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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
ASMR制作編
82/251

ASMR部設立!

 生徒会室

「失礼します」

 部屋に入るとメガネをかけた女子が座っている。九重さんだ。会ったのは例の騒動が始まる時にグラウンド以来になる。

 そして、もう一人この部屋に人がいる。奥の大きな机の下で床と布が擦れる音がした。隠れているのか? 天宮や千春は気づいていない。俺は綾乃先輩と目を合わせる。先輩も気付いているようだ。

「すみません、生徒会長はいらっしゃいますか?」

「今はいらっしゃいません」

「ええっとじゃあ、そこの机の下にいるのは」

「机の下? なんの話でしょうか。それよりもあなたたちにはもっと大事な用事があるのでは。そのぐらいの処理なら私一人でできます」

「今回の件、会長に直接会ってお礼を言いたかったのですが」

「……そうですか。まあ、その気持ちだけで十分でしょう」

「これ、今回のお礼です。お金持ちの会長からしたら大したものじゃないかもしれませんが俺たちからです」

 天宮が鞄からラッピングされた箱を取り出す。同好会のみんなで選んだものだ。会長が理事長の子供だと言っても今回の件はかなり迷惑もかけたし部室の防音やダミーヘッドマイクのこともある。ささやかながらのお礼だ。

「それはいったい」

「ASMR特化イヤホンです」

 けっこう値がはったがそこはみんなで割り勘した。チョイスはみんなで話し合ってかなり難航したが紆余曲折あってこれに決まった。というか天宮がゴリ押しした。

「お礼にイヤホン? まあ、ASMR同好会らしいといえばらしいですね」

 九重さんが訝しげな前で見ている。まあ、確かにお礼にイヤホン持ってくるなんてなかなかのセンスだ。

「いらないみたいでしたら、私がもらいますね」

 ガタッ

 天宮の最低発言に反応するように奥の机から音がする。やっぱり誰かいるよな。

「ごほんっ、これは私から会長に渡しておきます。とにかく部の設立でしょう? 早く書類を」

「ああ、はい」

 天宮がさっきの書類を渡す。そして、九重さんがハンコを押す様子を全員で見守る。不思議な緊張感だ。そしての瞬間はあっさりと終わった。

「手続きは以上です。部室は言われていたように宗教部の部室を使ってください。私からは以上です。何か質問はありますか?」

「質問というか一ついいですか?」

 もしも奥の机の下にいるのが会長なら一つ言っておきたいことがある。そうでなくとも九重さんに伝えておくだけでも意味がある。

「今回の件、恵先輩から聞きました。『制度には心が伴わなければいけない』、それで制服のジェンダーレス化を止めていたそうですね。俺も同意です。いい言葉だと思います」

「それが何か」

「部活動の強制加入、この制度に人の心が伴っているとは思えません」

 九重さんは何も言わない。

「そもそも今回の件も、この問題が根にあるように思います。風紀委員会と生徒会の人数の多さ、これは部活動強制加入制度の受け皿の役割を果たしてるんじゃないですか? 急な人数増加で部活がパンクしないようにする役目と部活には入りたくないあるいは入れない生徒が妥協で入る場所としての役目です」

「それが何か問題でも?」

「そしてその人数を統制するためにカリスマ性を持つ会長と恵先輩をそれぞれ頂点に置いた。しかしその歪な組織図が今回の暴走を生んだと考えます」

「つまり今回の件は会長の部活動強制化に責任の発端があると?」

 俺は黙って頷く。九重さんは何も言わずに俺の方をじっと見る。

「あなたがそれをいうんですね」

「それはどういう」

「あなたはその制度によって救われた側ではないのですか」

 九重さんが同好会のみんなを見る。天宮と俺が出会った理由には俺が数少ない部活動未加入の生徒だったこともある。それがなければ俺と天宮は出会わなかったかもしれない。天宮も心当たりがあるのか口をつぐんで黙っている。

 九重さんが場の緊張をほぐすように小さく息を漏らした微笑む。

「今日はもう帰りなさい。こんな日に私のような堅物と揉めたくもないでしょう。このイヤホン、会長に代わってお礼を言います」

「はい、ありがとうございます」

 不意を突かれて反論の言葉が出なかった。それに九重さんの表情や言葉も気になる。もっとムキになってくると思ったが。まあ伝えたいことは伝えたし今日はもういいだろう。せっかくの部活動昇格だ、これ以上空気を暗くしたくない。

 俺たちは生徒会室を後にした。その時、「ありがとう」という声が机の下から聞こえた。


 気づけば朝のHRが近い。このまま部室でお祝いしたかったがそれは放課後になりそうだ。俺たちはそれぞれの教室に向かって歩く。

「一ノ瀬君は時々ああいうことを言うな。急で驚いたぞ」

「すみません」

「いや別に攻めているわけじゃない! 私も同じ考えだ」

「ただこの同好会もあの制度が背景にあるのを否めないのが難しいですね。私がASMR部作ろうとしたのも先生から部活に入れって催促があったのがきっかけですし」

 そうだったのか。そういえば天宮がどうしてASMRを作ろうとしたのかとか知らないな。というかこいつのことをいまだに俺はよく知らない。

「じゃあ、この辺で」

「おう」

 そうして俺たちはそれぞれの教室へ向かった。

「放課後、楽しみやね。なんだかんだでちゃんとみんなで活動するの久しぶりやし」

「そうだな。俺なんかほとんど入院してたからもう俺以外の3人の方が仲良さそうだしな」

「ふふっ確かに」

 放課後は恵先輩も御園先輩も来れるらしい。ついに念願のASMR部、胸を躍らせる自分がいた。

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