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 翌日の夕方、佐藤は幾部の伊藤家にやって来た。幾部は吹雪が吹き荒れている。とても寒い。だけど、行方不明になっている事を言わなければ。


「えっ!? 孫が?」


 カズは驚いた。どうして孫が行方不明になったんだろう。全く連絡がないので、全くわからなかったが、まさか、行方不明になっていたとは。異変に早く気付かなかった自分を責めた。


「はい。数か月前に夜逃げをして、行方がわからなくなってるんですよ」

「そんな・・・」


 カズは開いた口がふさがらなかった。夜逃げで行方不明になったとは。今頃、大輔はどこにいるんだろう。全くつかめない。カズは頭を抱えた。


 ふと、カズは昔の事を思い出した。それは、30年ぐらい前の事だ。


「どうかされました?」

「30年ぐらい前ですかね。山中勇人っていう男がいましてね。遺書が見つかったけど、遺体は発見されなかったんですよ」


 山中勇人。初めて聞く名前だ。どんな人だったんだろう。全く関係ないように見えるが、覚えておこう。ひょっとしたら、行方不明事件の鍵を握っているかもしれないから。


「そんな事があったんですか」


 行方不明になったが、いまだに遺体が発見されていないとは。どうして遺体が発見されないのか、不思議だな。ひょっとして、神隠しじゃないかと思ってしまう。


「はい。あの子の遺体はどこにあるんでしょうかね」


 その時、隣にいた瀬古が立ち上がった。カズに何かを言おうとしているようだ。瀬古の表情は堅い。


「カズさん、その話はもういいから」

「うーん・・・」


 だが、カズは忘れられない。いつも嫌われていた勇人の事が心配でしょうがない。あの時、助ける事ができなかった後悔でいっぱいだ。だが、もう勇人は帰ってこないだろう。遺書が見つかったのだから。


「あいつの事は、もう忘れようよ」

「あいつ?」


 佐藤は驚いた。どうしてあいつと言っているんだろうか? この辺りでは嫌われていたんだろうか?


「あの子、この村でとっても嫌われてたらしいですよ」

「そうなんだ」


 佐藤は勇人がかわいそうに思えてきた。どうしてこんなに嫌われていたんだろうか? 性格だろうか? それとも、見た目だろうか? いずれにしろ、嫌うのはいけない事だろう。みんな仲良くするのが人間だろう。


「それゆえに東京で頑張れなかったし、この村でも嫌な目で見られてた」

「そうなんだ」


 勇人の事を思うと、佐藤は心配になってきた。どうしてこんな事になったんだろう。救う事は出来なかったんだろうか? もしできたら、今でも生きていたかもしれないのに。今の年齢の勇人に会いたいなと思った。


「ただ、カズさんはかわいそうだと思っていて、かわいがっていましたからね」

「そうなんですか」


 カズは勇人の唯一の理解者と言っても過言ではなかった。どんな悩みも聞いてくれたし、とても優しく接してくれた。カズだけが頼りだと思っていた。


「今でも忘れられないんですね。でも、もう死んだんだから、放っておきましょう」

「そう、ですね・・・」


 カズの表情は寂しそうだ。もっと一緒にいたかったのに。もう勇人はいない。


「あの子、かなり嫌われてたんですね」

「はい。今は死に追いやったのを反省してるんですけど」


 瀬古は勇人を嫌っていた男の1人だ。勇人を死に追いやってしまった事を反省している。もう一度生き返らせてほしい。そして、謝りたい。だけど、勇人はもう帰ってこないだろう。


 と、カズが肩を叩いた。瀬古は驚いた。


「後悔したってもう遅いですよ。もう忘れましょうよ」

「・・・、わかりました・・・」


 2人とも寂しそうだ。もう勇人に会えないと思っているからだろう。




 その頃、犬の死体を引き取った動物病院では、犬のくわえていた地図に書かれた印の事で話題になっていた。あれ以後、そこがどういう場所なのか、徹底的に調べていた。そして、その結果がようやく出たという。


「敏別?」


 その印があるのは、敏別という集落だ。ここは炭鉱で栄えた場所で、幾部から炭鉱鉄道が延びていたという。だが、エネルギー革命が起き、事故が多発したために閉山になったという。そして、炭鉱鉄道は廃止になったという。そんな敏別の周辺は閉山前からダム建設の話があって、この敏別をダム湖に沈める計画があった。それも閉山の原因になったという。鉄道の廃止から間もなくして、敏別から人はいなくなり、敏別は湖底に沈んだ。今では、ここに鉱山があったという面影はすっかり消え、この辺りは無人の山林に戻りつつあるという。


「そうです。ここには敏別という集落があって、炭鉱で栄えたんですよ。今はダム湖の底ですが」

「どうしてそんな所に印が」


 職員は首をかしげている。どうしてここに印があるんだろうか? その目的が全くわからない。


「私にもわからない。だけど、そこに何かがあるかもしれない」


 だが、院長は感じていた。きっとこれは、何かの鍵を握っているかもしれない。覚えておこう。


「うん。気にしておこう」


 と、そこにこの動物病院に勤めている中村がやって来た。中村は汗をかいている。何事だろうか? 敏別の事を話していた職員は驚いた。


「先生! 先生!」

「どうした中村、慌ててるぞ」


 どうしたんだろう。いつも冷静な中村の表情がおかしい。何かがあったんだろうか?


「あの犬ですが、人間の血でした!」

「な、何だと?」


 彼らは目を大きくした。どうして人間の血なんだろうか? どう見ても犬じゃないか?


「しかも、行方不明になっていた三村千尋みむらちひろくんの血です」


 それを聞いて、表情が固まった。どうして行方不明になっていた千尋の血なんだろうか? まさか、あの犬は千尋だろうか?


「どうしてこんな所で。しかも犬の姿で」

「わからないです」


 これは大変な事だ。千尋の両親に報告しないと。そして、その原因を調べないと。これはとんでもない事になってきたな。


「とにかく、両親に報告するように」

「はい!」


 すぐに中村は、携帯電話で千尋の実家に連絡を送った。その間、彼らは頭を抱えていた。どうして犬が人間の血なんだろうか? 呪いで犬の姿になってしまったんだろうか? 原因が全くわからない。


「どうして人間の血だったんだろう」

「わからない。ひょっとしたら、犬に変えられた?」


 犬に変えられたとしか言いようがない。でも、どうして犬の姿に変えられたんだろうか? 千尋は悪い事をしたんだろうか?


「それもあるかもしれないね。気にしておこう」

「うん」


 中村は外を見た。その先には敏別ダムがある。果たしてそこで、何が起きているんだろうか? いち早く調べないと、また被害者が出るかもしれない。

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