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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
64/251

体育館の戦い(決着)

 体育館 開始から2時間


 あの巨体であの俊敏な動き、反射神経、直感力、どれも人間離れしている。さっきからは慣れてきたのかこの煙幕の中でクナイを避け始めている。こいつだけはみんなの元に行かせるわけにはいかない。

 本当は武器だけでなく奴自身を拘束したかったが奴の動きを見る限り難しそうだ。

 だが、私の仕事はこいつをこのままここに留めておくこと。この調子ならー!

「ぬっ」

 煙幕の中から手が伸びてくる。それを慌てて避ける。

 私の位置を探り当てた!?

 不可能だ。隠遁の術を使っている私の位置を視界が塞がった状態で当てるなんて芸当、一ノ瀬君を除いてできるはずがない。そして1週間の訓練の中でわかったが彼の聴力は本当に異常だ。成人向けASMRをちゃんとした音量で聴きながら周りの音を聞くのはかなり難しい。彼の異常なASMRへの執着と両親への恐怖がそれを可能にしたのだ。

 この男にそれほどの聴覚があるとは思えない。もしもこの煙幕の中で私の居場所を察知できるなら2時間もこんなところで時間を潰しているはずがない。

「どうした……クナイを投げないのか……」

「……」

 どうする。クナイは高速で移動しながら投げているからそれで居場所がバレることはないはず。だが、この男は私の居場所に向かって腕を伸ばしてきた。今、クナイを投げるのは私の居場所を教えることになるかもしれない。

「攻撃してこないなら……俺は東校舎にでも向かうとするか……」

「くっ」

 クナイを投げる。壁に当たる音がする。

 ゴッッ

「っ!!」

 太い腕が体を横から打ちつける。ギリギリで防御姿勢を取ったが、衝撃で体が体育館を跳ねる。

 まずい、早く動かないと!

 煙の中から拳が現れる。

 体を捻って避ける。彼の拳が当たった床は彼の拳の形にへこんでいる。

「避けたか……」

 すぐにジャンプして体育館の2階ギャラリーの手すりに捕まって様子を

 ボッ

 上!?

 今度は防御が間に合わない。上からハンマーのように振り下ろされた拳が背中に直撃する。「ぐっ……」

 床に思い切り叩きつけられた痛みでうまく呼吸ができない。奴は一体どこから2階に。まさか、ワイヤー伝ってきたのか!?化け物め。

 こちらに近づいてくる足音がする。

「加減はいらぬと思ったが……やりすぎたか……」

「かはっ はあ、はあ、あまり舐めないでもらおう。このぐらいでへばるような鍛え方はしていない」

「そうか……ならばいくぞ」

「ちっ」

 ドゴンッ

 爆発音が体育館にこだまする。奴の拳がさっきまで私がいた場所を抉っている。

「なんで居場所がわかる!?」

「ならお前はなぜ俺の居場所がわかる……」

 私はこいつの気配を察知しているから……まさか、こいつ!

「2時間……俺がただ受け身で立ち尽くしていると思ったのか」

 この2時間で敵の気配を察知できるようになったというのか!? そんなバカな。

 再び拳が飛んでくる。咄嗟に避けるが掠った頬から血が出る。

「もはや逃げ隠れは無意味……かかってこい」

「いいだろう。とっておきを食らわせてやる」

 クナイを捨て再び両手に刀を構える。奴は依然丸腰、十分に勝てる。

 煙を退けて飛んでくる拳を刀で受けつつ思い切り引いて切りつける。しかし紙で手を切った時ぐらいの目に見えない傷が入るばかりだ。

「そろそろ本気で行くぞ…」

 横から蹴りがくる。それを刀で受けると同時に正面からパンチが繰り出される。体をのけぞって避ける。そして後ろに飛び距離をとるが

「ぐうっ!」

 一瞬で距離を詰められ、再び殴られる。パンチと蹴りのテンポが段々と上がり、もはや捌ききれない。致命傷は防いでいるが肩や足に時々当たるそれらが確実にダメージになっている。

「はあ、はあ、ぐはっ」

 正面から飛んできた拳の勢いを殺しきれずにに体育館の壁に叩きつけられる。

「もう終わりだな……」

「バカを言うな。私は同好会の先輩だぞ。こんなところでやられるわけにはいかないだろう」

「そうか……せいぜい防いで見せろ」

 とどめと言わんばかりの全力の拳。私はそれを避けない。全身の力を両腕に集めてそれを受ける。

 ドゴォォォン

「かはっ」

 あの人間離れした攻撃を正面から受けた腕からはもはや痛みはしない。防ぎきれなかった衝撃が頭に来ている。視界がぼやける。だがそれは奴も同じだ。

「ぐっ!!これは!?」

 まったくあれだけ一ノ瀬君に厳しく言っておいて自分がやるんだから合わす顔がない。

 最初に彼の腕につけた爆弾と同じものを拳を受ける腕に3つつけた。スーツを着ている私と違ってそれを直に受けた彼はひとたまりもない。

「まさか、自分ごとやるとは……!」

 今の爆発で煙幕は晴れている。そこにはぶらりと下がった右腕を左手で押さえる桜木の姿があった。これを直に食らってまだ立っているとは……。

 逆に私は受けた拳と爆発の衝撃で立ち上がることができない。

「勝負あったな……まさかこんな手まで使ってくるとは。それでは動けまい。トドメは刺さないでやる」

 無線で何やら話している。相手は委員長だろうか、勝負がついたとでも話しているのだろう。

 遠ざかる背中にクナイを投げつける。

「……往生際が悪いな。俺はこれからここの屋上にいるスナイパーを倒してから東校舎に向かう。すぐに勝負がつくだろう……」

「さっきから言っているだろう……あまり私を舐めるな」

 手元のスイッチを押す。複数の爆発音。

「何をした!?」

 体育館が崩れる。それだけではなく天井に仕掛けていた椅子や机が落下する。

「くっ!」

 屋上にいるスナイパー、椿先輩とは話がついている。私が負けても桜木が上に行けないように続くハシゴもこの爆発で壊した。勝負が終わって降りるのは生徒会の人間がなんとかしてくれるだろう。

「まさかここまでとは…… まずい出口が」

 なるべく出入り口が塞がるように仕掛けた。この化け物ではすぐに突破するだろうが、右腕は使えない。数分は稼げるだろう。

「一ノ瀬君……すまない……」

「綾乃先輩!」

 無線越しの彼の声が遠ざかる。私は意識を失った。

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