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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
71/252

涙きらきら

先に仕掛けたのは先輩。例の抜刀攻撃が俺を襲う。しかしいつものキレはない。それをクナイで受け止める。

「……僕はどうしたらよかったと思う?」

刀を合わせた状態で先輩が聞く。

「わかりません。でも、それを聞くべき相手はすでに周りにいたんじゃないですか?」

先輩が静かに頷く。

「そうだね。君の言う通りだ。桜木くんも唯花ちゃんも相談すればきっと協力してくれた。でも出来なかった」

「どうしてですか?」

先輩が再び刀を振る。それに合わせて俺もクナイで受ける。激しい応酬の中、先輩はなおも語り続ける。

「怖いんだ。本当の僕を知られるのも、悩みを打ち明けるのも。君ならわかるだろ? 助けを求めるのってすごく難しくて、恐ろしいことなんだ」

俺は天宮に助けてもらった。でもそれは俺から助けを求めたわけじゃない。俺はたまたま助けられたんだ。それまで俺もずっと1人だった。

「ねえ、じゃあさ律くんが僕を助けてよ。 私を助けてよ! 私のヒーローになってよ!」

先輩の顔は悲痛に歪んでいる。襲いくる斬撃が苛烈さを増す。

「先輩はどうなりたいんですか?」

「千春ちゃんも君も同じことを! そんなの……!」

俺には先輩の苦しみはわからない。俺は生まれた時から男でそのことに疑問を抱いたこともない。だから恵先輩の助け方を知らない。

俺はいつもヒーローにはなれない。

「じゃあなんでスカートを履くのを嫌がるんですか!」

攻撃が重い。すでに催眠は切れなぜ動けているかもわからない。

「私がスカートを履いたらきっと周りを混乱させる! 風紀委員会自体を見る目も変わるかもしれない。ジェンダーレス制服の導入を私のために風紀委員会が強引に押し進めたと知られれば風紀委員会の子達が嫌な思いをする! そんなこと僕は望んでない!」

「風紀委員会の人たちはきっとそんなこと気にしない!」

「それでもだ! 僕は普通のふりをすることを選んだんだ! 本当に心の底からそれでいいんだ」

先輩の苦しみを社会の所為にするのは簡単だし、やはり悪いのは社会だと思う。先輩がスカートを履くことを許さない人間がいなければきっと先輩はもっと自由だ。ただし、人間はそうではない。人も社会もすぐには変われない。その中で普通のふりをすることを選んだ恵先輩の選択は絶対に否定されるべきではない。

だがー

「じゃあなんでそんなに苦しそうにしているんですか!?」

夜が明ける。東の空が明るい。

飛び散った先輩の涙がその光を反射して輝く。

「そんなの決まってる!普通に生きて普通の恋愛がしたかったからだ!」

先輩の渾身の一撃で俺はのけぞる。だがまだ終わらない。すぐに体勢を戻す。

「ならすればいい! 相手が男でも女でもきっと本当に愛してくれる人が

「簡単に言わないで! それがどんなに難しいかも知らないくせに!」

武器ももう限界が近い。間違いなく俺より先にクナイが壊れる。

「難しいかもしれないけど! でもきっとどこかに相手がいるはずだ! 男だからとか女だからっていう理由で自分を諦めるな!」

先輩は顔を真っ赤にして泣いている。そして、訴えるようにに俺に叫ぶ。

「でも君は私のことを選ばないでしょ?」

聞こえる心から振り絞るような苦痛に満ちた言葉。その気持ちはいったい男と女のどちらに分類されるだろう?

俺は高梨恵を見る。

「さっきから聞いてれば好き勝手言いやがって!」

一つ許せないことがある。それはさっきから勝手に俺の気持ちを決めていることだ。

「俺が恵先輩を選ばない!? 誰がそんなこと決めた!」

「だってそうでしょ! 天宮ちゃんも千春ちゃんも綾乃ちゃんだっている! 最近は美咲ちゃんも! そんな中でどうして僕を選ぶの!? 選ばないでしょ!!」

「ああ、そうだな! 俺は恵先輩を選ばないかもしれない!」

刀を握る先輩の手に力がこもる。

「それは恵先輩が男だからかもしれない!」

刀が頬をかすめ血が宙に舞う。

「それは恵先輩が後輩想いで風紀委員のことが大好きなお人好しだからかもしれない!」

人が何を以って人を好きになるのか。あるいは何を以って好きにならないのか。そんなことは当人でもきっと知る術はない。仮に知ることができたならそれはきっと愛ではなく打算だ。

「何が言いたいの!?」

人生の全てを性別とか生まれとか何か単一の要素で判断してしまうのはとても悲しい。それはきっと誰かの愛も自分の努力や成功も否定してしまうことになるから。

「教えてあげますよ! その体に直接!」

そんな悲しい考えに取り憑かれた恵先輩には俺の必殺技をやるしかない。

先輩に一気に距離を詰める。そこを刀が襲うがクナイで受ける。途端にクナイを砕け散った。

「ちょっと! 何して!?」

武器が壊れても構わない。俺はそのまま先輩に飛びつく。そして先輩に抱きついた。

「何のつもり! 離して!」

先輩が俺の胸の中で暴れる。

「離しません。いいですか? よく聞いてください」

「何を!? いまさら話すことなんて!」

「俺は先輩に欲情できます。というかしてます」

「はあ!?」

先輩がぴたりと動きを止める。先輩の頭に手を回しより強く抱きしめる。

「煙幕の中で抱き合った時も先輩が俺の耳を責めてきた時も抱きついている今も興奮してます」

「本当に何言って!?」

これだけ言ってもまだ伝わらないらしい。ならこうする。

俺は先輩の顎に手を当てる。


「あら?あれはすごいですね」

「むっ! 何のつもりだ一ノ瀬律……!」

「律さん! 止まってください! 私からも見えてますよ! インカム繋がってるでしょ!」

「律! こっちからも見えとる! なんばしよると!? だめやけんね!」

インカムが騒がしい。というか、後ろで御園先輩と戦っていた風紀委員会が大慌てしている。しかし構わない。

「ちょっと!? 何しようとしてるの!? 待ってダメだから! ねえ聞いてる!?」

騒ぐ先輩の唇に口付けをする。ついでに舌も入れる。

「んんん!? ちょっ! んっ♡ だめっ、本当におかしくなっちゃう。 んんっ♡」

「ぷはっ。これでわかりましたか。俺は先輩のことばちばちに恋愛対象ですし、こういうこともしたいと思ってます」

「わけわかんないよ!」

先輩が耳まで真っ赤にして目をぐるぐる回している。そうかわからないか、なら仕方ない。もう一度キスをする。

「んんっ♡ ぷはっ、本当にだめ!みんなも見てるのにんんっ! わかったから! わかったから!もう許して!」

先輩が俺の胸を両手で押す。わかったならいい。だけどあれだな。先輩を説得するために仕方なくキスしたと思われないだろうか。非常に心配だ。ということでもう一度、先輩にキスした。

「んんっ!? 本当になんでっ! ンッ♡ プハッ、あっ♡だめだ腰抜けた」

先輩の全身から力が抜ける。先輩は完全に放心状態だ。俺も満足した。これで全て解決ーー

とはいかないようだ。

本校舎からこちらに向かって歩いてくる人影がある。梅野楓だ。

「お前、自分が何をしたかわかっているのか。よくも委員長を汚したなっ!」

手には警棒ではなく包丁が握られている。家庭科室から持ってきたのか。比べて俺は丸腰、体も満足に動かせない。

場に異様な空気が流れた。

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