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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
50/251

開幕

 8月28日 22時50分 場所 前立高校グラウンド

 

「逃げずにきたんだね。勝算はあるのかな」

 あたりは暗い。風は吹いておらず夏の蒸し暑さがある。俺たちの前には風紀委員会の見知った顔が並び、その後ろには100人に近くの風紀委員がずらりと整列している。

「俺たちが勝ったら雌奴隷ですからね。忘れないでくださいよ」

「貴様っ!委員長に向かって何という言葉を。この下郎がっ!」

 この女はたしか実行部隊隊長の梅野楓か。委員長のファンクラブの会長であり、ある意味で今回の騒動の中心とも言える。

「大切な委員長が寝取られる様を指を咥えて見ておくんですね!性行部隊隊長さん」

「貴様っ、今何と言った!!」

 天宮は本当に人をおちょくるのが好きだな。まあ、梅野という人物に色々と思うところがあるのは同感だが。

「まあまあ、梅野ちゃん。どうせこれから戦うんだから、怒りは温存しといてね」

「委員長……!」

 恵先輩は余裕の表情だ。しかし、全身からやる気がみなぎっており手を抜いてくれそうな気配は微塵もない。

「やる気満々みたいですね」

「そっちこそ。そんなスーツまで着て」

 そう、今回も俺と綾乃先輩は例のスーツを着ている。天宮と千春も着たいと言っていたが、この二人に着せると戦闘に参加しかねないのであえて着せていない。あとこの二人、特に千春にこのスーツを着られると気が逸れるという個人的な事情がある。

「御園マリア!貴様はなぜここにいる」

「仮入部中なんです。それで問題ないですよね?生徒会さん」

「はい、問題ありません。御園マリアの参加は承認済みです」

 御園先輩も無事に参加が認められた。御園先輩は戦闘に参加すると言っていたが、スーツは着ないらしい。代わりにいつものシスター服を着ている。

 

「そろそろ始めますが双方よろしいですか?」

「ああ」

「僕も大丈夫だよ」

「それではまず自己紹介を。私は生徒会会長補佐の九重(ここのえ)と申します」

 そう言って出てきたのは以前に生徒会室で会ったメガネ女子だった。そんなに偉い人だったのか。

「会長は来ないんだね?」

「会長は別室でモニタリング中です。その他にも生徒会幹部が別室でモニタにングしています。明らかな不正行為や命に関わる事態が発生した場合は直ちに介入しますのでお忘れなく」

「幹部っていうのは何人くらいいるんだ?あと、音声も拾われているのか知りたい」

「それに関しては会長からの伝言を預かっておりますので読み上げます」

 伝言?

 九重さんが咳払いをしてから読み上げる。


『やあ律。しばらくぶりだね。入院生活はどうだったかい?家族と離れていい息抜きができたのではないかい。私はといえば退屈で仕方なかったよ。何と言っても君がいないのだから。そんなわけで君の入院中はドイツ留学に行っていたんだ。帰ってくるのは夏休み明けだったのだが、九重くんから面白いことになっていると聞いてね。飛んで帰ってきたといわけさ。まあ学ぶべきことはすでに学んでいたしー


「あの、これあとどれぐらい続きます?」

 23時まで5分を切っているし、できるだけ時間は欲しいんだが。

「……そうですね。あと原稿用紙が8枚ほどありますが省略します。では最後の一文だけ」


『今回の件に関する情報は全て門外不出・生徒会も一歳悪用しないと誓う。それに今日ここにいる人間は君が知られることを憂慮している事情はだいたい知っている人間だから安心したまえ。心配性な君のことだから聞いてくるだろうと思ったよ。校舎は思う存分使ってくれて構わない。まあ損害は少ないに越したことはないが、気にしてくれるな』


