彼女の座標
俺たちは早速、作戦を立てるための準備に取り掛かった。そのためにテーブルにそれぞれが向かい合ったところで作戦会議は始まる前に行き詰まった。
「こういうのいつも綾乃先輩がやってましたからね」
「そもそも彼女の居場所はわかっているのか。相手はあの服部家だぞ」
「会長、知ってるんですか?」
「お前たち……」
そんなことも知らなかったのかという表情の十叶先輩。
「いやあれでしょ、なんか忍者がどうのって」
よく考えてみれば、あの人の家について詳しく聞く機会を持たなかった。現代忍というはちゃめちゃに気になる内容にも関わらず、あの人の人間性の面白さのせいでわざわざ聞くことがなかった。
「天宮が対○忍ってばっかりいじるから」
「私のせいにしないでくださいよ」
不毛な責任のなすりつけあいをする。そもそも人と接する時に相手の家のこととかあんまり聞かないだろうから、どちらのせいでもないと思うが。
「落ち着け二人とも。服部家については……まあ、対○忍みたいなものだと思ってくれていい」
いいんだ。
「まあ、任務の内容は魔物やオークと戦ったり、オークに○されたり、改造されたりするものではないが」
後半は対○忍も別に任務でやっているわけじゃないだろ。
「服部家の任務はまあ色々なスキャンダルとか犯罪組織の摘発、抑制……まあ公安みたいなものだと思えばいい」
「なんでそんなに詳しいんですか?」
「まあ、父親の関係でな。全く無関係ではないということだ。とはいえ、私の父でさえも服部家の詳細はその家の場所も含めてよくわかっていない」
「学校に登録されている住所は」
「もちろん家はあるが、生活している様子はないな。おそらく武器を持って突入しても、もぬけのからだろう」
その言葉を聞いて、部屋の空気が重くなる。
「じゃあ、どうするの?」
手入れをしていた刀をしまって、恵先輩が立ち上がる。
「……私もできる限りのことをしてみよう。だが、正直言ってあまり期待はできないな。あそこはほとんど国の機関に近い」
「剣凪さんは何か知りませんか?」
「彼女が普段暮らしている家に行っては見ましたが、何も。今日もらった手紙や服も私の家に届いていただけですから」
気になるのはそこだ。手紙はともかく、そのスーツを贈ることが家の検閲下で許されるだろうか。それがあるということは綾乃先輩は何か家の監視を抜けてそれを……いや、こうなることがわかっていてあらかじめ送っていたのか?
「……そのスーツ、本当に先輩が送ったものか?」
「どういうことですか?」
なんとなく発した言葉に天宮が首を傾げる。
「いや、そのスーツって服部家特製の大事なものだろ。それを捕まってる綾乃先輩が遅れるのかなって。まあ、捕まる前に送ったのかもしれないが」
「でも、手紙にもスーツのこと書いてあるばい」
「それなんだよなあ」
千春から手紙を受け取って、眺める。
追伸 一緒につけたスーツは君がこれから先、どうしようもなく危機に巻き込まれた時に使ってくれ。変な勘違いはしないように
スーツについての言及があるのはこの文章。
「こんな文章、律さんにあ〜ん♡助けてぇん♡って言ってるようなものですよね」
「嘘喘ぎやめろ」
しかし、この馬鹿の言うとおり。こんな文章を見て、助けに行くのをやめる俺たちでないことは確かだ。そのぐらい、あの人はわかっている。
「となると、この手紙自体、怪しいですね」
「まあ、それはまだ考える余地があるとして、このスーツは絶対に怪しい」
そうしてスーツを開いて、隅々まで調べる。このスーツには武器を週のするための隠しポケットがたくさんあるのだ。
「……あった」
スーツの右腕部分のポケットに入っている紙屑を取り出すと、そこには座標が書かれていた。