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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
32/251

作戦会議

 一ノ瀬律宅 一ノ瀬律の部屋

「ここが律さんの部屋ですか。律花さんの部屋には何度も入りましたが律さんの部屋は初めてです」

 あのあと俺達は予定通り同好会設立のお祝いをするために俺の家に来ていた。ただし、祝杯だけではなく風紀委員会への対策の作戦会議も含んでいた。

「じゃあ、飲み物とか持ってくるから大人しくしてろよ」

「お手伝いしましょうか?」

「いや、いいよ。お盆に置いて持ってくるから一人で運べるさ」

「そうですか、わかりました。では大人しく待っているのでお願いしますね」

 笑顔で天宮が言う。

 こいつが大人しくするわけがない。必ず俺の部屋のエロ本を探すだろう。しかし、両親への対策のために俺は基本的に電子書籍でしか買わないので全く問題はない。

「備えあればなんとやらだな」

 俺は悠々と飲み物の準備を行なった。


 余裕の態度で部屋に戻ると、天宮が成人向けの同人誌を読んでいた。

「なんでそれがここにあるんだ!?」

 あれは電子版が売っていなくて、仕方なく買った同人誌だ。しかし、あれは学校のロッカーに隠していたはずだ。

「ああ、これは私のです。あれ?もしかして律さんも読んでます?」

『不感症の僕の妻がチャラ男に寝取られる夜 18』を閉じて天宮が聞いてくる。

「これ、『それでも心だけはっ』って1巻からずっと言ってますけど、もう3巻の時点で完全に堕ちてる思いません?」

「知るか」

 バカは無視して部屋の中心のテーブルに飲み物を置く。

「先輩は何してるんですか?」

「ああ、私のことはお構いなく」

 先輩は俺の机の上で何かを必死に描いている。もう何となく察しはついているが、中身を覗き込む。

『律、こんなこと出来ん!』

『そうか千春、ならこいつはお預けだな』

『あっ♡それは』

 俺と千春のエロ漫画が描かれていた。

「ダメだっ!返してくれ! 私の作品を待っている読者がいるんだ!」

「ダメに決まってるでしょ! なんてもの描いてるんですか!」

 先輩から原稿を引っ張り上げる。というか、本人の前では絶対に描くなよ。

「こんなもの千春が見たら……あれ?千春はどこだ?」

 そういえば千春の姿がない。

 そう思った時、俺のベッドの毛布がモゾモゾと動くのが見えた。

 まさかと思って、毛布をめくる。

「えっ」

 顔を真っ赤にした千春と目があう。

「……」

 すぐに毛布を戻す。何も見なかったことにした。

「よしお前ら。俺はこれからお菓子を持ってくるからそれまでに普通の状態にしとけ」

 そう言って、部屋を出た。


「わざわざありがとうございます、律さん」

 お菓子を持って部屋に戻ると全員がテーブルを囲って座っている。

 ドアを開ける瞬間、綾乃先輩が床の下に何かをしまうのが見えたが気のせいだろう。この人でも他人の部屋に勝手に収納ギミックを作らないと思う。思いたい。

「それで律さん、懲罰房で何があったんですか?」

「ああ、それはー」

 俺はあの部屋で起こったことを全て話した。


「なるほど、律さんを風紀委員会に……」

 みんなが顔を俯いて考え込んでいる。

「まあ最悪の話、俺が兼部すれば済む話だ」

「君はその状態で今の成績を維持できるのか?」

「それは……」

 綾乃先輩の言う通りだ。

 間違いなく、俺は成績を落とす。同好会に入っていることは両親に秘密にしているが、成績を落とせば原因を追求されバレてしまうだろう。

「それに、律一人で解決しようなんて水臭かよ」

「でもどうやって……このままだと俺のせいで同好会が」

 全員が再び考え込んだ。


「潜入捜査はどうだろうか?」

 しばらくしてから綾乃先輩が発言した。

 潜入捜査か……悪くない。たしかに美咲ちゃんと椿先輩のやりとりは気になるところがある。風紀委員会といっても一枚岩ではないのかもしれない。そこをつければあるいは……

 ただ、

「綾乃先輩がそれを言うと失敗しそうですよね。現に何回も敵に捕まって改造されたり娼婦にされたりしてますし」

「誰が対○忍だ!?」

 俺の代わりに天宮が思っていたことを言ってくれた。

「まあ、でも潜入捜査自体は悪くない。俺が風紀委員会に入れば潜入捜査と時間稼ぎの両方ができる」

「時間稼ぎ……。そうです! 同好会じゃなくて部活にしてしまえばいいんです!」

 天宮が閃いたように言う。俺も同じことを考えていた。規模の小さい同好会ならともかく学校から正式に認められ予算もある部活なら簡単には潰せない。

「でも、部活には5人いるとやろ? あと、顧問の先生も必要なはず」

「顧問の先生なら俺に一人だけ心当たりがなくは無い。ただ、5人目の部員がな」

「それならば、私に当てがある。美術室での一件の時に探しておくと言っただろう。あれから一人だけ見つかったんだ」

 5人目のメンバー見つかっていたのか! まともな人がいいが、今まで先輩が何も言わなかったということは訳ありな気がする。


 そして話がまとまり始めた。

 俺が風紀委員会に潜入し、情報を集めながら時間を稼ぐ。その間に同好会を部活へと昇格させる。

「よし。なら明日から俺がー」

「私も風紀委員会に潜入します」

 突然、天宮が言う。

「いや、お前もって言っても難しいだろ。一応、風紀委員会はクラスに5人って決まってる。俺は特例として認められてもお前までは流石に」

「腕を怪我している律さんの補佐という体で入ります。あっちからしたら何としても律さんに入って欲しいのですから、これぐらいの条件は飲むでしょう」

「たしかに……」

 俺一人よりも二人で行った方が効率はいいし、お互いにフォローできるか。

「悪いな天宮。巻き込んでしまって」

「それ禁止です。私たちは同好会の仲間なんですから変な気遣いはやめましょう」

 つくづくいい仲間を持ったと思う。ただ、普段の行いがもう少し良ければな……

「明日からって言ったけど、まだ早いんやなか? あっちも急に理由もなく同好会を潰したりはせんやろ」

「たしかにな。部活への昇格を進めつつ、いよいよ危なくなったら風紀委員会への潜入作戦を始めるか」

 そうして、その日の作戦会議はお開きになった。


 この時は誰も風紀委員会への潜入作戦を明日から始める羽目になるとは思いもしなかった。

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