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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
58/252

柔道場の戦い?(1)

 柔道場 更衣室

「……見失ったみたいだな」

 東校舎と柔道場の間には草木が生い茂っている。昼間は大したことないが、夜で距離がある状態ならば十分に身を隠すことができる。俺は一度そこで姿を隠してから柔道場に行ったため、敵は俺が東校舎と柔道場のどちらに行ったのかわからない。

「こちら一ノ瀬律。例の作戦は難しいと判断。人質を切り替えたがどうするかは思案中だ」

 元々の作戦では東校舎と本校舎で敵を引きつけつつ出来るだけ減らす。そして綾乃先輩が桜木先輩を足止めしている間に、委員長である恵先輩を捕まえて人質にする予定だった。しかし恵先輩が強すぎて作戦が破綻してしまった。

「切り替えたってどういうことよ!? 私は代わりってこと!?」

「いやちょっと静かにしてください。菊門先輩」

「お尻の穴みたいに言わないで! 私は菊門寺唯花よ!」

 う〜ん、うるさいなこの人。この人のインカムは投げ捨てたからそれでバレることはないだろうけど、あと数分もすればこっちに敵が来る。

「律! 西校舎から敵がおらんくなったけど私にできることはなか?」

「いや千春は隠れてて欲しい。俺たちが全滅した時に1秒でも時間を稼ぎたい」

「そうです。敵は千春さんの位置を完全に見失っています。下手に動かないほうがいいかと」

「天宮! そっちは大丈夫か?」

「すみません、さっきまでドローンと御園先輩が撃ち漏らした敵に追われていて連絡が出来ませんでした。今はドローンが停止したので隠れています!」

「それはよかった。ところで人質の件だが、菊門寺先輩を捕まえたんだがどうする?」

「人質にはちょっと弱いですね」

「誰のお尻が弱いですって!?」

「言ってないですから黙っていてください」

 菖蒲さんにいじられすぎて敏感になってるな。これだと別の意味に聞こえるか?

「まあいいや。俺の方で考えてみるよ。隠れてるんならあまり声を出さないほうがいいだろうし」

「わかりました。私も何かいい考えがあれば共有しますね」

「頼んだ」

 そこで会話が途切れる。本当にどうしようかな。

「何よ!? 私は簡単に堕ちないわよ。たとえ体は堕ちても心だけは!」

 これ言われるともう逆に萎えるな。

 無我夢中で攫ってきたはいいがどうしたもんかな。この人を使って少なくとも1時間ぐらいは稼ぎたいけどやっぱり厳しいな。

「う〜ん、なんかやっぱ意味なさそうなんで帰っていいですよ」

 ここはキャッチ&リリースの精神だ。

「知っているわよ! そうやって一度突き放すことでもうすでに堕ちきっていることを自覚させるんでしょ! そうはいかないわ。私は夫との平和な暮らしに戻るんだから!」

「いや、先輩結婚してないでしょ」

 さっきから顔を上気させて一人で身を捩っている。そういえば、この人逃げる気配がなさすぎて拘束するの忘れてた。

「ちょっと、何するのよ!? そういうことね! ついに正体をあらわしたのね!」

 ポケットのワイヤーで手足を縛ったら菊門寺先輩が喜び出した。もうここに捨てていきたい。

「私の心は夫だけのもの! あなたなんかに負けないわ!」

 さっきから似たようなことを……。いや、どっかで聞いたことあるな。たしか前に俺の部屋で天宮が読んでた

「『不感症の僕の妻がチャラ男に寝取られる夜』?」

「!」

 菊門寺先輩が明らかに動揺する。

「知ってるんですか? 先輩」

「知らないわ、そんなエロ同人」

「知ってるじゃないですか」

「知らないわ! いい加減にしなさい!」

「そうですか。まあ確かにあれマイナーですし、18巻も『心だけは堕ちてない』って言ってるくせにめちゃくちゃ体を許してますもんね。“駄作”ですよね」

「何を言っているの!? あれは名作よ! 早苗はまだ堕ちてないわ! 行為をした後に必ず罪悪感を覚えているし夫のことをずっと愛しているの! その状態でチャラ男と行為をするからいいのよ! いいかしら、NTRものは堕ちたらそこでおしまいなの。堕ちていく心情の微細な変化が素晴らしいのよ! 『不感症の僕の妻がチャラ男に寝取られる夜』はその変化をどの作品よりも繊細に描いていてー」

 ピコン

「……何の音よ?」

「録音しました」

「!?」

 先輩にスマホを見せる。先輩は俺のスマホを奪おうと必死に身を捩るが拘束のせいで動けない。

「どうするつもり!? 本当にそれだけはまずいわ! なんでもいうこと聞くから! ね? 私の体も好きにしていいから。私、着痩せするからわかりづらいけどEカップあるのよ!」

「いや、そういうのはいいです」

 よし、このポンコツの使い方を思いついた。

「先輩、もし消して欲しかったら」

 先輩に耳打ちする。

「そんなことを私にやれって!?」

「まあ、出来ないならさっきの音声を風紀委員のみんな、いや学校のお昼の放送で流すのもいいかもー」

「わかったから! それをやれば消してくれるのね!?」

「もちろんです。お願いしますね唯花先輩」

「くっ! 名前で呼ばないで! この鬼畜!」

 そういう先輩のほおは緩みきっている。できればこれからはお近づきになりたくない人種だ。

「柔道場だ! みんな行くよ!」

 外から恵先輩の声がする。好都合だ。

「じゃあ、予定通り頼みますよ先輩」

「くっ! 覚えていなさいよ」

 俺と菊門寺先輩は柔道場の奥で風紀員会を待ち受けた。

「ここまでだよ! 律くー って、ええ!? みんなストップ!ストップ! 入ってこないで!」

 恵先輩の前にいたのは菊門寺先輩の腕を背後で押さえる俺と、下着をつけずシャツとスカートが乱れた格好になっている菊門寺先輩だった。

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