年齢不詳の女
麻乃さんと会って、しばらく。
「ええっと、ひとまず先にみんなと合流したいんですけど」
「あら、他にも人が来ていたのね。あの子、学校のことはあんまり話さないから。友達がいたのね」
「? 麻乃さんは、綾乃先輩のいとこですよね?」
「ええ、そうよ。あなたと同じ歳のね」
「えっ同じ歳?」
さすがに同じ歳は……とても高校生には──
ヒュッ
「ひぃっ」
「ひぃっ」
飛来したクナイにギリギリで避ける。後ろで帰零先輩の悲鳴も聞こえたので、先輩もギリギリで避けれたらしい。うん、声がしたから死んではいないはず。
「なんで急に攻撃を」
「ごめんなさい。手が滑ったわ」
「き、気をつけてくださいね」
有無を言わせぬ笑顔にこれぐらいの注意しかできない。後ろから非難の小突きがする。
「あの人、絶対に危ないよ。とにかく歳の話は無しで頼むよ」
「いやだって」
「だっても何もない。ほら、よく見るんだ。高校生にしか見えないだろう?」
絶対にそれより大人っぽく見えるが、背中にひんやりとした刃物の感触があったので口をつぐむ。下手なことは言うなという帰零先輩からのメッセージだ。
「それで、実は他にも捕まっている友達がいて」
「なるほど。わかったわ、先にあなたたちの友人と合流しましょうか。最悪、その場で……」
麻乃さんが小さな声で何か言ったが、聞き取れなかった。
「さて、じゃあその友達の居場所はわかるのかしら?」
「はい。少し遠くですが、天宮の声が──痛っ」
背中に刃物がチクっとする。
「何するんですか」
「彼女たちの居場所なら私が、把握しているから。こっちだよ」
ぐいっと帰零先輩が俺の腕を抱き寄せて歩き始める。
「あら、二人とも仲がいいのね」
「そうだね。私たち、同じ屋根の下で暮らしてるから」
「あらっ、付き合っているのかしら」
「いや付き合って──痛っ」
酷い、どうしてこの人は暴力で言葉を伝えるんだ。言葉がナイフなのか。
「いいかい。まず、君の聴力のことは伏せる。どうにもあれは信用できない」
「でも悪い人ではなさそうですけど」
「本当に悪い人間というのはね、仏の顔をして相手の首を真綿で締めるんだよ。騙されている人間は本当に死ぬまで相手の悪事に気づけないものなんだよ」
「自己紹介ですか?」
「前から思ってたんだけど、君みたいな雑魚マゾにペニスがついていても百害あって一利なしだと思うんだよね」
脇腹に当たっていた刃物がパンツの中に滑り込むのが感じられた。もしかしたら今、俺の周りに味方なんていないのかもしれない。
「ほらっ早くいくよ。味方を増やさないと。」
「そうですね」
それは大賛成だ。帰零先輩キラーの天宮と一刻も早く会いたい。あいつと会いたくなるなんて、我ながら涙が出る。
「ちなみに、さっきあの人が言ってたこと、最後の方なんて言ってた?」
「いやすみません。聞き取れませんでした」
「聞き取れない?」
帰零先輩が眉間に皺を寄せる。
「そんなことは──」
「もう妬けちゃうわ。私も混ぜて♡」
「えっああどうぞ」
というかもうすでに腕に抱きつかれていた。綾乃先輩に負けない立派なお胸が当たっている。
「マジで君は……」
せっかくあの海で命拾いしたのに、こんなことであの時の帰零先輩の目的が果たされることになりそうな、そんな目をしている。
そんな嬉しさと恐怖が拮抗した状態で俺は、天宮たちの元へと向かった。