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 後日、2人は大輔が務めていた会社にやって来た。その会社は小さな鉄鋼業の会社で、倉庫のような小さな工場だ。多くは年配だが、その中には若者もちらほらいる。典型的な町工場のようだ。その会社は、あまり知られてはいないものの、重要な物を作っていて、中には国外に出荷されたものもあるという。

 会社は取材を軽く受け入れてくれた。自分たちの会社に勤めていた大輔が行方不明になって、その事を聞きたいようだ。大輔が行方不明になった時はとても話題になった。だが、どうしてこんな時になって聞きに来たんだろう。全くわからない。


 佐藤は事務所の扉をノックした。すると、そこには誰かがいるようで、誰かの声がした。取材に応じる事になった社長の井川だろうか?


「どうぞ」

「あっ、どうも」


 2人は中に入った。そこには井川がいる。井川は作業着を着ている眼鏡の男だ。いかにも真面目そうだ。


「今日はすいません。伊藤大輔さんの事について聞きたいんですけど」

「いいですよ。あの人は真面目だったんですけどね。ちょっとみんなとの折り合いが悪かったんですよ。どうしてでしょう」


 井川は残念そうな表情を見せた。大輔はとてもまじめで、評判のいい社員だった。だが、折り合いが悪かったとは、何だろう。その言葉が気になった。


「何かあったんですか?」

「職場でいじめられていましてね」


 2人は驚いた。大輔は職場いじめにあっていたとは。どうして井川はそれに気づかなかったんだろう。社員がみんな口封じしていたんだろうか? あまりにも気の毒すぎる。早く通報すれば、行方不明になったのを防ぐ事ができたかもしれないのに。


「大家さんも言われてましたが、やっぱりそれが原因でいなくなったんだと」


 井川は思った。やっぱりそうだったのか。うわさでは聞いていたが、本当に職場いじめに遭っていたとは。どうして止められなかったんだろう。後悔しても後悔しきれない。止められなかった自分が情けないと思った。


「やっぱりそうですか。私もそう思ってたんですよ。どこ行ったんだか。もう死んだ事にしたんですよ」


 大輔が会社に来なくなった時には、自宅にまでやって来た。だが、そこには誰もいなかった。そして、置き手紙があったという。それを見て、大輔は自殺したんだと思った。そして、捜索を打ち切ったという。


「そうなんですか」

「どうしたんですか?」


 が、井川は思った。どうして今頃になって話題にしてきたんだろうか? 大輔が見つかったというんだろうか?


 それとともに、井川には気になっているのがあった。同じ時期に入社した江本夏樹えもとなつきの事が気になっていた。


「いえ、ちょっと前にも、突然いなくなった人がいましてね」

「誰ですか?」


 まだ行方不明になっている男がいるのか。誰だろう。その人も気になるな。


「江本夏樹という男ですよ。記憶を失っていたところを保護して、ここで働いてたんですけどね」

「そうなんですか」


 江本は特異な男だ。ある日、路上で記憶を失っていたところを井川に保護された。その男はしばらく保護されたのち、鉄工所で働き始めた。めきめきと力をつけていき、誰からも慕われる存在になったという。だがある日、大輔の失踪からしばらく経ったある日、突然姿を消したという。


 井川は江本の写真を見せた。そこには、ハンサムな男が写っていた。


「この男です」

「うーん・・・。まぁ、覚えときますね」

「はい」


 結局、いじめられていたこと以外、全く手掛かりがつかめなかった。だが、その手掛かりが重要になるかもしれない。これは覚えておこう。


「やっぱりいじめが原因だったのか」

「よくある話ですね」


 佐藤の運転する車に乗りながら、2人は真剣な話をしていた。2人とも真剣な表情だ。


「それにしても、どこに行ったんでしょうね」

「北海道に行ったんじゃないですか?」


 住田は思った。北海道に行ったのでは? 大輔は北海道出身だ。帰る場所があるとしたら、北海道だろう。


「まさか。もう幾部に帰らないでしょ?」


 だが、佐藤は思った。もう何年も北海道に帰っていない。帰るつもりもないのに、どうして帰るんだろう。大輔はハイエースで全国を回っているのでは? だが、行方不明になっている事を、カズには話さないと。


「そうだけど、北海道のどこかにいたりして」

「それもあるな。よし、北海道に行こうか」

「そうですね」


 佐藤は北海道に行く事にした。住田は仕事があるので、ここに残る事にした。そして、カズに行方不明になっている事を話そう。そして、そこに手掛かりがあるか調べよう。


「でも、本当にそれで大丈夫でしょうか?」

「大丈夫、保証するさ」


 佐藤は笑みを浮かべた。佐藤は推理力が抜群だ。誰からも信頼されている。


「・・・、わかりました! 行きましょう!」

「ああ」


 明日、新幹線と特急で行こう。今夜にも取れたら、特急券を買おう。できる限り早く行かねば。


「数か月もいなくなってるって事も言おう!」

「うん!」


 住田は焦っていた。大輔の事を調べるだけで、こんな大変な事になるとは。すぐその話題は終わると思ったのに、こんな事になるなんて。調べてみるもんだな。


「大変な事になったな」

「そうだな」

「とりあえず、向かおう!」

「うん!」


 できれば明日の朝、北海道に向かう新幹線の切符を取れるようにしよう。まずはそれからだ。

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