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 3人は幾部に降り立った。幾部は雪の中だ。何mもの雪が積もっていて、道路の横はまるで壁のような雪ができている。3人の他に、誰も降りる人はいなかった。3人が下りるとすぐに、列車は幾部を後にした。とても寂しいホームだ。かつてはここに多くの人が乗り降りしたのだろう。あの雪原には、敏別炭鉱鉄道のホームや、機関区があったのだろう。雪原の中に、転車台らしき遺構が見える。それは赤さびていて、もう何年も使われず、手をくわえられていないことを物語っている。


「ここが幾部なのか」


 上田は辺りを見渡した。これが幾部なのか。上田は白い吐息を吐いた。外はとても寒い。東京の寒さとは比べ物にならない。こんな所で生活している人はすごいなと感心する。


「敏別湖はここから20㎞だ」

「こんなにかかるの?」


 武の言った事に、光は驚いた。敏別湖まではこんなにかかるとは。まだまだ先なんだな。


「ああ。昔はこの駅から敏別へ炭鉱鉄道があったらしいんだが、廃止になったんだ」

「そうなんだ」


 炭鉱鉄道は全く聞いた事がない。だが、北海道の各地には炭鉱があったのを知っている。だが、それらはすべて閉山になった。というより、日本の炭鉱はみんな閉山になったそうだ。


「湖ができる前は、炭鉱があったんだね」


 炭鉱の跡が湖の下にある。そう思うと、わくわくしてくる。昔はどんな場所だったんだろう。


「ああ。閉山になった後、敏別ダムを作る事になり、敏別はダム湖の底に沈んだんだ。住民はすでにいなくなっていたそうだ」


 武は寂しそうな表情になった。敏別に住んでいた人々は、どんな気持ちなんだろう。故郷がなくなるのは残念過ぎる。でも、それが時代の流れなんだろうか?


「時代の流れで消えていった。寂しいね」

「ああ」


 3人は駅前にやって来た。寂しい駅前だ。東京とは比べ物にならない。かつては多くの人が行きかったと思われるが、今ではこんなに寂しい風景になってしまった。


 上田はバスの時刻表を見た。敏別湖に行くバスは、あと1時間ぐらい待たなければならない。バスだけでこんなに待たなければならないとは。東京ではあまり見た事がないダイヤだ。


「くそっ、次のバスまであと2時間か」

「こんなに少ないんだね」


 光は時刻表を見て、ため息をついた。こんなに本数が少ないとは。どうしよう。早く救いたいのに。


「ああ。それほどお客さんが少ないんだろう」

「不便だね」


 2人はしょうがないと思っている。この辺りは過疎化が進んでいて、利用客どころか周辺住民そのものが少なくなっている。バスの利用客減は仕方ないんだろう。


「しょうがないんだよ。お客さんが少ないんだから」


 武は考えた。このまま外にいると、凍え死んでしまう。どこかで暖を取ろう。この時間に中で過ごせる場所はないんだろうか?


「どこで暇をつぶそう」

「そうだなぁ・・・」


 と、上田はある施設を見つけた。それは、『敏別鉱山資料館』だ。ここには敏別鉱山にまつわる展示が残されていて、そこを結んでいた私鉄の写真もある。


「これはどうだろう」

「敏別鉱山資料館?」


 光は驚いた。駅の近くにこんな阿野があるとは。きっと、ここから延びていた敏別炭鉱鉄道にちなんだものに違いない。それを見て、武は思った。バスが来るまでの間、ここで資料を見ておこう。何かの手掛かりになるかもしれない。


「そうだな。何が手掛かりがつかめるかもしれない。行ってみよう」

「ああ」


 3人は受付口に入った。この先は有料で、展示物を見るには料金がかかるようだ。


「いらっしゃいませ、入館料は500円です」


 受付の向こうに現れたのは老婆だ。その老婆は、ここに生まれて、ずっとここにいるようだ。5人は500円を出した。


「ありがとうございます。どうぞ中にお入りください」


 3人は中に入った。目の前には地図がある。これが敏別炭鉱の地図だ。それを見て、上田は思った。あの犬がくわえていた地図と一緒だ。やはりあの印の場所は敏別炭鉱のようだ。


「こんな場所だったんだね」

「ああ」


 ふと、武は思った。こんなに栄えていたのに、エネルギー革命などが原因で閉山になってしまった。それは、避けられない事だったんだろうか?


