18
その頃、佐藤は敏別湖にやって来た。だが、そこには何もない。だが、そこに何があるんだろう。全く見当がつかないが、今回の事件を探るうえで、何か手掛かりになるものかもしれない。気を付けておかなければ。
「また来ましたね」
「ああ。何度ここに来るのやら」
佐藤は思っている。その事件が解決するまでに、何度ここに来るのやら。もう来るのはこれが最後にしたい。早く事件が解決してほしい。その為には、自分たちも頑張らないと。
「今回が最後にしたいですね」
「ああ」
隣にいる山本は地図を広げた。あの印が書かれている。もう湖底に沈んだのに、何だろう。
「あの印があったのは敏別なんですね」
「はい。それに何の関わりがあるのか」
「どうだろう。調べてみよう」
2人は改めて決意した。自分たちでその真相を探ろう。そして、行方不明になった子供たちを助けるんだ。
一方、武と上田と光は敏別炭鉱資料館にいた。バスが来るまでまだまだ時間がある。それまでに資料を調べておこう。何らかの手掛かりがあるかもしれない。
「これが敏別炭鉱なのか」
光は敏別炭鉱の全景を見ていた。多くの家屋があり、所々に炭鉱の施設がある。だが、すでに閉山し、今では湖の底だ。とても信じられないが、本当の事だ。
「すごく賑やかだったんですね」
「ああ。でも今はもう湖の底」
武も悲しくなった。時代の流れとはいえ、故郷が消えるのは残念な事だ。これは、人々の生活を豊かにするために必要なのか? 本当に大切なものは何だろう。敏別の歴史を知ると、そう思えてくる。
「栄枯盛衰ですね」
「うん」
その先には、何両もの石炭車をけん引する蒸気機関車の写真がある。これは終戦直後のようだ。こんな時代があったんだ。今では全く信じられないけど。きっとこの頃は、敏別も幾部もとても栄えていたんだろうな。この頃は、敏別が湖の底になり、幾部がこんなに衰退するなんて、全く予想できなかっただろうな。
「これが敏別炭鉱鉄道」
その先には、ディーゼルカーがある。これは旅客列車で、昭和30年代の映像だ。それから間もなくして、日本は高度経済成長期に入った。そして、エネルギー革命が起こり、炭鉱は衰退していった。
「幾部から延びていた鉄道ですね」
その先には、さよなら列車の様子を撮った写真がある。これは、敏別炭鉱鉄道改め、敏別鉄道のさよなら列車の様子だ。敏別炭鉱鉄道は閉山し、石炭輸送が廃止になってからは、敏別鉄道として存続していた。敏別鉄道は沿線住民のために旅客輸送のみで活躍していた。だが、収入のほとんどを占める石炭輸送を失い、敏別鉄道はあっという間に赤字に転落した。沿線住民は存続するように願い、運動も起こした。だが、そんな願いもむなしく、廃止になってしまった。廃止になった理由は赤字だが、その他にも敏別ダムの建設が決定して、敏別がダム湖に沈むのも原因だったという。これは、営業最終日の幾部行き最終列車の写真だ。
「これがさよなら列車の様子か。みんなとても残念そうだな」
蛍の光とともに、幾部行きの最終列車は敏別駅を後にした。そして、敏別から汽笛が聞こえなくなった。
その先には、廃線跡の様子がある。だが、かなり昔に撮られた写真で、今とは風景が違っているものもある。レールは撤去されたものの、残っている駅舎もある。だが、その後に解体された駅舎もある。
「これが廃線跡か」
その先には、大きな駅舎の写真がある。駅名標を見ると、幾部と書かれている。これが昔の幾部駅なのか。今とは比べ物にならないほど大きいし、広いな。
「これが幾部駅? 今とは比べ物にならないぐらい広い!」
「大きな駅舎だね。今とは比べ物にならないよ」
3人は驚いた。こんな大きな駅舎が幾部にあったとは。まるで都会のようだ。そんな幾部駅は今ではこんなに小さな駅舎になったとは。これが幾部の栄枯盛衰を表しているように見える。
「こんな時代があったんだね」
「これが敏別の街へ向かう敏別トンネル。現在は敏別側の坑口が湖底に沈み、途中でふさがれてるのか」
武は横を振り向いた。そこには館長がいる。まさか館長が来るとは。官庁が見ているのは、敏別の街につながる敏別トンネルだ。このトンネルを抜けると、そこは炭鉱の町、敏別だ。まるで都会のような風景が広がる場所で、幾部よりも栄えていた。だが、幾部よりも先に消えてしまった。
ふと、光は思った。今でもこのトンネルはあるんだろうか?
「そうらしいですね。今でもあるんでしょうか?」
「わからない」
だが、館長はわからない。最近、全くここに行っていない。そこは誰も近寄らないという。行き止まりになっていて、その先に行けない。片側の坑口が湖底に沈んでいる。
それより、武には気になっている事がある。あの大輔という男は誰なんだろう。
「あっ、そうそう。今さっき、男の人に会いましてね、大輔さんって言うんですよ」
やはりあの男は大輔というのか。だが、あの人が気になる。誰だろう。
「えっ、その人の上の名前は?」
「どうしてそこまで聞きたがるんですか?」
館長は驚いた。どうしてそこまで調べようと思っているんだろうか? その男に何かあるんだろうか?
「伊藤大輔かもしれないと思って。数か月も行方不明だったので」
「そんな・・・」
伊藤大輔と聞いて、ある事を思い浮かべた。伊藤カズの1人息子だ。ここ最近、全く会っていないと言っていた大輔がここに来ているかもしれない。もし来ているのなら、カズに言わないと。
と、そこに佐藤がやって来た。資料集めにここに来たようだ。
「すいません、今さっき出て行ったのは誰か、わかりませんか?」
「わかりませんが、白のハイエースに乗って去っていきました」
それを聞くと、佐藤は驚いた。白いハイエースは、大輔が乗っている車じゃないか。
「白のハイエースだと!」
「どうしたんですか?」
それを聞いて、館長は驚いた。まさか、白いハイエースに何かあるんだろうか?
「伊藤大輔は白いハイエースに乗ってるんです!」
「まさか、あの子が来ていたとは」
館長は呆然となった。大輔がここに来ているとは。どうしてだろう。理由はわからないけれど、カズに言わないと。
「知ってるんですか?」
「はい。カズさんの孫ですね」
館長も知っているとは。大輔は村ではかなり有名なんだな。
「追うぞ!」
佐藤は大輔を追う事にした。どうしてここに来たのか。全く帰ってこなかったのに、どうしてだろう。
と、その話を聞いていた武が佐藤の方を向いた。
「すいません、私も行かせてください」
「いいですけど」
佐藤は少し戸惑ったが、一緒に連れていく事にした。
「ありがとうございます」
4人は資料館を後にして、ハイエースを追うために車に乗り込んだ。