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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
35/252

敗北

 風紀委員会室

「"また、会おうね"って言ったけどこんなに早く会うなんてね」

 恵先輩が少し恥ずかしそうに笑う。

「ええっと、どういう心境の変化かな。僕としては嬉しいんだけど」

「あなたが噂の風紀委員長ですか。初めまして、天宮清乃と言います。大変失礼ですが、何があったかはあなたが最もご存じでは?」

「いや、本当に何も知らなくて! 唯花ちゃん、説明してくれる?」

「はい、委員長」

 菊門寺先輩が恵先輩に近づいて説明をする。菖蒲さんは入り口から動かない。あの先輩が一人でちゃんと説明できるのか不安だったが、意外にもスムーズに説明は行われた。


「なるほど……ごめんね。唯花ちゃんは思い込みが激しいから。ほら、唯花ちゃんも謝って」

「そのごめんなさい。まさか、昨日の件が完全な冤罪だったなんて」

「昨日、美咲ちゃんから個人的に連絡があったのを共有してなかった僕も悪いから許してあげて?」

 あれ? これはもしかして風紀委員会に入らなくても済むのでは。

「じゃあ、俺は帰っても……」

「う~ん?」

 恵先輩が椅子から立ち上がって。こっちへ歩いてくる。押されるままに後ずさる俺に恵先輩が両手を俺越しに壁に手をつく。壁ドンだ。

「ダメだよ?ここまで来て帰すわけないじゃん」

「いや、そうは言っても入る理由が……」

 恵先輩、色気が凄いしお日様のいい匂いがする。あと、すごく顔が近い。この距離で見るとまつ毛が長いし、顔が小さいのが良くわかる。

「ねえ、何でダメなの?いいじゃん入っちゃえば」

「いや、俺には同好会があるので……」

 そう言うと恵先輩が左耳に口を近づけて囁く。そして、左手を絡めてペンを握らせてくる。

「ほら、風紀委員会に籍入れて?入れちゃえ。入れろ」

 くっ、まずい。前は聞こえづらい右耳だったが、今回はバッチリ聞こえる左耳だ。

 恵先輩の持つ書類に左手が伸びる。恵先輩の後ろから凄まじい殺気を感じるが、今は気にならない。

「あ~ほら、(籍が)入っちゃう。見て見て♡すご~い♡律くんの(ペンの)先っちょが僕の(書類)とピッタリくっついてるよ♡」

「俺は負けない……!」

「負けてもいいんだよ♡ほらっ、そこ。んっ♡そう(名前書くの)上手だよ、とっても気持ちいい♡」

「くっ、くそ~~~!」

 

 気がつくと書類に俺のサインが書かれていた。

「やったー!これで律くんも風紀委員会だね。これから一緒に頑張ろ♡」

 そう言いながら恵先輩は上機嫌でデスクへ戻る。

 反対に俺は地面に崩れ落ちる。

「メスガキ音声で鍛えている俺が負けるなんて……」

「チッ、どうせ一回も勝てたことないでしょう」

 天宮が蔑んだ目で見ている。今回ばかりは完全に俺が悪い。

「天宮ちゃんも入るの?僕はどっちでもいいけど」

「入らせていただきます。このバカを放っておくと戻って来なそうなので」

「はい、じゃあこれ」

 恵先輩が同じ書類を天宮に渡す。

 天宮が俺の手からペンを奪い取る。そのついでに蹴り飛ばされた。ひどい。


「じゃあ、二人とも最初は唯花ちゃんの元で働いてもらおうかな」

「えっ、私の元ですか? 申し訳ありませんが私の手には余るかと……」

 明らかに嫌そうに菊門寺先輩が目を逸らしている。

 この人にそんな扱いを受けるなんて、あまりに不名誉だ。

「じゃあ、桜木君のところだね。あっちはけっこう武闘派だけど大丈夫?」

 武闘派か……たしかに相手の戦力は把握しておきたいから丁度いいかもしれない。

「まぁ、上手くやります」

「あの、勝手に返事しないでもらえます? 駄犬の分際で」

「すみません……」

 これは激おこモードだな。後でちゃんと謝ろう。

「じゃあ、美咲ちゃんと椿先輩もつけるね。仲良さそうだし」

 恵先輩は笑顔のままだが、その語気に少し棘がある。

「あの2人とは別に何ともないですよ」

 俺を庇った事で2人が怪しまれているのかもしれない。立場を悪くしたなら申し訳ないな。

 ただ、正直言ってあの2人がいてくれるのは心強い。椿先輩は少し不安だが。


 そして、俺達が諸々の手続きを終えて風紀委員会室を立ち去ろうとしていた時だった。

「でもよかった、来たのが天宮君で。千春ちゃんが来てたら断ってたかも」

「……ちなみに理由を聞いても」

 部屋が静まり返る。

「僕、彼女のこと嫌いだから」

 そう言う恵先輩の顔にいつもの笑顔は無かった。

 そして、俺と天宮は風紀委員会室を後にした。

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