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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
ASMR制作編
83/251

ASMR部設立を祝う会

 放課後 ASMR部部室

「では ASMR部始動を祝して乾杯!」

「かんぱ〜い!」

 天宮の音頭に合わせて全員が声を上げる。部室にあった御園先輩の私物のグラスにはみんなで持ち寄ったジュースが入っている。机には色々なお菓子が並んでいた。

「いや〜早かったですね部活になるの。私のカリスマでしょうか?」

「お前にカリスマなんてないだろ」

「そんなことないですよ! ねえ千春さん!」

「えっ、いやどうやろ」

「ひどい!」

 天宮は妙にテンションが高い。それもそうか、あれだけ同好会を作りたがっていたのが今や部活だからな。

「天宮ちゃん、元気だね」

 恵先輩がグラスを片手に微笑んでいる。この人は何させても絵になるな。

「風紀委員会はどうです?」

「美咲ちゃんと椿先輩が頑張ってくれてるよ。それに梅野ちゃんも。この前、謝ってくれたんだ」

「そうですか、それはよかったです」

 そうか、ちゃんと謝れたのかあの人。また頑張りすぎて空回りしなければいいが、まあ美咲ちゃんたちがいるなら大丈夫だろう。

「先輩、約束忘れていないですよね?」

「約束? それってキスした時に結婚しようって言ってくれたあの約束のこと?」

「記憶を改竄しないでください。ASMRを録るって話ですよ」

「まあまあ、ほら飲んで」

 手を使えない俺の代わりに恵先輩がグラスを口元に持ってくる。

「誤魔化さないでください。『敗北委員長のおほ声服従セ○クスASMR』です」

「え〜本当にやるの?」

「当たり前です。試しに出してくださいよ、おほ声」

「んほぉ♡ おっほ〜〜♡ ゛おっ ゛おっ んおっやっべ♡ おっほ」

「お前じゃない」

 天宮がおほ声を連呼しながら近寄ってきた。

「恵先輩いいですか? コツはいかに自信が下品で低俗な獣であるかを認識して思い込むことです」

「えっそんなこと言われても」

「いいからやってみてください。おほ声を出せないとASMR部失格ですよ」

 その理論だとASMR部はお前だけになってしまう。

 グイグイ来る天宮に押されて恵先輩が顔を赤くして俯きながら呟くように言う。

「おほ……おほぉ?」

 先輩が耳がまで赤くしている。天宮のせいで麻痺していたが普通は恥ずかしいよな。今更ながら普通の人の感覚を思い出した。恵先輩に感謝だ。

「ふざけているんですか!? もっとお腹から声を出して!」

 ふざけているのかなんて、こいつにだけは言われたくないセリフランキングトップ3に確実に入るだろう。

「おほっ! おほお!」

「違います! なんですかそれは! オットセイでももっと上手ですよ!」

 オットセイは別におほっているわけじゃないぞ。確かにめちゃくちゃそう聞こえはするが。

「ほらっもっと下品に鳴いてください!」

「おっほおお!」

 先輩が両手の拳を握りしめて搾り出すように叫ぶ。これはこれで可愛い。

「話になりませんね。というか先輩は聞いたことあるんですか? おほ声ASMR」

「えっと律くんに会う前に少し勉強したけど、でもあれ聞くの恥ずかしくてあんまり聞いてないかも」

「わかりました。それじゃあ今から私と一緒に勉強です」

 そう言って恵先輩は部屋の隅に連れて行かれた。


「大変やね、恵先輩」

「いや千春も他人事じゃないぞ。恵先輩と一緒に録ってもらうからな」

「は?」

 千春の目が怖い。しかし怯むわけにはいかない。なんと俺は今回、副部長に決まったのだ。ここはアホの天宮に代わり俺が使命を全うしなければいけない。

「頼む。一生のお願いだ。先輩と一緒に録ってくれ。そしたらなんでも言うこと聞くから」

「なんでも?」

「ああ、なんでもだ」

「そう、ならよかよ」

 一瞬、千春の目が怪しく光ったような気がするが気のせいだろう。なんでもって言ったらダメなんていうが、そんなエロ同人みたいな無茶な要求もしてこないだろうからきっと大丈夫だ。

「千春……今楽しいか?」

 千春と故郷の問題。俺たちにその問題をどうにかすることはできない。だから俺はあの時に山の中で一緒にいたいと叫んだ。そして千春は俺たちと一緒にいることを選び、あの時よりは笑顔も増えた気がする。それでも千春の中の問題が消えたわけではないし時々故郷を想って涙を流すこともあるだろう。そのことがたまらなく心配だ。

