13
その翌日、千尋の通っていた中学校は騒然としていた。犬の姿で発見されるという、前代未聞の事態に警察がやってくるほどだ。どうしてこんな事になったのか、全くわからない。朝から校長室や職員室は大騒ぎになっている。生徒は誰も近寄ろうとしない。歩くだけで回りが気になる。アナウンサーがやってくるかもしれないからだ。こんな事態、初めてだ。とんでもない事になったと誰もが感じていた。
上田は廊下を歩いていた。先週と違って、職員室や校長室は騒然となっている。千尋の事がどれだけ衝撃的だったかを物語っている。
と、職員室の前で、誰かが悩んでいる。千尋の同級生の山本だ。どうしたんだろう。
「どうした?」
「三村千尋くんの事、知ってますか?」
山本はびくびくしている。何かを言いたいようだが、なかなか言えないようだ。
「ああ。こないだ犬の姿で死んでたって」
山本は泣きそうになった。千尋の事がかわいそうでしょうがないようだ。だが、別の事を知っているようだ。
「知ってたか。あの子になんかなかったか?」
だが、山本は言おうとしない。だが、上田はあきらめない。何でもいいんだ。話してみろよ。先生だぞ。
「どうした? 言ってみろよ」
「・・・、僕を・・・、いじめてたんです・・・」
上田は驚いた。まさか、千尋が山本をいじめていたとは。だとすると、千尋は駆け込みサイトで書き込まれて、連れ去られたのかな?
「そうだったのか・・・。何か、行方不明につながりそうな事、しなかったか?」
「・・・、ごめんなさい。あのサイトに、書き込んでしまいました・・・」
やっぱりそうだったか。ようやく上田は、あの事件の真相が見えたように見えた。千尋は駆け込みサイトに書き込まれて、連れ去られた。逃げ出そうとしたが、犬にされて、このような姿で発見されたというわけかな?
「あのサイトって、まさか、駆け込みサイトか?」
「・・・、はい・・・、ごめんなさい・・・。僕が原因で、こんな事になってしまって・・・」
山本は泣いてしまった。自分のせいで、千尋が死んでしまった。誰にも見せる顔がない。サイトに書き込んだだけで、千尋が殺されるなんて。全く予想できなかった。
「・・・、つらかっただろうな・・・。もういいから、元気出せよ・・・」
と、上田は山本の肩を叩いた。山本は顔を上げた。
「もう戻っていいぞ・・・」
「失礼しました・・・」
山本は教室に戻っていった。山本は下を向いている。あとどれぐらいで元の元気を取り戻すんだろう。その時を待つしかないが、早く立ち直ってほしいな。
「どうでした?」
上田は横を向いた。そこには同じく教員の寺西がいる。寺西も行方不明事件の事を探っていた。だが、なかなか真相にたどり着けずにいた。
「やっぱり駆け込みサイトが原因だって。これで点と点がつながったな!」
「よかったですね!」
寺西は喜んだ。ようやくあのサイトの秘密がわかった。早くその真相を突き止めて、連れ去られた人々を救わないと。
「その死体がくわえてた地図には印があって、敏別という炭鉱で栄えた集落を指してたんだ。そこは今、湖底に沈んでいるという。そこに鍵があるのでは?」
敏別・・・、聞きなれない場所だ。今は湖の底に沈んでいるそうだ。そこに何かがあるんだろうか? 湖底だとはいえ、何かがあるはずだ。
「きっとそうだと思いますね」
「ああ。鈴木先生にも報告しないと」
鈴木先生? 初めて聞いた名前だ。別の中学校の教員だろうか? どうしてここで聞いた事のない人の名前が出てくるんだろう。
「鈴木先生?」
「別の中学校の先生だよ。この人も、例の駆け込みサイトの事を調べてるんだ」
「そうなんだ」
別の中学校でも話題になっているとは。武にも頑張ってほしいな。
「さて、職員室に行くか」
上田と寺西は職員室に向かった。職員室の周りには、多くの報道陣が集まっていて、校長や教頭を待っているようだ。
その夜、武はリビングでニュースを見ていた。今日も行方不明事件の事ばかりだ。たまには別の番組、特にバラエティ番組が見たいのに。
突然、電話が鳴った。夜に誰からだろう。まさか、上田だろうか?
「はい、もしもし」
「上田です」
上田だ。あのサイトの事で、何かわかった事があるんだろうか?
「あっ、何かありました?」
「やっぱり、あのサイトが原因みたいです」
やっぱりそうだったのか。でも、どうして犬の姿だったのか疑問に思う。
「だとすると、やっぱり敏別に鍵があるのかな?」
「そうかもしれないです。明日から冬休みですんで、北海道の敏別湖に行きます」
そろそろ冬休みだ。冬休みを利用して、その真相を突き止めてみよう。そして、年明けにはみんなが元気に学校に行けるようにしよう。
「だったら、私も行きます」
上田も行く事になった。全く予想していなかったが、大人数で真相を突き止めるのがいいと思っていた。
「そうか。一緒に探そう」
「うん」
武は受話器を置いた。それを見て、里子がやって来た。何かがわかったかもしれないと思ったようだ。
「どうしたんですか?」
「別の先生から連絡があって、やっぱりあのサイトが原因らしくて、敏別湖に秘密があるらしいんだ」
やはりあの地図の場所が怪しいんだな。ここに行方不明事件の鍵を握る何かがあるらしいんだな。
「そうなんだ。だとすると、そこで生きてるかも?」
それを聞いて、里子は思った。そこのどこかで、連れ去られた人々は生きているのでは? もしそうなら、早く釣れj戻さないと。
「そうかもしれない。明日から冬休みだから、そこに調べに行くから」
「気を付けてね」
里子は家事があるから行けない。武には頑張ってとしか言えない。絶対に無事に帰ってきてほしいな。
「ああ」
「今日はもう帰るから。じゃあね」
「じゃあね」
武は2階に向かった。里子は武の後ろ姿を見ている。見ていてね武、絶対にあのサイトの事を言いふらしてやる! そして、彼らを救出するための何かを得たいな。