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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
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西校舎の戦い(4)

 西校舎 

 机を避けつつ恵先輩と何度も切り結ぶ。間合いを詰めて恵先輩に刀を納める隙を与えない。しかし、こっちに有利な刀を振りづらい距離に接近していても絶妙に体を捻って攻撃を与えてくる。

「捌ききれてないね」

「こっちも必死なんです。黙っててください!」

 スーツのおかげで体に傷はないが顔にはいくつも切り傷ができている。しかしそれは些細なことでやはりまずいのは刀による打撃だ。刀を受ける手の感覚がもうほとんどない。次の瞬間にはクナイを弾き飛ばされていてもおかしくない。

 だから決して受け身には回らない。攻撃を続ける。

「すごいね。1週間でここまで!」

 先輩の顔をクナイが掠め、僅かに血が出る。こっちも切れ味はかなり削っているが全力でふれば十分に傷をつけることができる。

「でも甘い!」

 鞘がクナイを持つ俺の手を強打した。空中にクナイが飛ぶ。

 ―まずい

 ポケットからクナイを取り出す暇はない。

 先輩はすでに抜刀の構えに入っている。

 カチャ

 頭!

 両腕で頭を防ぐ。

 脇腹に思いきり刀がめり込み、激しく体が横に飛んだ。

「かはっ」

 黒板に体が衝突する。

「いいのが入ったね。もう立てないんじゃない?」

 あの攻撃は音でタイミングがわかっても攻撃がくる位置まではわからない。今までは勘で防げていたがここで喰らってしまった。とどめを刺されないように無我夢中で体を起こす。

「特別性のスーツなんでね、まだまだ大丈夫ですよ」

 正直言って全く大丈夫ではない。一瞬だが気を失っていた。剥き出しの頭に食らうよりはずっとマシだがこの攻撃をあと一回喰らえば確実にダウンだ。

「無理しちゃって。今のはやばいでしょ」

「いやいや、腹と乳首は普段から鍛えてるんでね」

「へえ、乳首って鍛えられるんだ」

「ASMR同好会に入ったら、鍛え方教えてあげますよ」

 会話で時間を稼ぎながら呼吸を整える。そしてインカムを手で押さえる。

「千春、頑張って東校舎に向かってくれ」

「大丈夫だ。だが、戦いに巻き込むかもしれないから移動してほしい。本校舎を突っ切る必要があるが何とかしてくれ」

 ポケットから取り出したクナイを構える。そして、もう片方の手でポケットから球を取り出す。

「優しいね、千春ちゃんだけでも逃そうってことかな」

「そんなつもりはないですよ。ただ教室での戦いはリーチの長い先輩にあまりに有利なので」

 もう少し教室が狭ければいいのだが、マンモス校であるこの学校の教室はちょうど刀を振りやすいぐらいの広さだ。逆に俺は机なんかの障害物で逃げづらい。

「なので手を打たせてもらいます」

 さっきインカムから綾乃先輩と桜木先輩が接敵したのがわかった。ならば、今グラウンドに残っているのは誰か。

 球を圧迫してから恵先輩に向かって投げる。

「閃光弾!?」

 教室が強い光に包まれる。

「そんなに教室から出たいんだ!」

 先輩が廊下の方へ走っていく音が聞こえる。

 だが、俺は逆の方向へと走り出す。

「は!? ここ3階だよ!?」

 窓を突き破って外に出る。視界に一瞬グラウンドが映る。次の瞬間は地面と衝突ししていた。

「ぐっ!」

「何やってるの!? バカじゃない!?」

 3階の窓から恵先輩が叫んでいる。

 かなり痛みはあるが受け身もとったし頭だけは打たないようにしたので意識はある。一つ目の博打は俺の勝ちだ。

 先輩も飛び降りて追うか迷っているようだったが、すぐに無理だと判断して廊下の方へ走っていく。おそらく階段を降りてこっちへ来るつもりだろう。

 さっき、千春を東校舎に逃す指示を出したのは先輩が俺を諦めて千春を探さないようにするためだった。そして実際にはそんな指示は出していない。インカムのスイッチを切ってわざと恵先輩に聞こえる声で喋った。

 さらに先輩には俺を追う理由がもう一つある。

「菖蒲ちゃん! 唯花ちゃん! 今すぐそこから逃げて! 西校舎で階段を塞いでいる生徒たちは今すぐグラウンドに向かって!」

 遅い!

 俺の目には機械を操る菖蒲さんと菊門寺先輩の姿が見えている。

「おらっ!」

「私の試作品がああ!」

 とりあえずそこにあった機械を蹴り飛ばし、菖蒲さんからリモコンを取り上げ上空に放り投げる。

 菖蒲さんは落ちてくるリモコンをキャッチしようと上を向いて手を伸ばしているが空中でリモコンが破壊される。

 ナイス!椿先輩!

 次にへっぴり腰の菊門寺先輩が警棒を持って襲ってくるが、警棒を弾き飛ばして菊門寺先輩を抱き抱える。

「ちょっと何やってるの!? あなた!」

「人質です!」

「人質!?」

 はるか後方で階段を下る隊員たちの足音がする。俺は柔道場の方に向かって全力で駆けた。

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