サンタコスをしちゃダメな人
そうしてクリスマスイブの夜。
みんなが家に集まった。
「今日はお邪魔するね」
恵先輩、カジュアルな私服。
「飾り付けから場所まで色々とありがとうね。これ、大したものやないけど」
千春、可愛らしい私服。
「お邪魔する」
綾野先輩、赤い痴女の格好。
「なんて格好してるんですか!」
何食わぬ顔で入ってきた綾乃先輩は股間の隠れるギリギリの丈で、おっぱいは大事な部分こそ隠れているが球体の半分から上が完全に見えている。
ついにエロ漫画と現実の区別がつかな苦なったのかもしれない。
「もしかして……痴女のコスプレですか?」
「そんなわけあるか! サンタのコスプレだ!」
「そんなわけあるか! オーストラリアのサンタでもそんなに露出度高くないわ!」
「それは……仕方ないだろう……ネットで買ったらこうだったんだ」
ネットってFA○ZAのことだろうか。
「なら着てこなくてもいいじゃないですか。そんなどすけべな格好でよく捕まりませんでしたね」
「隠遁の術だ。フッ私は忍者だからな、造作もない」
「野外プレイとかできそうですね。というかそんな格好で街を歩いてる時点でもう」
「ちょっと失礼じゃないか!?」
「いや、後輩の家にそんなムチムチな格好でくる方が失礼だと思いますよ」
そう言われて、綾乃先輩が短い布を引っ張って、
「ムチムチって! そもそもコスプレ以外は不可って言ったから」
「言ってませんけど」
周りの二人が呆れるような、憐れむような目で見ている。
「あれ? 綾乃先輩、その格好……」
そこに元凶がやってきた。
「天宮君! これはどういうことだ! 君に言われたから私は」
「いやコスプレしてきてって言いましたけど、まさか痴女のコスプレをしてくるとは」
「痴女じゃない! サンタだ!」
「いやそれでサンタって、エロゲじゃないんですから」
確かに対○忍RPGみたいなサンタ衣装だ。
「仕方ないだろう!? サイズが合わなかったんだ!」
「なんかあれですよね。NTR漫画だと、この時点で気づかなかったらダメみたいな……あれ、もしかして綾乃先輩、NTRれ中ですか?」
「誰が、チャラ男の趣味に染まっていく清純系彼女だ!?」
「まあ、確かに清純ではありませんね」
そこにもう一人。
「皆さん、私までお呼ばれしてしまって」
雪のような白さをもった清楚な格好できたのは、剣凪先輩だった。
「うわっあなたはなんて、はしたない格好を」
「言うなあ!」
もう半泣きになってしまった綾乃先輩を慰めつつ、リビングへと入る。
「そういえば、他の二人は?」
潮水さんと十叶先輩がいない。
「あの二人なら遅れてくるらしいですよ」
「あっそう」
天宮から聞いて、少し安心する。急にやっぱりこないなんてこともあり得るからな。
ピンポーン
そこで呼び鈴が鳴る。
「はーい」
そうして出ると、ちょうどその二人がやってきていた。
「あの……十叶先輩、その格好は?」
「なにっどうして他のみんなはコスプレをしていない!? いやっ一人だけ痴女のコスプレをしてはいるが」
「痴女じゃない! サンタだ!」
「そんなサンタ、エロゲでしか見たことないぞ」
くしくも天宮と同じツッコミだ。
「そういう君の格好もどうなんだ」
「私は……そのトナカイさんだ。おかしいか!?」
トナカイのもこもこのコスチュームをしている十叶先輩は、少しだけ顔を赤らめている。
「いや全然、おかしくないですよ」
「ありがとう……でも、どうして私と潮水と、そこの痴女だけコスプレなのだ?」
隣の潮水さんは、どこからどう見てもサンタのコスチュームだ。こんな冬にやや可哀想な薄着だが、丈が長いこともあって、さらにその体型もあって綾乃先輩のようなことにはなっていない。
「どうして、あなたたちだけコスプレなのか? そんなの私が適当こいたからに決まっているじゃないですか!」
胸を張る天宮。
「貴様っいつもいつも私をコケにしおって!」
「べーだ。やれるものならやってみてくださいよ」
「よしっやってやる」
そう言って靴を脱いで、家に上がり込む、というか殴り込む十叶先輩。
「やーん怖いです! 律花さん!」
通りかかった律花に抱きつく天宮、それをみて、車さながらのブレーキ音を出して止まる。それから忠臣のように膝をつき
「これは妹君。初目にかかります。私は獅子宮十叶、何卒、末長くよろしくお願いいたします」
トナカイの姿でやるとなかなか滑稽だが、それでも元々の育ちの良さやオーラのおかげでそれでも花になっている。
「あっどうも。あなたが獅子宮十叶さんですね。清乃ちゃんから聞いてます」
「清乃ちゃんから……?」
ぴくりと眉が動く。
「それはちなみにどういう風に」
「えっあ〜いや〜」
完全に目が泳いでいる律花。ロクなことを聞かされていないのだろう。
「貴様、マジで覚えていろよ」
「私は事実だけをお伝えしてますよ」
二人がバチバチに睨み合う中
「私はきてもよかったんでしょうか」
潮水さんが小さい声で言う。
「気にしてないって何回も言っただろ」
「でも、今回のようなパーティーに私も帰零さんも参加するっていうのは」
「じゃあ、何か企んでるのか?」
「いや全然、そんなことはなくて」
「ならいいだろ。誰かを省いてパーティーをするのとか楽しめるタチじゃないんだよ、俺も天宮も」
本当は風紀委員会や生徒会、その他のメンバーも呼んだのだが、みんなそれぞれ忙しいらしい。呼びかけを担当した天宮曰く
「文乃さんと環先輩、匂いますよ。なんか断り方も妙でしたし、クリスマスに二人とも予定っていうのは」
「えんな詮索するなよな」
「え〜いいじゃないですか。誰も人が集まらなかったら、誰かのデートを冷やかしに行きましょうよ」
「どんなクリスマスだよ」
なんて会話があったのも昔、無事に人は集まった。
いつの間にか、綾乃先輩が上から茶色のコートを羽織っている。
「あの……それはそれでガチ犯罪者感が出るので」
「妹さんの教育に悪いと思ったんだが」
確かに良くない。
そんなこんなで、綾乃先輩は俺の制服のシャツを着ることになった。
「エッロ」
「勝手なこと言うな!」
胸元がパツパツになった自分の制服から透けてサンタのコスプレが見えるのがとんでもないな、と思っていたのを天宮に見透かされた。