後日談(恵先輩)
「先輩、そろそろ布団から出てください」
「ちょっと待ってね! もうすぐ治るから」
あえて何がとは聞かない。
「というか律くんはどうも思わないわけ!? ちょっとひどいんじゃない?」
「いやまあ俺は大丈夫ですよ」
実際はキスのことを思い出して何度もあそこをおっ立てていたがその度に田中さんの罵倒と暴力を受けたので今ではすっかり治っている。こう言うのをパブロフの犬とか言うらしい。いや、これだと田中さんの罵倒と暴力でたつようになるのでは? まあいいや。
「ごめんね、色々と話すこともあるのに」
「まあそうですね。俺から話すことはたくさんありますが、とりあえず棚の紙袋の中身をとってください」
「これ?」
布団に入ったまま棚を開けて、先輩が紙袋をとる。
「何これ!?」
「話はそれをつけてからです。あと喋り方も違います。語尾ににゃんをつけてください」
「いやだよ! 急にどうしたの!?」
「いやいや先輩に拒否権はないですから。勝負の約束を忘れたんですか?」
「鬼畜〜!」
文句を言いつつ先輩が布団の中で例のものをつけているのがわかる。そして先輩がやっと布団を剥いで姿を現した。
「……これでいいにゃん?」
制服姿のいつも通りの先輩、そこに猫耳とズボンから生えた尻尾がついている。恥ずかしそうにもじもじしているところもポイントが高い。
「それにこれは何?」
「にゃん」
「それにこれは何にゃん!」
先輩の手には天宮と千春の欲望が描かれたあのノートがある。そういえば天宮がそこに置いていってたな。先輩がノートの中身を見る。
「これは……」
先輩の顔がみるみる赤くなり顔から蒸気を出して目を回している。
「こんなことできないにゃん!!」
「ああ、もちろんそこに載っていることを全てやってもらうわけじゃないですよ」
「一部はさせようとしてるの!?」
また、にゃんが無くなっている。これは調教が必要そうだ。
「まあ勝負の報酬なのでそれは仕方ないですよ。でも安心してください、今日みたいに同好会の奴らがいない時にするので」
「安心できないよ! それに裸で首輪をつけて校内を散歩、全校生徒の前で土下座と敗北宣言、二度と閉まらなくなるまでお尻を開発、律くんってやっぱり変態だったんだ!!」
「いやそれは俺じゃなくて千春です」
「えっ」
千春の闇を見た先輩の顔が引きつっている。
「まあでも僕、千春ちゃんに結構ひどいことしたし当然かな……」
「えっじゃあやってくれるんですか!?」
「やらないよ!」
先輩も元気そうで何よりだ。変な後ろめたさと感じているようだが、それはおいおいだな。
「まあ、千春も冗談だからそこまで気にしないでください。これからは同じ同好会の仲間なんですから」
「書かれている量が冗談の熱量じゃないんだけど……それに、僕まだ謝れてないし」
先輩の顔が曇る。そうか、まあここは俺や天宮が間に入って仲良くしてもらうのが良さそうだな。
「それに律くんの怪我も相当ひどいんだよね? 僕のせいで……」
はあ、前に千春を助けた時もそうだがせっかく解決したのにこういう暗いのは勘弁してほしい。
「先輩、もし後ろめたさを感じているならこっちに来て奉仕してください」
「奉仕?」
「そこに剥いてあるリンゴがあるでしょう? お腹減ったなあ」
俺はわざとらしく自分の動かせない両腕に視線をやる。
「なんだ、これぐらいなら任せてよ!」
「にゃん」
「任せて……にゃん」
先輩が顔を赤くしながら言う。楽しくなってきた。
「あ〜ん」
「あー」
うん、やっぱり美味しいな。人に食べさせてもらうと尚更だ。
「ああ、さっき布団取られたから寒いなあ」
「えっああごめん、取ってくるにゃん!」
床に放り出されたままの布団を先輩が取りに行く。
「そんな汚れたものかぶれるかあ!!」
「ひっ! ごめんなさい! じゃあどうしたらいいにゃん?」
先輩が怯えるような瞳でこちらを見てくる。なんだかすごくいけないものが芽生えてきているような気がする。
「自分で考えてください」
「そんなあ」
先輩はその場でまごまごした後に意を決して俺のベッドの方へ歩いてきた。
「失礼しますにゃん」
「えっ先輩何を」
先輩が俺のベッドの中に入ってくる。
「これであったかいにゃん?」
先輩が布団の中で俺の体に抱きつく。これはすごい。すごくいい気分だ。ああ、今回頑張って本当に良かった。
「あっ♡またきちゃうかも。やばい♡」
「えっ先輩、またですか?」
恵先輩が俺の布団の中でモゾモゾし始める。あんまり動かないでほしい。俺のあそこも刺激されて色々とやばい。思い出せ、田中さんの致死量の罵倒を! しかし、俺の意に反して体が反応し始める。
「ま、まあ及第点というー」
!? ドアの前に誰かいる。というか誰かじゃなくてこれは天宮たちだ! なぜこんなに近づくまで気づかなかった!?
「先輩、一回離れー
「サプライズですよ! 寂しがりの律さん!!」
ドアが勢いよく開く。
「……」
「……」
ベッドの上で猫耳をつけた先輩に抱きつかれている俺。それを見る天宮と目があう。隣の千春や綾乃先輩からも冷たい視線を感じる。
「死んでください」
「はい」
今の怪我の状態だと割と洒落にならないのでは? そう思ったが何も言い返さないことにした。流石にこれは言い逃れできない。というか完全に俺が悪い。