突撃家庭訪問
風も吹かない夜。
「目標地点まであと300m。いったん止まってください。相手の索敵圏内に入ります」
インカムから聞こえる九重先輩の声。
「ここから先は一気に走る。ついて来れる?」
「もちろんです。それより先輩の方こそ大丈夫ですか?」
「誰に言っている」
そう言って俺の腹を強く肘で殴ったのは梅野楓。かつて風紀委員会と戦った時にバチバチに対立した人だ。
それから美咲ちゃんと恵先輩がいる。この四人が綾乃先輩の救出チームになる。そして
「そっちは大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」
声は御園先輩。あっちは御園先輩と桜木先輩のチームで、陽動をすることになっている。
「いい? 僕たちの目的はあくまで綾乃ちゃんの救出。だから不用意な戦闘は避ける。いいね?」
「わかってますよ。というか戦って勝ち目もなさそうですし。一番気をつけるべきは梅野だろ?」
「杜若、お前、覚えていろよ」
「二人とも喧嘩しない」
今回はやることがやることなだけあって人数はかなりしぼっている。そのため
「十叶先輩、天宮のやつまだ怒っていますか?」
インカムで尋ねる。
「ああ、怒っていたな。当然と言えば当然の判断だが納得いかないらしい。ひどい剣幕で帰ったぞ」
「帰った?」
少し、というかだいぶ気になるが今は気にしていられない。
「本当に私は行かなくてよかったのか?」
「ええ、大丈夫です。その代わり、俺たちに何かあったときはお願いします」
「……わかった」
戦闘力としてはかなり惜しいが十叶先輩は俺たちに何かあった時に交渉役として残ってもらった。それにこの人が絡むと家柄もあって、子供のお痛では済まない。政治が関わってきてしまう。
「まあ、私の出番などないことを祈る」
「ありがとうございます」
「ではまず陽動部隊、突入してください!」
俺たちがいるのは巨大な屋敷の裏口。御園先輩たちは表門から突入する。時間差で入った俺たちは俺の耳と恵先輩の一撃必殺で強行突破する。先輩のインターバルを埋めるのが風紀委員会の二人の仕事だ。
それでも恵先輩の体力は帰りまで保つかわからない。したがって帰りの切符は綾乃先輩の戦闘力にかかっている。
「ほんとに情けない作戦だね」
「それは仕方ないですよ」
そんな会話をしてすぐ
「では救出部隊、突入してください」
その号令がかかり、俺たちは屋敷に向かって全力疾走した。
「律くん、重くない?」
「びっくりするくらい軽いですよ。ちゃんと食ってます?」
「ありがとね」
どんな索敵がされているかわからない服部家に対して、とった対策は遠距離からの突撃。しかし、恵先輩の体力をそこで浪費するわけにはいかないため、俺が運ぶことになっていた。
「絶対に落とすなよ、貴様」
「そんなこと言ってる暇があったら走ってください!」
そして息も絶え絶え、俺たちは大きな屋敷の裏口に辿りついた。