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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
風紀委員会編
28/251

ガールズトーク

 美術室前 廊下

「律さんって私たちのこと、どう思っているんでしょうね」

 天宮さんが突然言い放つ。

「どうって、同好会の仲間じゃないのか?」

「そういうのではなく、もっとこう踏み込んでっていうか」

 そう言って気難しい顔で腕を組んでいる。

「女子としてどう見てるのかってことやろ?」

「そうです! さすが千春さん。どこかの頭対○忍とは違います」

「誰が頭対○忍だ!?」

 天宮さんと服部先輩のこのやりとりも最近では恒例になっている。律に『あいつらの言っていることでわからない言葉があっても絶対に調べるな』と言われているため、この二人のやり取りについていけないことも多い。

 今度、対○忍って調べてみようやか

 聞く話によると、対○忍というのはゲームらしい。うちにはヌイッチしか無いけどプレイできるだろうか。

 

「まあなんだ、そういう話か。浮いた話はよくわからないが、私のことは頼れる先輩と思ってくれていると嬉しいな」

 いや、あなたは残念系の先輩やなか? 

 思ったが言わない。

 先輩が子供みたいに照れくさそうにしているので思わず目を逸らすと、天宮さんも黙って目を逸らしていた。

「どうして目を逸らすんだ!?二人とも!」

「言いづらいですけど、あなたは残念系の先輩ですよ。律さんが呆れた感じの目で見てるの気づいていないんですか?」

「くっ! そ、それは気づかないようにしていたのに!」

 そう言いながら、服部先輩は半泣きで天宮さんに突っかかっている。そして

「痛っ!痛いっ!やめろ、乳をもごうとするな!」

 逆に天宮さんからおっぱいを捻り上げられていた。

 おっぱいってあんなふうに変形するったい。

 そして、自身の胸を見る。服部先輩ほど豊満ではない、そこそこの大きさ。ただ、天宮さんには勝っていると自負している。本人には絶対に言わないが。

「千春さん、いま私のこと絶壁って言いました?」

「なんも言ってなかよ!?」

 この通り、天宮さんの前で胸の話はNGなのだ。というか目、怖っ。

「じゃあ、天宮君はどうなんだ? 自分は一ノ瀬君からどう思われていると考えるんだ?」

「それはもちろん、清楚系正ヒロインでしょう」

「「えっ」」

「えっ」

 服部先輩と私のハモリに対して、天宮さんも小さく驚いたように声を出す。

「いやいや! だって最初に律さんを誘ったの私ですよ。一人でいた彼を優しく導いてあげるなんて完全にヒロインじゃないですか」

「君はもう少し自分を客観的に見た方がいいな。君は正ヒロインじゃなくて性ヒロインだ」

「綾乃先輩にだけは言われたくないです! うまいこと言ったつもりですか!?」

 二人がまたキャットファイトを始めた。

 それにしても、さすがに清楚系正ヒロインはないと思う。清楚の部分は置いとくとしても“正ヒロイン”というのはいただけない。

「千春さんも私のこと清楚系正ヒロインって思いますよね!」

「“正ヒロイン”は違うんやなか?」

「そんな! どうしてですか!?」

「だって、律ってけっこう私のこと、その、あれやろ?」

 自分で言うとすごく恥ずかしい。でも、律って私がメッセ送ったらすぐ返してくれるし、山でのことだってあるし。あの時、ずっと一緒にいたいとも言ってくれた。

「ええっと、千春さん? もしかして律さんが千春さんのことを好きだと……」

「だ、だって、そうやなか? 穴の中で、私が耳を舐めたときもすごくその~」

「えっ?なんですかその話。というか舐めたらどうしたんですか!?」

「その凄く大きくして……」

 これ以上はとても言えない。顔から火が出そうだ。

「天宮君、これは……」

「はい、これはまずいですね」

 二人が神妙な面持ちになっている。

「いいですか、落ち着いて聞いてください」

 どうしたんだろう。もしかして律にはすでに彼女がいるのだろうか。私とは遊びだったらどうしよう。でも、たとえ律に彼女がいても一緒にいたい。あれ、胸が痛くなって。

「その話聞きたくなー

「律さんはシスコンなんです」

「えっ?」

 シスコン? シスターコンプレックスのこと? たしか、妹さんって律花さんだっけ。

「ええっと、それがどうしたと?」

「私と綾乃先輩でずっと話していたんです。律さんの千春さんを見る目が良くないと」

 隣で服部先輩が頷いている。

「一ノ瀬君は千春君のことを妹にしようとしているんだ」

「妹にする?」

「はい。しかも律花さんってまだ中学生でしょう? あの人、ロリコンも少し混じっていると思うんですよね」

「ロリコン!?」

「はい。千春さんて身長もそんなに高くなくて、律花さんと同じくらいなんです。胸の大きさも隣の乳牛と違って均整の取れたほど良いサイズですし」

「天宮君、最近少し酷すぎないか!?」

「つまり、そんなちょうどいい千春さんを新たに妹にしようとしているんですよ彼は」

「そんな……私、お嫁さんじゃなくて妹になるってこと……?」

 二人が黙って頷く。

「でも、大丈夫です。私たちがシスコンモンスターから千春さんのことを守って見せます! 千春さんを妹になんかさせません」

「ああ、私たちがついているぞ」

「天宮さん! 服部先輩!」

 二人は優しく首を横にふる。

「どうか清乃と呼んでください」

「私もだ。苗字ではなく、綾乃と下の名前で呼んでほしい」

「清乃ちゃん! 綾乃先輩!」

 3人で熱い抱擁を交わす。

「でも、ロリコンって言うのは言い過ぎやなか? 妹さん、中学生といっても1歳しか変わらんとやろ?」

 ピコンッ

 スマホからメッセージの通知が来る。

『痴漢冤罪で捕まった。助けて』

 シスコンモンスターがグループにメッセージを送っていた。

「全く仕方ありませんね、あの人は」

「ああ、いつも厄介ごとに巻き込まれている気がするぞ」

 そう言いながら二人が支度を始める。

 そして、私たちは彼の元へ向かう。

「あれ? 律の居場所ってわかると?」

「説明してませんでしたか?」

 そう言いながら清乃ちゃんがスマホのアプリを見せてくる。

「あの人、ほったらかすとすぐに一人でどこかに行ってしまうので位置情報がわかるようにしておいたんです。あとでアプリのURL送りますね」

 そういえば、入院中にスマホを操作できない律が清乃ちゃんにスマホの操作をお願いしていた気がする。あの時か。

「ちなみに律はそのこと……」

「知りませんよ。知ったら対策するじゃないですか、あの人」

 今更ながら、おかしな集団に入ってしまったと思った。

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