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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
42/251

お前はそれでいいのか?

グラウンド隅 風紀委員会の集会

「おい!1分遅刻だぞ。早く並べ!」

「すみません!」

俺と天宮は慌てて列に入る。

俺たちが着く頃には場は静まり返り、整列が完了していた。

列の前には朝礼台があり、横には恵先輩をはじめとした見知った顔が並んでいた。

「あっち側にいるってことは美咲ちゃんって偉かったんですね」

「まぁ、書記だからな。役職持ちは向こうなんだろ」

天宮と声を潜めて話していると、恵先輩が朝礼台に登った。

「今から集会を始めます」

周りから拍手が起こり、合わせて俺たちも拍手をする。

「ええっと、まずは先日の痴漢冤罪について」

俺の話だなと思いながら聞いていると、適切な処分が対応した風紀委員に行われたことが分かった。

どうやら、この前の風紀委員の態度は組織として許容されているものではなかったらしい。

「意外と普通ですね」

「たしかにな。この前の訓練風景を見たから、もっとやばい集会だと思ったよ」

それからも連絡事項や普段の心がけなどの当たり障りもない話が行われた。

その間、誰も言葉を発さず粛々と進行が行われた。

「そして最後に」

これで終わりか、意外とあっけなかったな。これなら戻って同好会に顔を出せそうだ。

そう思っていた時だった。

「以前から風紀委員会が生徒会に提言している制服のジェンダーレス化について」

恵先輩がそう言った途端に集会が一気にざわつく。今までの静けさが嘘のようだ。

「静かにしろ!まだ、委員長が話しているぞ!」

ジェンダーレス化?たしか性別に関係なく制服の着用が認められたり、男女関係のないデザインを導入したりする取り組みだ。

昨今は時代の流れで導入する学校も多い。なぜ風紀委員会がそれを生徒会に提言するのだろうか。

「今回の話し合いでも受理されませんでした」

再び、会場のボルテージが上がる。

「お前達、いちいち騒ぐんじゃない!」

しかし、今度は制止の声も会場の声にかき消されている。

耳の敏感な俺にとってはこういった騒がしい空間はかなりストレスがかかる。治りかけの右耳が仇となった。

「大丈夫ですか?律さん。顔色が悪いですけど」

「ああ、大丈夫だ。それよりこれは一体」

生徒会による制服のジェンダーレス化の拒否。

どうして風紀委員会はここまで熱狂しているんだ?明らかに風紀委員会の領分ではない。

耳を澄まして他の風紀委員会の声を聞き分ける。

「生徒会の横暴だ!風紀委員会を下に見ている」

「なぜ生徒会は認めないんだ!?生徒会長の力を使えば導入は難しくないだろ!」


「これじゃいつまで経っても、委員長に女子の制服の着せてあげることが出来ないわ!」


今なんて言った?

『委員長に女子の制服の着せる?」』

頭を働かせる。周りの音を意図的にシャットダウンして集中する。

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ずっと疑問だったのは恵先輩のことだ。

恵先輩は生徒会と風紀委員会の力関係を変えるために生徒会長と懇意の俺を無理やり引き入れた。

ではその力関係を変えて何がしたかったのか?

恵先輩はただ単に権力を求めるような野心家には見えない。


制服のジェンダーレス化。

恵先輩の態度、発言。

恵先輩のカリスマによってのみ統率された風紀委員会という巨大な組織。

異常なまでの恵先輩への忠誠心。


綾乃先輩のことを思い出す。エロ漫画家アサギ本人にも御しきれないファンクラブ。

御園先輩のことを思い出す。御園先輩のコントロールを外れて離脱した『宗教部』。

1人の人間が、ましてや学生が強い意思を持った集団を制御できるのか。


前の風紀委員会幹部達を見る。全員が険しい顔で沈黙している。美咲ちゃんは眉に皺を寄せ、椿先輩は泣き出しそうな顔をしている。

あの愉快な菊門寺先輩でさえ、その表情はどうしようもなく暗い。

そしてその中で恵先輩だけが表情を変えなかった。


『お前はそれでいいのか?』

芽吹先生、どうやら俺はそれでよくないらしいです。

俺は列をかき分けて朝礼台に躍り出た。

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