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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
67/251

誤算

 東校舎 本校舎において高梨恵と一ノ瀬律の戦いに決着がついたしばらく後


「……委員長は……西校舎か」

 無線で高梨恵が西校舎に向かったと連絡が入る。村上千春が現れたという連絡が西校舎から入ったのだ。しかし桜木桜花は別に自分一人で東校舎を落とせばいいかと考え、そのまま東校舎に向かう。そのことに僅かに違和感を覚える。


 桜木桜花が東校舎に到着した。

 東校舎の一階に到着して違和感の正体が明らかになる。

 “どうして東校舎はいまだに落ちていない?”

 東校舎には1部隊と西校舎の人員の一部が援軍に来ている。しかし、2時間以上経った現在においても東校舎が落ちたという連絡は入っていない。

 しかし、桜木桜花の目の前の光景がその理由を物語る。

 東校舎の一階、床に伸びている隊員たちの姿。その場で最後の一人が御園マリアにハンドクローを喰らって意識を失っている。

「……なんだお前」

「あら? あなたが噂の桜木さんですか? ふふっ、ずいぶんな姿ですね」

「……」

 桜木桜花が咄嗟に武器を構える。体育館でなんとか回収しが、右腕は使えないため左手でそれを持つ。

「あなたが綾乃さんを倒したんですね」

「……ああ」

「それはいけませんね」

 御園マリアが構える。手にはメリケンサックがはめられている。

「とても聖職者のする武器には見えないな……」

「ふふっ、まあ昔の名残です。久しぶりに着けましたがやっぱりしっくり来ますね」

「……」

 桜木桜花が一瞬で距離を詰める。そして、大剣を振り上げる。加減はしない。加減をするべきではないと彼の中の直感が訴える。

 ドッッ

「ぐっ……」

 大剣を振り下ろすよりも早く御園マリアの拳が桜木桜花の腹に食い込む。今まで多くの攻撃を物ともしなかった彼の体が後ろによろめく。

「これは……!」

「いいですね。とてもいいサンドバッグです。今までいらっしゃった方は加減が難しくて大変だったんです」

 周りに倒れている隊員たちには全員に目立った外傷がない。

「神はおっしゃいました。“人の血を流すものは人に血を流される“と。なのであなたは”撲殺“します」

「……」

 再び御園マリアが拳を構える。桜木桜花に久しく緊張が走った。それは去年、熊と対峙した時以来のあるいはそれ以上の緊張だった。右腕を使えない状態でこれと戦う。風紀委員会随一の戦闘力を持ち、それを誇りにさえ思っている彼に応援を呼ぶという考えが一瞬よぎる。

「本気でいく……」

「どうぞ。私も加減しませんから」

 再び両者がぶつかる。今度は素早く大剣を振り下ろすが右の拳で跳ね返される。

「ありえん……!」

 相手の多少の怪我があっても仕方ないと思って放った本気の一撃。右腕が使えない状態でも人間一人に重傷を負わせることなど造作もない。しかしその一撃を受け止めるどころか跳ね返している。

 そして、そこにできた隙を狙って左拳が桜木桜花の腹に食い込んだ。今度は後方に大きく吹き飛ぶ。

「……これはまずいな」

 武器を捨てる。右腕が使えない状態でこの武器を使うには速さが足りない。もし攻撃を避けられれば、その間に何度殴られるかわかったものではない。

 桜木桜花も拳を構える。

「天宮さん、彼は倒してしまってもいいんですよね?」

「えっ! そんなに弱っているんですか!?」

「ええ、とても。この状態では蚊の一匹も殺せないでしょう」

「貴様……」

 桜木桜花の闘争心に火がつく。右腕が使えない状態とはいえ、女子生徒一人に負けたなど報告できるはずがない。

 全力の拳を御園マリアに奮う。これを御園マリアは両腕で受け止めた。体育館での拳でさえ少しの加減があったが、こっちは本当に全力の一撃。コンクリの壁に穴を開けることだってできる。それを防がれた。桜木桜花の額に汗が滲む。

「まずーぐふっ!」

 相手の回避を前提とした攻撃、受け止められるという想定のない一撃は隙が多い。顔面と腹に重い一撃が入る。

「本当に弱いですね。期待はずれです。まあ仕方ありませんか、その怪我ですし」

「舐めるなよ……女といえど加減はしない」

 重い攻撃を喰らったが引かずに攻撃を加える。激しい攻防がなされる。怒りで体には今までにないほどの力が入り動きもずっと早い。彼のこれまでの人生において最調子がここで引き出される。それに御園マリアも合わせてギアを上げる。

 ドンッ ビリビリ ドッ

「東校舎、どうなってるの!?」

 西校舎まで響く轟音を気にして高梨恵が無線を飛ばす。返事は来ない。しかし桜木桜花が負けるはずがないという確信から村上千春の追跡に戻る。

「なぜ、ついて来れる……!」

「あなたが遅いからでは?」

 御園マリアの挑発でどんどんペースが上がる。彼はほとんど使えない右腕をなんとか動かし、防御に使う。そして左腕で攻撃をし続ける。何発かが御園マリアの体を掠めるが致命傷には遠い。そして、御園マリアも彼の恐ろしい耐久力に驚いていた。自分の何発も拳を喰らって立ち続けている。

「本当は千春さんを助けに行きたいのですが」

「そうはさせない……」

 高梨恵は東校舎において何らかの時間稼ぎが行われるだろうと考えていた。それも踏まえて桜木桜花は突破して、ゲームが終わると。しかし、実際には桜木桜花が御園マリアという怪物を西校舎に向かわせまいとする戦いが繰り広げられていた。

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