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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
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西校舎の戦い(3)

 西校舎に着くと恵先輩と千春が揉み合っている。よく見ると恵先輩が拳を振り上げていた。

『僕、彼女のこと嫌いだから』

 恵先輩の発言を思い出す。

「止まるんだ! 恵先輩!」

 千春のためはもちろん恵先輩のことを考えるとその拳だけは絶対に振り下ろさせてはいけない。あくまで今回のこれは勝負であり言ってしまえばゲームだ。その中で心に一生残る傷を負ってはいけない。

「……嫌なところ見られちゃったな」

 恵先輩が悲しそうな顔をする。それはあの時、元宗教部の部室で見た表情と少し似ていた。短い間でこの人のいろんな顔を見た気がする。嬉しそうな顔も悲しい顔も怒った顔も。俺はその全てをこれからも見ていたいと思う。

 今、ここであの拳を止めなければそれらが全て曇ってしまう。きっと一生レベルで。

「よかったね千春ちゃん、王子様が迎えにきたみたいだよ」

「千春!同時だ!」

 クナイを投げる。

 千春が俺の声に反応して思いきり体に力を入れる。

「くっ!」

 クナイを弾く時に千春から意識の逸れた先輩が体勢を崩す。それと同時に千春が拘束から抜け出した。俺はポケットからクナイを取り出し構えながら走る。

「武器を僕に向けるんだね」

 恵先輩が腰の刀に手をかけている。綾乃先輩と特訓していなければ、あんなものを持っている敵からは逃げの一択だっただろう。だが、集中すれば戦えない相手じゃー

 カチャ

 気づけば刃物が顔のすぐ隣に来ている。刀を抜く動作も見えなかった。

 死―

 ガキィィン

 本当にギリギリで体が反射する。体が横に弾け飛んだ。頬は熱くジンジンとしている。

「真剣なのか!?」

 てっきり模造刀かと思っていた。しかし、掠った頬からは血が流れている。

「まさか本物なわけないじゃん。模造刀だよ。でも、このぐらい高速で刀を引けば薄皮一枚ぐらいは切れるさ。もし真剣だったら君の大事な耳が落ちてるよ」

「剣道が強いとこんなこともできるんだな」

「剣道はあんまり関係ないかな。そもそも家が抜刀術に特化した剣術をやっててね。剣道の方が応用なんだ」

「なるほど、じゃあ刀は抜かせたままの方がいいのか」

 と言っている時にはすでに刀は鞘に納まっていた。恵先輩はすでに構えができている。

「千春、お前を守れる自信がない。どこかに隠れていて欲しい。ごめんな」

「律が謝ることじゃなか。私の方こそ何の力にもなれんくてごめん」

 千春はそういった後、廊下を走っていく。

「君も行っていいよ。東校舎の方を手伝ってあげて」

 恵先輩がそばを飛んでたドローンに向かって言う。そうするとドローンは東校舎の方に向かって飛んでいった。

 先輩と二人になる。


「恵先輩、俺と先輩だけでもう一つ勝利報酬を加えませんか?」

「……いいね。確かに僕も思っていたんだ。律くんが風紀委員会に入るだけっていうのは何だかフェアじゃないよね。負けたら僕はお尻を掘られるかもしれないのに」

 先輩は笑いながら言うが少しも隙はできていない。

「じゃあ、俺が勝ったら『敗北委員長のおほ声服従セ○クスASMR』含めた三本のASMRを作ってもらいます。そのうちの一本は千春と二人で録ってもらいます」

「僕はいいけど千春くんはいいのそれ?」

「俺が土下座すればノリで何とかいける可能性があるかもしれないと思っています」

「ふふっ、まあいいや。じゃあ僕の方はそうだな」

 恵先輩が少し考え込む。それから

「同好会の人間と縁を切って僕と付き合って欲しい」

 今度は笑わずにそう言った。

「俺も承諾しました。じゃあ、始めましょうか」

 話している間に打開策が何か浮かぶかと思ったが特に浮かばなかった。それはそれとしてとても嬉しい約束を結べたのでよしとする。天宮にバレたらギリギリ軽蔑されそうだからどうバレずに作るかが課題だな。


「来ないならこっちから行くよ」

 恵先輩が一気に距離を詰める。数mあった間合いが一瞬で無くなる。

 カチャ

 さっきも聞こえた抜刀する時に刀と鞘が僅かに当たる音。これと同時に体を動かす。

 キィィン

 今度はちゃんとクナイで受ける。もちろん小さなクナイで刀を受け止め切ることは不可能なので刃を受けつつ飛ぶことで衝撃を逃す。

 飛んだ方向にあった窓ガラスを破り教室に入る。

「凄いね! たった一回受けただけで見切るなんて!」

 割れた窓から先輩が飛んでくる。そこに近くにあった椅子を投げる。

「くらわないよ」

 先輩が刀でそれを弾くが、椅子と先輩が重なる瞬間に移動することで気づかれずに間合いを詰める。

 とった!

「っ!」

 先輩が鞘で防いでいる。

 だが、俺はそのままクナイを振り切る。空中にいる先輩が壁に叩きつけられる。そこに目掛けて距離を詰める。

 カチャ

 いつの間にか刀が鞘に収まっている。まずいー

 ガキィィン

 高速の太刀が襲う。クナイで受けるが衝撃でいくつもの机を薙ぎ倒しながら壁際まで吹き飛ぶ。

「いたたっ! ひどいんじゃない?」

「いやお互い様だろ」

 というか俺の方が遥かにダメージが大きい。なんであの華奢な体からこの威力が出るんだ。あの抜刀だけは絶対にまともに食らってはいけない。その時点で確実に活動不能だ。

「あれ、さっきタメ口だった? やった!念願のタメ口だ。美咲ちゃんだけ先輩なのにタメ口でモヤっとしてたんだ」

 それで美咲ちゃんの名前が出た時にちょっと機嫌が悪かったのか。可愛いな、ちくしょう。

『1時間経過をお知らせします』

 全校放送が鳴る。

「もう1時間か」

「まだ1時間か」

 お互いに武器を構え直す。夜は長くなりそうだ。

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