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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
66/252

本校舎の戦い(決戦)

 煙幕の中、先に仕掛けてきたのは恵先輩のほうだ。

 カチャ

 まだ少し遠い!体を素早く後ろに逸らす。

 鼻先を刀身が掠めた。

「っぶな!」

「惜しい!」

 刀の勢いで煙幕が部分的に晴れ、互いの顔が見える。刀を振った後の隙をついてすかさず間合いに入る。しかし即座に刀を返され、それを避けるために後退する。再びお互いの姿が見えなくなった。

 あの抜刀後の刀を返す動きもおそらくセットになっているのだろう。全く隙がない。

 キンッ

 刀が鞘に納まる音がする。再び抜刀の構えを取られた。

「来ないの?」

 さっきは奇跡的に避けることができたが今度はわからない。飛び道具もない。だが、このまま受け身にまわっていたらいつかはあの抜刀をくらう。

 こちらから仕掛ける。恵先輩の方にクナイを構えて走り込んだ。

 カチャ

 先輩はぎりぎりまで俺の姿が見えない。頭を守りながら身を屈めて突っ込む。そうすれば、元の頭の位置に刀を振れば空振り、元胴体の位置に振ればガードができる。

 そして唯一警戒すべきはー

 足!

 ヒュッ

 すかさずジャンプして回避する。足を狙えば刀を振る位置が必然的に低くなる。的を絞った状態であれば音の位置を考えて十分に対処できる。

 先輩がさっきと同様、刀を返してくる。しかし、この攻撃は抜刀時と比べて威力が低い。

 できるだけ刀の持ち手に近い位置を全力で叩く。

「っ!」

 刀が先輩の手を離れ、横に飛んだ。

 いける!

 先輩の顎に狙いを定める。さっきと違い、戦闘中の攻撃だ。容赦はしない。トドメをー!

 ガキンッ

「!?」

 恵先輩が短刀で俺のクナイを受け止めている。懐刀を仕込んでいたのか!?

 だがこのチャンスを逃さない。息つく間もなく攻撃を叩き込む。

 俺もダメージで消耗しているが、先輩も俺との鬼ごっこで体力を消耗している。ここで決めたい。

「激しいねっ! ここで決めるつもり!?」

「今ここで先輩を倒して東校舎に行かせてもらいます!」

 攻防は俺がやや優勢。先輩を押し込む。さっき刀を飛ばした場所がずいぶん後ろだ。

「ここで終わらせます!」

「いいね。お互いに全力だ」

 全力を込めた一撃。懐刀を大きく弾く。

 もう武器はない! 勝てる!

 トドメの攻撃を繰り出すと同時


「防いでね」


 恵先輩の声。

 腹に重い衝撃が走る。腹に先輩の蹴りがめり込んでいた。俺は大きく後方へと吹き飛んだ。


「かはっ」

 なんだ今のは……! 鈍器で殴られたような重い一撃。立ち上がれない。

「もろだね。知らない? 刀術ずっとやってる人って刀を持ってない時の動きもできる人多いよ。身体の使い方も根は一緒だし」

 先輩がさっき飛ばした短刀を拾っている。クナイはさっきの衝撃で飛んだ。武器は……。

 手元に最初に飛ばした先輩の刀がある。俺はけっこうな距離を蹴飛ばされたらしい。その刀をとって立ち上がる。

「まだやるの? もうしんどいでしょ。降参したら?」

 先輩の言葉に応える余裕はない。刀なんて触ったこともないがそれっぽく上段に構える。リーチはこっちの方が長い。まだ負けてない。

「はあ。あんまり痛めつけたくないんだけどな」

 先輩が走り込んでくる。足音を聞き分けて間合いに入った瞬間に刀を上から振り下ろすが、手応えはない。同時にまた体が後ろに飛んだ。


 カチャカチャ、カチャカチャ

 腰の鞘に刀を納めた先輩が近づいてくる。

 ここは……外?

 俺は気付けば東校舎に続く渡り廊下に出ていた。正確には先輩に蹴り出されたのだが。

「2回もあの蹴りをくらってまだ意識あるんだ」

 本校舎から出たためもう煙幕はない。互いにはっきりと姿が見える。距離は1mちょっと。

「はいこれ」

 先輩が這いつくばる俺にクナイを投げ渡す。

「さっきの蹴りは不意打ちみたいなところもあるし。正々堂々決着をつけよう。ほら立って」

「……わざわざどうも」

 促されるままクナイを持って立ち上がる。足元がおぼつかない。

「……じゃあいくね」

 先輩が抜刀の構えをとる。そこに走り込む。ここで這いつくばっていてもどうせ負ける。なら一か八かここに賭ける。

 頭を守って姿勢を低くする。

 カチャ

 抜刀時の音。構えはかなり低い。足元に来る!

 素早くその場で飛ぶ。


 ーしかし攻撃は来ない

 先輩は刀を抜いていなかった。わざと音を鳴らし、構えを低くしてこの状態になるように誘ったのだ。

 空中で避けることはおろか攻撃を逃すこともできない無防備な状態。

 ヒュッ

 恵先輩が悲しそうに笑うのを最後に見た。

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