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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
77/253

後日談(恵先輩と美咲ちゃんと椿先輩)

 同好会のみんなが来てから数日後。

「失礼します」

 恵先輩と美咲ちゃん、椿先輩が入ってくる。この組み合わせで来るのは何となく意外だ。3人が実はプライベートで仲がいいという話も聞かなかったが。

 そしてなぜか恵先輩の姿は美咲ちゃんと椿先輩が壁になって隠れている。

「今日はわざわざありがとうございます。どうぞ座ってください」

 ベッドのそばの椅子に案内するが、3人は動く気配を見せない。

「いや、このままでいい」

「いやでも積もる話もあるし」

「勝手に喋るな。私たちが妊娠したらどうするつもりだ、このレ○プ魔」

「えっ」

 いきなり罵倒された。天宮たちといいその呼び方は勘弁してほしい。助けを求めるように椿先輩の方を見る。椿先輩が微笑み返してくれた。しかし何も言わない。

「あの、とりあえず例の件は協力してくれてありがとうございます。ふたりの協力がなければまず勝てませんでした」

「礼はいらない。私たちが勝手にやったことだ」

「それでもです。それに椿先輩がいなければ梅野に刺されていたかもしれません。命の恩人です」

「そんな、言い過ぎだよーえっ? やっぱりだめ? 美咲ちゃん、やっぱりダメだって」

「えっ、声だけじゃないですか!? それでも?」

 後ろの恵先輩と二人が何かゴニョゴニョ話している。二人が壁になってよく見えないが恵先輩がもじもじしているのがわかる。

「ええっと、今トイレに行くわけにもいかなし、部屋の隅っこにいてください。おい一ノ瀬、布団貸せ」

 そう言って俺のベッドから掛け布団をはぎ取り恵先輩にかける。

「いや何してるんですか?」

「お前のせいで色々と大変なんだよ」

 二人が恵先輩を隠すように付き添い部屋の隅に行く。そこで恵先輩は布団を被ったままいじけた子供のように座り込んでしまった。

「あれはいったい?」

「うるさい。黙れ。あとお前の下品な盗聴スキルも使うなよ」

「俺の聴力のこと、盗聴スキルって言いました!? 一体何ですか!? 説明してくださいよ!」

「断る」

「椿先輩!」

「私もこれはちょっと……」

 もうめちゃくちゃだな。まあいいや。とりあえず恵先輩のことはほっといて二人と話そう。

「おふたりは今も風紀員会に?」

「まあな。風紀委員長補佐を二人でやってる」

「えっ! 二人がどうして!? 出世じゃないですか」

「そんないいもんじゃない。押し付けられたんだよ」

「押し付けられた?」

「今回の件で生徒会の手が入ってな。予算カットともに組織改革が行われたんだ。そこで委員長補佐を二人作ることになってな。梅野は論外としてコミュ障の桜木さんとポンコツの菊門寺先輩も役に立たなそうということで私たちに白羽の矢が立ったんだ。まあ暴走した風紀委員会で唯一、同好会側に回ったからというのもあるが」

「へえ、それはそれは。ということは恵先輩は風紀委員長のまま?」

「そうだ。流石にそこを抜くと組織が回らないからな。でも委員長の仕事はほとんど私と椿先輩がやってる。委員長は同好会を優先するように言われているし、今はあんな状態だからな。この前の後始末もあるし、おかげで激務の毎日だよ」

「なんかすみません」

「お前が謝るな。身から出た錆だ」

「でも風紀委員会の人はそれで納得したんですか? 裏切ったとも言える二人に対しての風当たりとかあるんじゃ」

「まあないことはないが、たいしたことない。ボロボロのお前と恵先輩、凶器を持った梅野、あれを見て冷静になったやつがかなり多い。それに例の制服のジェンダーレス化が認められたのがでかいな」

「えっ! 結局認められたんですか!? なんで急に」

「それは僕が説明するよ」

 布団を被ったままの恵先輩のベッドの近くの床まで這ってきていた。顔はおろか体も全く見えないまま喋るのでなんだか布団が話しているみたいだ。

「それで急に何で認められたんですか?」

「これは話すと複雑なんだけどーんっ♡」

「?」

 今、妙な声が聞こえた気がする。美咲ちゃんと椿先輩も明後日の方向を向いているから気のせいかもしれない。

「もともと何が問題かというと、制服のジェンダーレス化を風紀委員会の要請に従って認めた場合、僕が見せ物になってしまうことにあったんだ。それで生徒会長が止めてくれたんだよ」

