西校舎の戦い(2)
こちら高梨恵、西校舎3階で千春ちゃんを発見。2階を捜索している隊員は階段を塞いで」
高梨恵が逃げる村上千春を追いながら包囲を完成させる。
「3階への応援は必要でしょうか?」
「いやいいよ。僕一人でやる」
カツカツ カツカツ
高梨恵は刀の柄から手を離している。
「逃げないでよ。乱暴したくないんだ」
村上千春は廊下を走って逃げる。その後ろを高梨恵が早歩きで追った。
「どうして本校舎に逃げないの?律くんに頼ればいいじゃん。ねえなんで?」
「うるさか!」
ビッ
クナイが頬を掠める。
「……」
高梨恵が足に力を込める。
「きゃあ!」
次の瞬間には村上千春の手首を握って馬乗りになっていた。
「弱いね……それにさっきの声はなに?」
高梨恵の手に力がこもる。村上千春は思わずうめき声を出す。しかし暴れるのをやめない。
「少しでも時間を稼ぐつもり? ねえ、それで戦っているつもりなの? それとも律くんが助けに来ると思っているの?」
村上千春は何も言わずに睨みつける。
ミシッ
さらに力がこもる。もう村上千春は暴れていない。ただその痛みに耐えている。
「さっきから律が助けてくれるとかどうとか言って、本当は自分が助けて欲しいとやろ?」
「っ……!」
片足で村上千春の左手を腕を踏みつけ、空いた自分の左手で顔を強く押さえつける。その表情は歪んでいる。
「何が言いたいわけ?」
「そのままの意味やけど? ずっと助けて欲しそうな顔しているくせに助けてもらうことをどこかで拒んどる。お姫様気取りのわがまま」
「君に言われたくない。全部持ってるくせに」
声に怒りが滲む。しかし、村上千春も負けない。
「全部って何!?ねえ先輩はどうして欲しかと? どう扱って欲しかと? 何になりたかと?」
「そんなの知らない。いい加減黙って」
さらに強く村上千春の顔を押さえつける。
「黙らん! 先輩の言う全部っていうのが律のことなら私は持ってなかよ! いっつも私の知らない話題で清乃ちゃんと盛り上がっとる。今回みたいに困った時に頼るのは綾乃先輩! ねえ私が何を持っとると!?」
「うるさい! それでも私とお前は違う! スタートが違うだろ!」
「私には先輩の性のこととかわからんけど、だからってこっちには何の苦労もないみたいに言わんで欲しか!」
「さっきから贅沢なことばっかり言って! だから僕は君のことが嫌いなんだ!」
「ねえ!自分のことを一番諦めとるのは先輩自身やないと?」
左手を顔から離し拳を握る。そしてその拳を振り上げた。
「もういい。勝負なんだから文句ないよね」
村上千春はそれでも睨みつけるのをやめない。
バンッ
本校舎から続く扉が勢いよく開く。
「止まるんだ! 恵先輩!」
「……嫌なところ見られちゃったな」
西校舎へと駆け込んだ一ノ瀬律と遭遇した。