杜若美咲の居場所
私は梅野から逃げて3階に行かずに階段を降りた。
そして廊下の両端から来ていた奴らが3階に上がるのを見てから、すぐに階段を上がって誰もいない2階の窓際へ悠々と向かった。
私は今はグラウンド側廊下に並ぶ教室に身を潜めている。
梅野は私が階段へ向かうのを見て、梅野が階段を上がり切る前に私が3階に行って窓際まで走ると勘違いした。一階から2階に上がってきた奴らも私がどっちに行ったかまではわからない。そこで狙撃ができない一階には来ないと踏んで3階に上がった。
『1時間が経過しました』
「ドローンが向かったけど打ち落とす?」
「いやいい。あれ、菖蒲ちゃんの私物でしょ? かわいそう」
「ふふっ、確かにそうだね」
まだ、敵がやってくる気配はない。
「今回の件、私は風紀委員会が間違っていると思うの。一年生が頑張って作った同好会を私たちの事情で巻き込んで無くしちゃうなんて絶対にだめ。でも美咲ちゃんは別に私に付き合う必要は……」
「さっきの聞いて何か気にした? さっき言ったのは椿先輩のことじゃないですから」
「ええ!? そうなの!? 私、てっきり自分ことだと思ってた! 恥ずかしい!」
「嘘ですよ。 この際だから言いますけど中学の時、私みたいなのに構ってくれてありがとうございます」
「そんなつもりはないよ。私が美咲ちゃんとお友達になりたいって思っただけだから」
「それでもありがとうございます。さっきの話の続きですけど、別に椿先輩のためにこれをやってるわけじゃないですから」
「じゃあなんで?」
「梅野のことが嫌いだからですよ。それであの同好会のバカたちの方が好きだからです。そして、風紀委員会を寄ってたかって同好会をいじめる集団にしたくなかったから」
「じゃあ、私と一緒だ。でもね、私はきっとそんなこと関係なくこうしてたよ」
「なんで?」
「だって友達の美咲ちゃんがやるなら一緒がいいから」
「……私もですよ」
椿先輩とこんなんふうにゆっくり話すのは久しぶりな気がする。最近は風紀委員会もドタバタしてたし、先輩も受験で忙しそうだったから。
「もしこの先、あいつらがこっちの窓際の捜索を始めても、もう当てなくていいですよ。敵は充分に削りましたから」
威力を抑えているとはいえ先輩も風紀委員会の子達に弾を当てるのを快く思っていないことは確かだ。それに私も先輩にこれ以上他人を傷つけさせるのは心が痛い。
「でも、そしたら美咲ちゃんが」
「狙撃されるっていう恐怖だけで十分です。私自身、あんまり怪我する子を増やしたくないですし」
「そうだね。でもこっちが怪我しそうになったら遠慮なく撃つから」
「その時はお願いします」
心地よい沈黙。時々、他愛もないことを話す。
「あっ律君が西校舎から出てきた! ずっと後ろに委員長もいるみたい」
「できる範囲で援護してあげてください」
「了解! セット」
パキュン
「律君が菖蒲ちゃんから奪って上に投げた機械、壊したけど大丈夫かな?」
「えっ、もしかしてコントローラーみたいなやつですか?」
「そうそれ! 何か不味かった?」
「う〜ん、いいんじゃないですか」
「それって絶対、なんかあるやつだよね!?」
夏休みにドローンの複数制御装置を作ったと自慢してきたけどあれじゃないよな。あれだったら相当へこむだろうな。
「あっ凄い! 菊門寺ちゃんが攫われたよ! 向かったのは柔道場かな?」
「まあ、あの人もポンコツですからね」
それから戦況は全く動かなかった。梅野も1階に私がいると思い込んでいるから、もうしばらくは状況が動きそうにない。
「本校舎から6人くらい出てきたよ! どうする?」
どういうことだろうか? 完全にこっちを諦めたにしては人数が半端だ。それに梅野がいないのもおかしい。
「どこに向かいました?」
「柔道場みたい」
なら一ノ瀬律と委員長の間で何かあったか。一ノ瀬律を捕まえる絶好の機会、あるいは委員長がピンチか。判別がつかないな。
『2時間経過をお知らせします』
このまま隠れるか柔道場に行くか
悩んでいる時だった。
「あれ!? 律君が本校舎に向かってるよ! 後ろから委員長と15人くらいついてきてる!」
「何やってるんだ!?」
まあいい。こっちも捜索の足が二階まで伸びてきていたところだ。時間も充分に稼いだ。
さて、どうやったら梅野が一番嫌がるかな
服の埃を落として私は教室を出た。