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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
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本校舎の戦い(5)

 本校舎に向かって走る。

 戦力が均衡している東校舎に行くのは論外として、千春のいる西校舎も使いたくない。また、本校舎に来た狙いはもう一つある。と言っても実現できる可能性はかなり低い。

 後ろから恵先輩を先頭に敵が追ってきているが、今のところ追いつかれる気配はない。他の隊員は菊門寺先輩を保護してから来たためずっと遠い。唯一そのまま追ってきた恵先輩は最初よりも動きが鈍い。恵先輩は女性と間違うほど華奢な体をしている。おそらく刀を振るという動きは慣れと訓練で瞬発的に力を出せるが、ただ単純に刀を持って動き回るというのはしんどいらしい。わずかに息が切れ始めている。

 そのまま本校舎に入る。

 さて、ここでどうするか。

 一階は流石に煙幕は薄くなってきているとはいえ、まだ少し視界が悪い。

 耳を澄ます。

 美咲ちゃんは……二階か。走って向かってる? その後ろを大勢が追ってきている。というかこれは聞くまでもなく

「待て! 杜若美咲!」

 向こうから敵を20人ほど連れて美咲ちゃんが走ってきている。そして俺の後ろからも恵先輩がきている。どうする!? 西校舎に逃げるか目の前の階段を登るかー

「煙幕全開で張れ」

 美咲ちゃんが遠くから小声で言ったのをなんとか拾う。

「鬼ごっこは終わりだよ!」

 後ろから恵先輩、横からは美咲ちゃん。二人とも数mの距離。煙幕をはる。これで俺のポケットの中の小道具は全て無くなった。

 視界は真っ白で何も見えない。その瞬間に誰かに腕を思い切り引かれる。

「くらえ! 杜若!」

「!?」

 後ろから金属音がする。

「ちょっと梅野ちゃん!? 僕だよ!」

「委員長!? 申し訳ありません!」

 どうやらこの煙幕の中で梅野が美咲ちゃんと委員長を間違えたらしい。

「一ノ瀬律、お前の独壇場だろ?」

「本当にありがとう美咲ちゃん!」

「敬語使えよな」

 混乱する敵の中に入る。

「全員、攻撃はするな! 味方に当たるぞ!」

「誰だ!? 勝手に指示を送るな!」

 足音で敵の位置を判別して攻撃する。恵先輩と梅野には近づかない。梅野はこの煙幕の中で攻撃しても反応してくる可能性がある。恵先輩からは何の音もしなくなったため近づかない。直前の音で場所自体はわかっているが何の音もしないと言うのはあまりに不気味すぎる。おそらく抜刀の構えをとっているのだろう。

「ぐあっ!」

 また一人狩る。

「くそっ。全員、私の元に集まれ! 委員長を死守するぞ!」

「梅野ちゃん! その必要は!」

 ―好都合。

 本校舎に来た狙いはまさにこれだ。あの抜刀攻撃。確かに危険だがデメリットもある。リーチ、スピード、どれをとっても味方のいる場所ではとても使えない。

 そして、恵先輩の抜刀が飛んでくる心配もなくなった俺は梅野の声に従って集まろうとする隊員を狩り続ける。

「みんな、西校舎の方向に走って! ここはもういいからそのまま千春ちゃんを捜して!」

 ここでやっと恵先輩が指示を出す。たしかにそれが最善だ。このまま団子になっていても仕方がない。

「騙されちゃだめだ! みんな、動かないで!」

 美咲ちゃんが低めの声で恵先輩の声真似をしている。俺は余裕で聞き分けられるが周りの人間はパニック状態も相まって動けずにいる。

「美咲ちゃん……! 終わったら本当にお説教だからね」

 恵先輩の本気のおこだ。恵先輩のお説教か、美咲ちゃんうらやま……かわいそうだな。

 もう一人狩ろうとすると、人間が一気に動き出すのを感じる。耳を澄ますと全員が小声で会話している。なるほど、混乱しないように無線だけで会話し始めたか。

 なら西校舎に向かう連中をー

「見つけた」

「!?」

 恵先輩が飛びかかってくる。大勢の足音に紛れて近づいてきていたのもあるが目印にしていた刀の音でしなかった。見てみると刀を持っていない。できるかぎり音を消すために置いてきたのか!

「はあ、はあ、もうやりすぎ」

 恵先輩が倒れた俺に抱きついている。こんな風のない真夏日に動き回ったせいで互いに息が荒く汗だくだ。

「これで逃げられないね。それともその手に持ってるクナイで僕を殴る?」

 先輩が上目遣いで見てくる。これは流石に攻撃できない。だが、このままはまずい。

「委員長! 一ノ瀬律は!?」

「えっ? う〜ん。まだ捕まえてないよ。それより梅野ちゃんは美咲ちゃんを捕まえてくれる?」

「はい!」

 梅野が遠ざかる。

「なんであんな嘘を!」

「えっそれ聞くの? もうちょっとこうしていたいからだけど。だめ?」

「だめです!」

 引き剥がそうとするが全く離れる気配がない。下も上も密着していて色々とあれだが、それは今はどうでもいい。とにかく逃げないと。

「逃がさないよ。煙幕が晴れるまでここにいようね」

 ぎちぎちっ

 体が締まる。冗談ではなく本気で逃すつもりはないらしい。

 くそっどうする!?

「……うん、ありがとう。じゃあ東校舎に向かって。御園ちゃんと天宮ちゃんを捕まえて王手だね」

 先輩がそう言って怪しい笑顔でこっちを俺の目を見る。

 嫌な予感がする。

「体育館の戦いは桜木くんの勝ちみたい。困ったね? 律くん」

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