ヒロイン会議
ASMR部設立の翌日。一ノ瀬律はまた部室に来ていない。御園マリアを含む部のメンバーが揃っていた。
「天宮君、昨日はちゃんと帰れたんだな」
「はい。律さんにおぶってもらったので」
天宮清乃をはじめとしたメンバーが御園マリアが淹れた紅茶を飲みながらお菓子をつまんでいる。その中で村上千春がダミーヘッドマイクやパソコンの設定をしていた。
「そういえば、律の位置情報アプリってどうなったん?」
「あの様子だとすっかり忘れてますね。このままうやむやにしましょう」
「位置情報アプリ? 僕、知らないんだけど」
「ああ恵先輩は知らなかったですね。律さんの居場所がスマホのアプリでわかるようになってるんです。律さん、恵先輩に頼もうとか言ってたので言われたら断ってください」
「え〜、それって僕に何かメリットあるの?」
「もちろん、恵先輩のスマホからもわかるようにしますから」
「ありがとう。やっぱり1人で勝手なことばっかりする律くんには必要だよねー」
天宮清乃が高梨恵にアプリを教える様子を見て村上千春の手が止まる。
「それはちょっと反対というか、その悪用されるかもしれんしやめた方がいいんやない?」
「悪用? しないよしない」
「嘘やん! 私は反対、絶対に自分のために使うけん!この人」
「千春ちゃんは僕のこと信用してないの?」
「だって律とキスもしとるし! この前の病室でも一緒にベッドに入っとったし危なかよ!」
「まぁ仲間はずれもよくないですしみんなで共有しましょうよ」
「清乃ちゃんはよかと!?」
「まぁ私は別に。あの人が1人だと厄介ごとに巻き込まれそうだからっていうのも事実ですし場所を把握してから動ける人が多い方がいいかと」
「綾乃先輩!」
「まぁ別にいんじゃないか? 私も天宮君と同意見だ」
「あーあ、律くん可哀想。やっぱり嫌がってるのに位置情報を勝手に把握するなんて良くないよね。頼まれたらアプリ消しちゃうかもなあ」
「っ! 清乃ちゃん、教えてあげて……」
村上千春が力無く項垂れる。
「やったー」
「まぁ、このアプリあると待ち合わせの時とか地味に便利なんですよねー。今度、映画も行きますし」
「「は?」」
場の空気が固まる。村上千春と高梨恵が目を丸くして天宮清乃を見る。
「清乃ちゃんそれってどう言う意味?」
「昨日約束したんですよ。『ゴ◯ラvs射精の快楽』観に行こうって。千春さんも来ますか?」
「なにその映画……って違う! 私も行くってそれデートやろ!?」
「たしかに言われてみればそうですね」
「いやそうですね、じゎなくて! 清乃ちゃん、抜け駆けやん!」
「千春さん、抜け駆けって。別に私と律さんはそういうのじゃないですよ」
「えっ?」
「えっ」
2人の間に沈黙が流れる。
「いやでも前に正ヒロインとか言って」
「まぁ確かに私はハイパー清楚系正ヒロインですけど別に恋愛的な意味じゃないですよ?」
「天宮君は清楚の意味を一度辞書で調べたほうがいいんじゃないか?」
「どういうことですか!?」
「いやでもえっ、じゃあ清乃ちゃんは律のこと別に好きじゃ?」
「恋愛的な感情とかはわかんないですね。私、人生で恋愛とかしたことなくて正直ぴんと来ないというか。でも嫌いじゃないですし友達、親友?みたいな感じですかね!」
「そうなんだ。僕もてっきり天宮ちゃんはそうだと」
「私もそうやと思っとった」
「えっそういう風に見えますか? うーん、どうなんでしょう」
天宮清乃が首を傾げて考え込む。
「でもいいなあデート。僕も誘おうかなあ」
「はあ!? それなら私も!」
「皆さん落ちついてください。不純異性交遊はいけませんよ」
「でも清乃ちゃんだけずるいですよ! 御園先輩!」
「なら皆で見ましょうよ『ゴ◯ラvs射精の快楽』」
「まぁ確かに実は私も気になっていたんだ。『ゴ◯ラvs射精の快楽』、天宮君がよければ私も」
「綾乃ちゃん、いくらなんでもそれはちょっとあれじゃない? 空気読めてないというか」
「そうなのか!? それはすまない……」
服部綾乃がしゅんとする。
「わかりました! じゃあ、その日はみんなで交代交代でデートしましょう!」
「はああ!? なんば言っとると!?」
「なんか面白いそうじゃないですか?」
「いや面白そうって」
「僕は賛成。その方が誘いやすいし面白そうだしねー」
「私も少し興味があるな。天宮君、私も参加していいか?」
「もちろんです! 御園先輩もどうですか?」
「……みなさんがされるのでしたら」
「ええっ御園先輩まで!?」
「千春さんは行かないんですか?」
「そうなったら私だけ行かないとか嫌やん! わかった私も行く!」
「なら決まりですね。律さんが来たら日にちと予定を決めましょうか」
「本当に大丈夫なんやかこれ……。怒られるんやない?」
「まぁその時はその時で」
そして、そうこう話しているうちに一ノ瀬律が部室に到着した。