやって来た。光は眠たい目をこすっている。少し眠たそうだ。
「おはよう」
「おはよう」
佐藤は光の表情が気になった。どうやら眠いようだ。こんな早い時間に起きた事があまりないようだ。
「じゃあ、行くぞ」
「ああ」
彼らは裏山に向かった。その裏山は敏別のはずれにある。その先には幾部が見えるだろう。そこは敏別炭鉱鉄道で採れた石を国鉄に積み替える重要な駅だ。
彼らは裏山にやって来た。裏山は敏別が見下ろせる位置にあり、敏別の様子がよく見える。武はそこからの風景を見て、感動していた。敏別はこんな感じだったんだな。とても賑やかだったんだな。今では湖底に沈み、思い出とともに水の中だ。
男は首をかしげていた。いくら待っても勇人が来ないのだ。まさか、自分たちが来るのを知って、ここに来ていないんだろうか? 自分が来るのを知られたのでは?
「来ないなー」
「本当に来るのかな?」
武は疑問に思っていた。本当にここに来るんだろうか? そして、勇人はどんな秘密を持っているんだろうか?
「確か昨日はここに来てたって噂だ」
男は知っていた。確かに昨日はこの先に向かうのを見ていた。だが、その先は全くわからない。その先に行けば、何か秘密があるんじゃないかな?
「そうなんだ・・・」
「本当に来るのかな?」
「わからないけど、信じよう」
「うん」
どうしてこんなところに来るようになったんだろう。まさか、誰かに操られているんじゃないかな?
「本当に何なんだろうな」
「そうだな。元の人に戻ってほしいんだけどなー」
男は思っていた。30年前に来た時には全くそうじゃなかったのに、何があったんだろう。
「うーん・・・、どうしてこうなってしまったんだろう」
「わからない。30年ぐらい前だったんだけど、本格的におかしくなったのはここ最近だよね」
ここ最近、様子がおかしくなったのか。ひょっとして、あの駆け込みサイトができてからだろうか?
「ああ」
「あの子たちを何とかしないと」
2人は真剣な目をしていた。あの子たちを守りたいんだな。一緒に元の世界に戻りたいんだな。その為にも僕たちが頑張らないと。
「そうだね。あの子たちを死なせないためにも」
「あの子たちを早く現実の世界に戻さんと」
「うん」
と、そこに勇人がやって来た。勇人は真剣な表情だ。いつもと明らかに表情が違う。
「あっ、あいつだ!」
「本当だ!」
勇人は山奥に向かった。一体どこに行くんだろう。彼らはじっと見ている。
「おいおい! 行くぞ!」
「ああ」
勇人に気付かれないように、彼らは後をつけ始めた。彼らはとても静かに歩いている。勇人に気付かれてはいけないからだ。
「あっちだ!」
「生い茂る山林の中だな」
勇人の歩く道は、どこまでも続くような雑木林だ。この辺りは無人の山林で、開発された形跡が全くないらしい。こんな所に何があるんだろう。全く想像できない。
「あの先に何があるんだろう」
「全くわからないよ」
「とにかく行こう!」
「ああ」
彼らは勇人の後ろを付けていた。勇人は何度も振り向いたが、そこには誰もいない。勇人は首をかしげた。自分のやっている悪い事が、炭鉱の人々にばれたら大変だ。絶対に秘密にしないと。
しばらく歩いていくと、そこには神社がある。その神社の前には、狐の石像がある。ここは稲荷神社だろうか?
「これは?」
「神社?」
と、勇人が再び振り向いた。
「隠れるぞ!」
「うん」
それを察知して、彼らは隠れた。絶対に見られてはならない。見られたら、どうなるかわからない。
勇人は神殿の前にやって来た。そして、稲荷ずしをお供えした。
「お稲荷様、昨日は3人狩ってまいりました」
「そうか・・・。よくやった・・・」
神殿の扉の向こうから、不気味な声が聞こえる。これがお稲荷様だろうか? とてもクールな声だ。
「ありがとうございます」
「平和な世界を築くにはこうするしかないのだ! 他人をいじめるような奴は現実の世界からいなくなればいいのさ」
ここのお稲荷様は、いじめを許さないようだ。だから、彼らを狩ってきたんだろうか? いくらなんでも、それはやりすぎなのでは?
「素晴らしいお考えでございます」
勇人は笑みを浮かべている。いじめている子供たちを買って、死ぬまで労働させるのがいい事だと思っているようだ。
「そんな・・・」
彼らは絶句した。勇人がこんな事を考えているとは。とても許せないな。現実世界に戻ったら、逮捕しなければ。