「こんなに栄えていたのに、なくなってしまうなんて」

「とても賑やか。まるで都会のよう」


 光もそれを見て、驚いていた。こんなに栄えていた敏別が、炭鉱の閉山で衰退して、人がいなくなり、ダム湖に沈んでしまった。全盛期を知る人々は、敏別はそうなると予想した人はいないんだろうか?


「本当だね。華やかな時代があったんだね」


 通路を進んでいくと、何両ものセキを引っ張る機関車の写真がある。これが敏別炭鉱鉄道の石炭列車のようだ。セキには大量の鉱石が積まれている。これから幾部に向かうと思われる。


「これが炭鉱鉄道」

「そうらしいね」


 武はその編成を見て、茫然となった。まるで都会の電車のように長い。だが、それは石炭列車だ。


「こんなに貨車をつないでたんだね」

「ああ。ここに石炭を積んで、幾部に向かったんだ」


 と、光はその奥にある電飾を施された列車を見つけた。そしてその周りには、鉄道マニアや沿線住民がいる。


「これは?」

「さよなら列車だ。多くの人が集まってるね」

「うん」


 これは敏別炭鉱鉄道改め、敏別鉄道のさよなら運転の様子だ。かつて、多くの利用客がいた敏別炭鉱鉄道も、閉山によって石炭輸送は廃止になり、再末期には単行の列車が行きかうだけになってしまった。利用客は減少し、朝ラッシュでも1両だけでいいような日々が続いていた。


 その横には、田園風景に広がる未舗装の道路がある。その先には、踏切の跡がある。これはどうやら、敏別鉄道の廃線跡のようだ。


「これが廃線跡?」

「そうらしいね」


 廃線跡は田園風景に一直線に続いている。この電車はとてものどかな風景の中を走っていたんだなと想像できる。


 そして、その奥には、湖の写真がある。これが終点、敏別のあった敏別湖だ。今ではすっかり忘れ去られているが、確かにここに集落があり、敏別鉄道の終点があった。


「これが敏別湖。この湖底にかつて、敏別炭鉱があった。ロマンがあるね」

「うん」


 その1つ前には、トンネルがある。だが、その先は暗い、反対側はなく、行き止まりのように見える。


「これは、敏別トンネル。このトンネルを抜けると、敏別が広がってたのか」


 だが、今は湖底の中だ。もう見る事ができない炭鉱の町、故郷を失った人はどんな気持ちなんだろう。


「今でもあるのかな?」

「うーん・・・」

「今でもあるらしいですよ」


 光は横を向いた。そこには30代の青年がいる。その男は肥満体系で、黒縁の眼鏡をつけている。


「どなたですか?」

「私ですか? 大輔というものです」


 大輔は笑みを浮かべている。男はその遺構を知っているようだ。


「はぁ・・・」

「このトンネル、今でもあるんですよ。でも、入ったら戻ってこれないと言われていて、誰も近寄ろうとしないんですよ」


 大輔によると、この敏別トンネルは途中で行き止まりになっていると言われている。そして、入ったら誰も戻ってこれないと言われていて、誰も近寄ろうとしないという。


「そうなんですか?」

「はい。だから近寄らないほうがいいですよ」

「そうですか」


 光は信じられなかった。こんなトンネルがあるんだな。でも、どうして戻れないんだろう。その先は行き止まりなのに。


「こんな噂、あるんだね」

「うん。近寄らないようにしよう」

「そうだね」


 他の2人もそれは真実だと思っていた。できる限り近寄らないようにしよう、敏別湖には行くが。


「じゃあ、私はこれで」


 大輔は資料館を去っていった。光はその後姿をじっと見ている。何かを感じているんだろうか?


「どうしたんだい?」

「本当にそうかなと思って」


 後になって、光は疑わしいと思った。もしかして、ここに近寄らせないために言っているのではと思った。ならば、ここに行かなければならないんだろうか?


「光・・・」


 武は光をじっと見ている。光は何を感じているんだろう。とても気になるな。

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