仲裁者
「律さん、お待たせしました!」
しばらくしてから天宮と御園先輩がやってきた。
「ずいぶん遅かったな」
「はい、実は途中で変質者に会いまして。全裸にコートしてる変質者って実在したんですね!」
「いやそれどころじゃないだろ。大丈夫だったのか?」
「はい!御園先輩がどかーんってやってくれました」
「どかーん?」
「ふふっ、自動販売機って便利ですよね」
どういうことだろうか。まあ、無事だったならよかった。
「警察の方に事情を話していたら遅くなりました。はい、これ制服です」
「ありがとう」
「家族の方には図書館で勉強するから遅くなるというふうに伝えています」
「それは助かる」
「ん? 何かありましたか?」
天宮が首を傾げて聞いてくる。本当に鋭いやつだ。
「恵先輩に会ったよ。まあ要約するとお互いに全力でやろうってことだな」
「へ〜。まあ勝負の内容も決まっていないですけどね」
「たしかにな」
互いに笑う。少しだけ気持ちが軽くなった。天宮と話すと何故か色々なことが上手くいくんじゃないかと思える。俺が天宮に甘えているだけかもしれないが。
「帰るか。というかこの時間なら別に制服じゃなくてもよかったな」
「そうですね。連絡すればよかったです」
そうして、俺は影の方で制服に着替えた。
「御園先輩、この服はどうしたらいいですか?」
「ああ、置いていってもらって構いませんよ。私のものなので自分で洗っておきます」
「なんだかすみません。じゃあお願いします」
先輩にもらった服を畳んで長椅子の上に置く。……あれ? これ、先輩の服だったのか。よく考えてみればそうだ。他にこの部屋を使っている人はいない。これはつまり、先輩が普段使っている服をノーパンで履いていたということだ。
「先輩、この服はまだこれからも使うんですか?」
「まあ普段もよく使っているものなのでそのつもりですが……何か気になることでもありましたか?」
「いや、そのこれ俺が直接履いてるからあんまりアレかなって」
御園先輩が意味に気づいて顔を赤くする。
「そ、そうですね! これはよくありません。不純です。その服は差し上げますのでどうかお持ち帰りください」
「いや申し訳ないですよ。先輩の服ですし」
それからお互いに押し付け合う形になり、結局俺が服をもらうことになった。
それから天宮を家に送って帰った。先輩は今日はこの部屋に泊まると言ってた。どうやら普段からここによく泊まっているらしい。どうりで着替えなんかがあるわけだ。
天宮を送った後の一人の帰り道、俺は恵先輩のことを考えた。
翌日 朝
登校中に再び天宮に会う。
「昨日はうまくやりましたね」
「なんの話だ?」
「先輩の服ですよ。最初から先輩の服を手に入れるつもりだったんでしょう?」
「そんなわけないだろ!」
「どうでしたか?美人の先輩が普段使っている服に股間を擦り付ける気分は?」
「いや着ている時は気づかなかったしそんなこと考えてない」
「ふ〜ん、でも帰ってからその服使ったんでしょう?色んな意味で」
まあ確かに昨日は帰ってからしばらく悩んで悶々した。
「使うわけないだろ。律花にあげたよ」
「律花さんはどんな気持ちでそれを着ればいいんですか」
「たしかにな」
そんな当たり障りもない話をしていると学校についていた。
「んっ?なんだこれ」
下駄箱に紙が入っている。
「律さん!これって!?」
天宮が向こうの自分の下駄箱から走ってきた。手には俺と同じ紙がある。
「お前の下駄箱にもあったのか。俺には覚えがないぞ」
そうして紙を開く。そこには墨で文字が書かれている。
ASMR同好会と風紀委員会の諍いについて
双方の勝負は生徒会が監督及び仲裁を行うものとする。
勝負の決定は以下の方法によって行うものとする。
演目 学校かくれんぼ
日時 8月28日 23時 場所 前立高校グラウンド
朝5時までに校内にいる全ての同好会メンバーが活動不能になった場合、風紀委員会側の勝利とする。
この場合、生徒会は制服のジェンダーレス化を承認する。また、ASMR同好会は即座に解散とし一ノ瀬律の風紀委員会の強制加入を認める。
同好会のメンバーが時間までに一人でも活動可能であった場合、同好会側の勝利とする。
この場合、風紀委員長“高梨恵”の同好会への強制加入を認める。また、その扱いに関して風紀委員会の一切の関与を認めない。
また、風紀委員会及びそこに現時点で所属している者は以降のASMR同好会及びメンバーに対してあらゆる権力の行使をできないものとする。その者らが何らかの方法で危害を加えた場合、あらゆる権力を以て厳しく処罰する。
当日までの双方の動きは生徒会が監察する。当日に著しく影響を与えるような妨害行為が認められた場合、その陣営を即座に敗北とする。
生徒会長 獅子宮十叶
「これは……」
俺と天宮はその場で考え込んだ。遠くから綾乃先輩と千春が走ってくるのが見えた。