「楽しかよ。すっごく楽しい。でも今も時々悲しくなることがあるっちゃん」

「やっぱり故郷に帰りたいと思うか」

「ううん。それはよか。ふと思い出して懐かしくなることもあるけど今はここが楽しかもん。東京に来てよかった」

 それに長期休暇は帰れるしと千春は笑って付け加えた。“東京に来てよかった”か。別にこの街に愛着とかはないつもりだったがそう言われるとすごく嬉しい。俺もいつかこの場所を離れた時にこの場所を懐かしく思うのだろうか。その時は千春の気持ちにもう少し寄り添うことができるといいな。

「じゃあさっき悲しくなるって言っていたのは?」

「うん。いつかね、みんなのいるこの場所がもう一つの故郷になった時に私はどんな気持ちで今を振り返るんやろうって想って。今が大好きやけん、また柳川を離れた時みたいに辛い思いをしたくない。でもきっといつかはみんなもバラバラになってしまう」

 馬鹿騒ぎしている天宮、振り回される恵先輩、それを止める綾乃先輩に笑って眺める御園先輩を遠目に眺める。

「俺も今、同じようなことを考えてたよ。ずっとこのままじゃないし、大人になってこの場所に戻りたくなってそれでもやっぱり戻れなくて悲しくなるかもしれない」

「そうやね」

 千春の顔が曇る。

「でもさ、そういう気持ちになった時も一緒にいるよ。俺だけじゃなくて天宮も綾乃先輩も集まってあの頃に戻りたいって一緒に泣くのも楽しそうな気がするよ」

 千春に笑いかける。つられて千春も笑う。

「それに前にも言っただろ、これからもっと楽しくなるって。だから今はそんな心配じゃなくてさ、楽しもう」

「二人とも話してないで手伝ってくれ! 天宮君が大変なんだ! 痛いっ! 乳を引っ張るなあ!」

  突然呼びかけられて声の方を見ると天宮が笑いながら綾乃先輩の乳を引っ張っている。

「律さ〜ん! あれ? なんで律さんは裸なんですかあ?」

「いや何言ってるんだお前。顔も赤いし……」

 まるで酔ったみたいだな。酔ったみたい?

 机の上を見る。それぞれが持ち寄った飲み物の中にシャンパンが混ざっている。これは!

「御園先輩! ついにやりましたね!?」

「いえ、それノンアルですよ。流石に未成年飲酒なんてダメですから」

 前は普通にワイン出してきただろ。

「恵先輩! 俺、腕が使えないんで天宮を止めー

 部屋の隅にいる恵先輩をみるとイヤホンをして顔を赤くしながらもじもじしている。どうやら俺の呼びかけにも気づいていないようだ。天宮に進められたASMRを聴いているようだが周りからの呼びかけに気づかないなんて素人だな。今度、教育する必要があるな。

「何をしているんだ早く止めてくれ! 乳がもげる!」

 人の乳が実際にもげるところを見てみたい気もするが流石に可哀想だな。そう思っていると千春が止めに行ってくれた。

「ちょっ力強っ!」

「待て!待て! 引っ張るのは天宮君の手を離してからにしてくれ! 天宮君の体ごと、乳が引っ張られてるから!」

「おい天宮、その辺にしとけよな」

 俺も3人に近づく。

「律さ〜ん、だって綾乃先輩のおっぱいが大きいのが悪いんですよ〜。見てくださいよ私なんて」

 そう言って天宮が制服を脱ぎ始めた。

「なんばしよると!? 律も早くあっち向いて!」

「一ノ瀬さん、それはいけませんよ」

「ちょっと痛いですって御園先輩っ!」

 御園先輩が俺の顔を掴んで、天宮を見えないように首を回している。この人、力強っ! 中学時代がどうとかあったが、怪獣とかだったんじゃないか!?

「今、女性に対してあるまじきこと考えませんでした?」

「いえ、、ちっとも! もしかして昔、プ○キュアとかやってませんでした?」

「ふふっ、どういう意味ですか? キュアコブラきめますよ?」

「絶対にやめてください」

「ちょっと、二人で何の話ですか〜?」

「清乃ちゃん! 服ちゃんと着て」

 服の乱れた状態で天宮が絡んでくる。というかくっついてきた。

「おい、あんまりくっつくな」

「ん〜〜」

 ダメだなこれは。外をみるともう暗くなっている。

「綾乃先輩、天宮のこと送ってもらってもいいですか?」

「構わないが、それ剥がせるのか?」

 確かに俺の体をガッツリ絞めている。

「律さんがおぶってくださいよ〜」

「いやだよ。俺、両腕を使えないんだぞ」

「ん〜〜」

 天宮が俺の背中によじ登ってくる。そして足をガッチリと噛んでおぶさっている。そして、寝息を立て始めた。全く自由なやつだ。

「すまないが送ってやってあげてくれないか?」

「そうですね。わかりました」

 まあ起こすのも可哀想だしこの前の膝枕の礼だな。

 そうしてASMR部設立祝賀会はお開きとなった。

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