 申請が通ったにも関わらず恵先輩がそれを着なければ風紀委員会の奴らは納得しないし、その原因を他人や社会に求めてさらに激しい活動を行う可能性があった。だからと言って先輩が着れば理解の進んでいない人たちの好奇の目線に晒される。

「でもそれが何で今」

「あのあと、梅野ちゃんとちゃんと話したんだ。ありがた迷惑だってね」

「なるほど」

「結構ショック受けてたみたい。まあでもそれで制度が導入されても僕が着る必要もないから制度が導入されたんだ。というか風紀委員会が言う前から動き自体はあったみたい」

「導入させようとする動きがかえって制度を先送りにしたと……皮肉ですね」

「んっ♡やっぱりだめ♡隅に戻るね」

 そうしてモゾモゾと先輩が部屋の隅に戻っていく。さっきから変な声出てるけど何なんだ。

「まあお前の気になることはこの辺だろ」

「まあ、はい。」

「じゃあこっちから色々と言いたいことがある」

 そう言って美咲ちゃんが鞄から紙を取り出す。こういう時に出される紙にいい記憶がないので警戒する。

「何ですか、それ」

「これはみんなから預かっている伝言や苦情だ。読むぞ」

 どうせほとんど苦情だろ。

「このレ○プ魔! 先輩の処女を返せ! 風紀委員会一般女子より」

「いや何の話ですか!?」

 というかやっぱり苦情じゃないか。

「何ってお前、覚えてないのか。例のキスの件だよ。私は気絶してたから知らないが、結構やばいぞあれ。学校に戻ったら色々と覚悟しておいたほうがいいだろうな」

「他にも来てる。これは……謝罪だな」

「へえ、わざわざそんな人まで。風紀委員会も捨てたもんじゃないな」

「今回は同好会の皆さんに迷惑をかけてごめんなさい。今回の件で私もとても反省しました。負けも認めます。なのでどうか先輩のお尻の処女の感想だけでも聞かせてください。風紀委員会一般女子より」

「そいつ絶対に一般じゃないからな! くそっやっぱりダメだな風紀委員会は」

「まだまだあるぞ。律メグ、メグ律、どっちも捨てがたい。匿名希望より。なんだこれ? 最近よく委員会内で聞くが意味がわからん」

「美咲ちゃんはどうかそのままで。あとそれを伝言で本人に伝えるやつは見つけ出してクビにしたほうがいい」

 美咲ちゃんが紙をめくりさらに続ける。

「私が頑張って作った装置をよくも……末代まで呪ってやる。水野菖蒲」

 俺が蹴り上げて椿先輩が撃ったあれか。椿先輩が半泣きで震えている。まあ確かにとどめはこの人だしな。よし、俺は無関係ということにしよう。

「例の音声データは消したのか!? ちゃんと消したよな! 風紀委員会副委員長匿名希望より」

 バレバレじゃないか。ちなみに柔道場での菊門寺先輩のNTR漫画への熱い気持ちは今も俺のスマホに保存してある。腕が治って覚えていたら消そう。覚えていたら。

「しばらく山で修行する。探すな。桜木桜花」

 御園先輩に負けたの悔しかったのかな。右腕を怪我してたら仕方ないと思うけどな。

「以上だ。ちなみに半分近くの恨みの手紙は怪我人のお前に配慮して捨ててある。よかったな」

 いやよくない。学校に復帰してすぐに病院送りなんて洒落にならないぞ。そんなことになったら俺と田中さんのラブコメが始まってしまう。

「じゃあ私たちは帰るから。そこの委員長のことは任せた」

「いや困る! 本当にどうしたんだこれ!?」

「私たち、一応女子だぞ。言わせる気か?」

「は? どういう意味ですか?」

 美咲ちゃんが頭をかきながらため息をつく。

「ったく世話のかかる。いいか? あれ以来、お前とのキスを思い出して色々と大変らしい、色々と疼くというか火照るというか。まあ、あとは自分で考えろ」

「優しくしてあげてね?」

 そう言って二人は出てこうとする。

「ちょっと待ってよ二人とも!」

「ダメです」

 恵先輩が二人を引き止めようとするが無慈悲にドアが閉められる。

「あと、お前また途中からタメ口だったな。学校に戻ってきて居場所が欲しければ相応の態度があるんじゃないか?」

 出ていく直前、悪い笑みを浮かべて美咲ちゃんが言う。バレてたか。

「すみません、どうか集団暴力だけは勘弁を」

「冗談だ。早く元気になって学校に来い」

 そうして二人は本当に帰って行った。恵先輩と二人きりになった。

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