東校舎へ
本校舎
「綾乃先輩!」
体育館から爆発音と物が崩れる音が聞こえる。一体何があったんだ。
「ふふっ、どうする?」
綾乃先輩を助けに……いや桜木先輩の向かった東校舎に行くべきだ。
手に力が入る。クナイをしっかりと握り振りかぶる。
恵先輩の顔を見る。
「殴るの?」
―殴るのか。他の子達にやったように顎を狙えばダメージを抑えて気絶させられる。無謀にな状態でそれをやるのは気が引けるが今は……
「……」
恵先輩が抱きついたまま俺の目を見る。俺はクナイに込める力を緩め振りかざした手をゆっくりと下ろした。。俺はこの人と戦ってはいるが争っているわけではない。
「殴りはしません。ただ、こっちも仲間の安全がかかっているので多少強引な手を使わせてもらいます」
恵先輩に憎しみがあるわけでもない。だから相手が無防備な状態なら攻撃はしない。しないがー
「ふ〜ん、いったいどんな手をーひゃっ! ちょっと、何してるの!?」
先輩のズボンのベルトに手を伸ばす。意外と他人のベルトを外すのって難しいな。
「ちょっとやめて! 怒るよ!」
「いやです、勝負ですから。あとあんまり動かないでください! 下半身が擦れてその変な気持ちになりますから!」
「何言ってるの!? ならやめてよ!」
「いえ勝負なので」
「そこだけ真面目なのなんなの!?」
そうこれは勝負だからやっているのであってやましい気持ちなんてものは全くない。先輩の頭が胸元に擦れても、そこからいい匂いがしても、お互いの股間の感触が伝わっても全く変な気になったりなどしないのだ。
「おい! さっきから何をやっているんだ!? 委員長に変なことをーぐっ!? 邪魔するな杜若!」
梅野は美咲ちゃんが相手してくれているらしい。西校舎に向かった敵も煙幕の中で削ってくれていた。本当に頭が上がらない。
「俺も頑張らなくちゃな」
「何を頑張ってるの!?」
よし、ベルトが外れた。先輩のズボンを脱がす。
「ボクサーパンツですか」
「バカっ!!」
頭突きを喰らう。しかし、その瞬間に拘束が緩んだ。恵先輩を押し除ける。
「ちょっ! うわっ先にズボン履かなきゃ!」
先輩がズボンを履き直している間に東校舎に向かって走る。
天宮! 御園先輩! 無事でいてくれ。
後ろからズボンを履き直して刀を持った恵先輩が追ってくる音が聞こえる。このまま東校舎に向かっていいのか。だが、御園先輩と天宮しかいない東校舎に桜木先輩が行けば二人とも一瞬で捕まってしまうだろう。
「天宮! 御園先輩! 今そっちに桜木先輩が向かっています! 俺も行きますから逃げてください!」
「でもそれじゃあ律さんが二人を相手にすることになります! 桜木先輩はまだきていませんから別の案を!」
「別の案!? そんなのないだろ! あの人がフリーになった以上はもう俺たちには逃げる選択肢しかない!」
「なら私も一緒に!」
「だから! 天宮はー」
「二人とも喧嘩はいけませんよ」
御園先輩がインカムで割って入る。
「御園先輩! 御園先輩も早く逃げてください!」
「落ち着いてください。逃げるのは桜木という男の状態を見てからでもいいのではないですか? それとも一ノ瀬さんは綾乃さんが何の爪痕も残さずにあの男に敗れたと考えるのですか?」
「それは……」
言われてみればそうだ。あの大きな爆発音もおそらく綾乃先輩の武器だろう。あんなに強くて責任感もある人がただ負けて終わるなんてことがあるだろうか。
御園先輩のおかげで冷静さを取り戻す。
「天宮、声を荒げて悪かった。ぎりぎりまで様子を見ていいがもし無理そうだったらすぐに逃げてくれ。いいな?」
「わかりました。律さんも気をつけて」
「ありがとう」
本校舎の東校舎に続く渡り廊下手前で立ち止まる。この場所でも十分に煙幕が効いている。
「あれ? 東校舎に行かないんだ」
「まあ、仲間がいるので」
「そう……じゃあいいよ。いい加減ここで君を倒す」
「いいですよ」
恵先輩は視野を確保できていないため、なんとなくでしか俺の居場所はわからない。比べて俺は音で恵先輩の場所や動きがわかるが、近づけばあの抜刀攻撃の餌食になる可能性も十分にある。
だが、この俺に有利な場所で勝てなければずっとこの人を倒すことはできない。
ここで決着をつける。
互いに武器を構えた。