「だそうです」

 会長ってこんな人なんだな。というか一度も会ったことないのにめちゃくちゃ馴れ馴れしいのは何なんだ。

「誰かの駄文のせいで時間がありませんからルールの説明は省略いたします。ルールは紙に書かれている通りですが、質問があればここで受け付けます」

 俺と恵先輩は首を横に振る。

「では、同好会側は準備を始めてください。合図とともに校舎及び施設へ隠れていただきます。風紀委員会は24時の合図で捜索を始めてください」

「は~い」

 

「よしっ、行くぞお前ら」

 俺たちは校舎近くに置いた荷物をまとめる。

「円陣、組みましょう」

 天宮が言う。みんなで顔を見合わせてからすぐに円陣を組む。

「私も混ざっていいのでしょうか?」

「当たり前です! 律さんも思春期じゃないんですからもっとちゃんとくっついて」

 天宮がぎゅっと体を寄せる。いや、俺は思春期だが。

「なんて言うんだ?」

「同好会ファイオーとかやないと?」

「いえ、それは何だか同好会らしくありませんね。私にいい考えがあります」

 天宮がみんなに掛け声の説明をする。

「えっ!?それ本当に言うと?」

「お前、これ生徒会も聞いてるんだぞ」

「いいじゃないですか、悪用しないって言っていましたし」

「任務はいつも一人だからこういうのはドキドキするな」

「ああ、主よ。どうかお許しください!」

 天宮が息を思い切り吸い込む。

「射精るぞ!同好会!!おらっイけっ!!!」

 

「「「「「んっほ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡」」」」」

 

 そこで開始の合図が鳴った。俺たちは校舎へと走り出す。

「勝ちますよ!律さん!」

 天宮が走りながら笑顔で振り返る。

「当たり前だ」

 つられて笑いながら校舎へと入った。

 

 前立高校の校舎は3棟。最も大きい本校舎はグラウンドに面する形で立っており、中庭を囲むように東校舎と西校舎が存在する。

 また、大きなグラウンドを挟み込むように体育館と柔道場があり、生徒人数の多さに合わせてそれらの規模もかなり大きい。

 俺たちが最初に入ったのは本校舎だ。

「先輩、あれを!」

 先輩が全員に超小型インカムを配る。

 走りながらそれを装着する。

「先輩、隠し通路の方は?」

「やはりダメだった。何者かが触った形跡がある。奴ら1週間を使って徹底的に校舎を調べ尽くしたようだ」

 やはりそうか。隠し通路がバレていなければそこに身を潜めるだけで勝てる可能性もあったが、そう簡単にはいかない。

「予定どおり一ノ瀬君と千春君は本校舎の罠を頼む!御園君と天宮君は東校舎を!私は西校舎を終わらせてすぐに体育館に向かう!」

「了解です!」


 俺と千春はその場に立ち止まり本校舎の入り口に罠の詰まったバッグを置く。本校舎は下駄箱から入って真っ直ぐに続く道と東西校舎に続く横に長く伸びた道がある。そのあたりを中心に徹底的に罠を張る。

「あっ」

 バッグから罠を取り出す時に千春と手が重なった。千春はその手を離さずに握る。

「前みたいに大怪我するような無茶はだめやけんね」

「わかってる。俺たちまだ一本も同好会としてASMR作ってないからな。入院してる暇なんかない」

「ふふっ、そうやね。最初の一本は『敗北委員長のおほ声服従セ○クスASMR』とかはどうやろ?」

「千春っ!?いつの間にそんなものを」

 くそっ、最近は先輩との鍛錬で天宮への監視が疎かになっていたせいだ。それはそうとなかなかいいセンスをしている。記念すべき一本目はそれで決まりだな。

 そうして、俺たちは再び作業に集中した。

「じゃあ、俺はここだから。あんまり無理はするなよ」

「わかっとるよ。律も気をつけて!」

 走って西校舎に向かう千春を見送った。

 

 気がつけば24時まで5分を切っている。

 俺はポケットからクナイを取り出し息を整える。意識が研ぎ澄まされ、音がいつも以上によく聞こえる。夜の静けさも相まって学校の敷地内の全ての音を把握できた。

 

 開始の合図が鳴った。

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