クリスマスの下準備
クリスマスイブ 当日
ちょうど今日、終業式を終わらせ、冬休みへと突入した俺たちは家でクリスマスの飾り付けをしていた。一人を除いて。
「先輩もしませんか?」
「なんで私が」
「先輩も参加するんでしょう」
「は? しないけど」
帰零先輩は学校から帰ってすぐ俺のベッドに横になっている。
「いやしましょうよ」
「きみ、本当に反省しないね。また攫っちゃうよ?」
「それは困りますけど」
「なら参加して欲しいなんて言わないことだ」
「でもプレゼント買ったんじゃないですか」
この前、天宮と二人で買い物をしていたのを見た。帰零先輩が実際に買っているのを見たわけではないが、買わないのであればわざわざ一緒にはいかないだろう。
「そういえば、天宮とはどうなんですか。だいぶ長いこと一緒に住んでますけど」
「彼女は……彼女はもうよくわからないね」
あの帰零先輩が憑かれたような顔で言う。
「もうなんて言うか、好きなようにさせることにしたよ、彼女は」
ダメな子供に言うやつだ。
今思えば、計画で彼女を戦力外として無視した私がバカらしくて仕方ないね。そりゃ失敗もするさ」
「いやまあ、あいつは別に特別に強いとかいうわけではないですから」
自虐的になる帰零先輩を慰めるように言う。
「強くはないけど、特別だ。特別というかめちゃくちゃだ」
「まあ、それはたしかに」
「だから、この前の買い物も彼女に言われて付き合っただけさ」
「なりほど。わかりました」
そうか、なら非常に心が痛むが仕方ない。でも帰零先輩にはいろんなことに参加して欲しいし、いろんな人と会って欲しい。
この人が抱える闇についてはわからないし、途方に暮れるばかりだが、一人にだけはしない方がいいとわかる。
だから
「えっ帰零先輩、参加しないんですか!?」
天宮を連れてくる。
帰零先輩がジロッと俺の方を睨んだ。
「私が参加してもいいのかい。どんなことになっても知らないよ」
「いいですよ、別に。する気もないでしょう」
「もう私がしたことを忘れたのかい?」
一瞬だけ、空気がピリつくが天宮はそれをモノともしない。
「こんなの今更攫っても何にもなりませんよ。欲しいですか? これ」
「う〜ん、まあいらないかな。エロ本の趣味も悪いし」
俺の心がダメージが着実に入っているが気にしない。というか、何で俺のエロ本のレパートリーを知っているんだ?
「なら参加してください。もししてくれたら、律さんが前編で買うのを止めてる『妻はもう帰らない 淫蜜の夜』の後編、かしてあげますよ」
「……なら仕方ない」
「えっ俺も」
「は? テメェで買ってくださいよ」
「お前、俺のコレクションの『夏に堕ちる』、勝手に読んだだろ。知ってるんだからな」
「…………仕方ありませんね、今度貸してあげますよ」
なんで上から目線なのかはわからないが、まあいい。
帰零先輩の参加が決まったところで、再び準備に取り掛かる。
帰零先輩は天宮と律花がしている準備に混じったものの、ツリーの丸い飾りを消しては天宮の肩に出現させるというマジック、もとい嫌がらせを続けていた。
その間に俺はもう一人の説得にかかるため、電話を取り出す。
「十叶先輩、今日は参加してくださいね」
「……もちろん参加はする。しかし、それはやつを見張るためで」
「そういうのは無しで」
「……」
この人が、色々と責任を感じているのもわかるが、そろそろ解消したい。
「そもそも私は同居にも反対だ。それにもかかわらず」
「……それでも帰零先輩も以前とは違いますし」
「それでもだ。それに私がいては空気が悪くなるだろう」
「なりませんよ、あなたみたいなコメディ要員が増えても」
「誰がコメディ要員だ!?」
あなたですよ。まったく
「いいから来てください。こういうのは歩み寄りですから。互いに」
「……しかし」
「来なかったら、二度と口ききませんから」
「そんな!?」
ブチっ
そして電話を切る。
さて、うまくいくだろうか。