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翌日、上田は東京にやって来た。今日は北海道に行き、真相を突き止めるつもりだ。武らとはここで鉢合わせをする予定だ。どんな事があっても、絶対に生徒を救ってみせる。そして、みんなで家に帰るんだ。
上田は行方不明になった生徒の写真、そして千尋の写真を見ていた。死んだ千尋の分も、頑張らなければ。きっと、天国から見ているさ。だから、先生に勇気を与えてくれ。
と、そこに武と光もやって来た。上田は横の中学生と思われる少年、光が気になった。武と一緒に探そうというんだろうか?
「おはようございます、鈴木先生」
その声を聞いて、武は前を向いた。横にいる光も前を向いた。この人が一緒に行くという上田先生だろうか?
「上田先生ですか?」
「はい。今日からよろしくお願いします」
と、武は拳を握り締めた。絶対に事件を解決してみせる! 僕らは絶対に負けない! 僕らは子供たちの味方だ!
「ああ。絶対に原因を突き止めてやるぞ!」
「はい!」
と、光がお辞儀をした。上田は驚いたが、きっと初めて会う人に対する挨拶だろうと思った。
「おはようございます、上田先生」
「おはよう。さぁ、行くぞ!」
「はい!」
3人は東北新幹線のホームに向かった。東北新幹線のホームには、様々な行先の新幹線がある。越後湯沢、新潟に向かう上越新幹線、長野、富山、金沢、敦賀に向かう北陸新幹線、山形、新庄に向かう山形新幹線、秋田に向かう秋田新幹線だ。だが、自分たちが乗るのは、新青森、新函館北斗方面の東北・北海道新幹線だ。武は3人分の指定席をすでに買ってある。3人はまっすぐ改札をくぐり、新函館北斗行きのはやぶさが停まっているホームに向かった。
3人は新幹線のホームにやって来た。そこには、E5系はやぶさと、E6系こまちが連結した状態で停まっている。この2つは、盛岡で別れ、こまちは秋田へ、はやぶさは新函館北斗へと向かう。あまり乗る機会のない新幹線に、光は興奮していた。
「これが新幹線!」
だが、武は注意した。旅行のために乗るんじゃない。弘人と勝を捜すためだ。
「興奮してるんじゃないぞ! 今は喜んでる場合じゃない!」
「・・・、はい・・・」
光は少し舌を出した。喜んでいる場合じゃない。見つけなければならない。喜ぶのは生きて再会してからだ。
「絶対に見つけるぞ!」
「はい!」
3人ははやぶさに乗り込んだ。その間も光は、弘人と勝の事を考えていた。それほど心配しているんだろう。武は心配になった。だが、そんな光のためにも、自分たちも頑張らなければ。
「弘人くん、勝くん・・・」
「心配なのか?」
光は横を向いた。声をかけたのは武だ。武にもその気持ちがわかる。絶対に助けないと。
「はい・・・」
と、武は光の肩を叩いた。光は背筋がシャキッとなった。
「絶対に生きてる! 信じよう!」
「うん!」
3人は指定された席に座った。窓側に座った光は、車窓を見ながら何かを思っている。弘人と勝の事だ。ちょうど、家族連れを見た。弘人と勝は何もなければ、楽しい冬休みを送っていたはずなのに、自分のせいでこうなってしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「心配してるのか?」
「ああ」
はやぶさはゆっくりと東京駅を出発した。光は流れる車窓を見ている。大変だけど、今はこうやって気持ちを整えよう。そして、北海道で絶対に弘人と勝を見つけよう。絶対に生きて帰るんだ。
「みんな心配してると思うよ」
武と上田は思っていた。どうして敏別に関連があるんだろうか? そこに行くと、何があるんだろうか? 敏別はすでにダム湖の底なのに。もう何もないはずなのに。
「あの敏別に、何の関係があるのかな?」
「確かに僕も思う。どうしてあそこに印があったんだろう」
光も感じていた。明らかにおかしい。絶対に謎を解いてやる! そして、弘人と勝を救い出す! それだけではない。駆け込みサイトが原因で捕まった子供たちを救い出すんだ。
「とにかく行ってみよう! 行けばわかるだろう」
「そうだね」
「待ってろよ! 今助けてやるから!」
はやぶさは大宮駅を過ぎ、一気にスピードを上げた。大宮駅を出たら、仙台駅までノンストップだ。3人は流れる車窓を見ていた。いよいよ北海道に向かうんだ。そして、何が起こっているのか調べるんだ。待ってろよ、絶対に解決させるから。
はやぶさは盛岡でこまちと別れ、単独で新青森に向かっていく。いつの間にか光は眠っている。きっと、弘人と勝と3人で遊ぶ夢を見ているんだろう。こんな日がまた来たらいいな。
光が目を覚ますと、そこは奥津軽いまべつ駅だ。もうすぐ青函トンネルだ。青函トンネルは完成当時、世界最長と言われたトンネルだ。現在は世界一ではなくなったものの、海底トンネルとしては世界最長だ。かつてここは津軽海峡線で、狭軌の普通路線だった。だが、北海道新幹線の開業に伴い、標準軌になった。
「いよいよ北海道に入るんだね」
「ああ」
もうすぐ北海道に着く。そう思うと、光は何かを感じていた。必ずあいつらを救い出すんだ。一緒に帰るんだ。だが、不安もある。死んでいたらどうしよう。救い出すのが使命なのに、こうなっては大変だ。
「大丈夫かな?」
「心配なのか?」
「うん」
と、上田が光の肩を叩いた。きっと生きているさ。だから、絶対に一緒に帰ろうよ。
「きっと生きてる! 信じよう!」
「ああ」
はやぶさは青函トンネルに入った。青函トンネルを抜けると、北海道だ。そう感じると、光は気合が入った。その先に弘人と勝がいるかもしれない。




