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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
クリスマス編
231/252

我慢の限界

 世の中、いろんな人間がいていろんな出来事がある。そんな荒波の中を我々は生きているわけだけど、それでも、もう無理!限界だ!って日がある。

 それが今日である。

「……もう律さん。いつまでそうしているんですか?」

「う〜〜〜〜」

 帰零先輩が家に来てからついに2ヶ月が経った。

 12月の初頭、雪こそ降っていないがかなり寒い。

 家ではすでに毛布やヒーター、コートといった冬の装備が姿を表している。

 この2ヶ月、帰零先輩はもちろんのこと、天宮も半同棲と言っても過言ではない体制だった。

 あの事件の後処理、と言うより個々人のケアを行い、帰零先輩の誘惑をかわし、天宮のボケを処理する毎日。


 自分で言うのもなんだが、人間的にまあまあ頑強な方だと思っていた精神についに限界が来る。

「休日だからって、昼間まで布団の中で唸ってるなんてらしくないですよ」

「う〜〜〜〜〜〜〜」

「まあ、そうですよね。この半年、本当にいろんな事件がありましたから。怪我と入院をありえないスパンで繰り返してましたもんね」

「……」

 確かにそれはある。この半年間、ありえないことが連続で起こった。

 得るものは数え切れない。

 しかし、しかしだ。

「もう無理だ!」

「律さん……」

「お前だってわかるだろ!?」

「それはそうですが」

 天宮が気まずそうに顔を背ける。

「ぐううっ」

「元気出してください、律さん。ああ、でもこの場合は……」

「ううっ〜〜」

 ツッコミの声も出ない。


 美人の先輩と同棲、さらに様々な色仕掛けをしけられる日々。帰零先輩のパンツの種類を全て覚えているくらいには彼女のパンツを見た。

 さらには見た目だけはいい同級生、天宮。ラッキースケベ、というか偶然風呂上がりにばったりしたり、天宮が使ったすぐ後の風呂やトイレでよくないことが頭をよぎったり、色々とあった。

 人によっては、というか全男子が憧れる生活。のはずだった。

「律さん……」

「ほっといてくれ! というか一人にしてくれ!」

「そのぉ私でよければ……」

 らしくもなく天宮が恥ずかしそうに顔を赤らめて

「抜いてあげましょうか? へへっ」

「いらねぇよ、ばか! 一人にしてくれよ!」

 そう、限界だった。性欲が。

「急なオナ禁2ヶ月がつらいのはよくわかります」

「嘘つけ! お前、時々、自分の家に黙って帰ってたろ! あの時、何してた!」

「律さん、女性にそんなこと聞いたらダメですよ?」

「やってんじゃねえか!」

「そりゃ、私は我慢できませんから。2ヶ月も我慢したら、もう何するかわかりませんよ、私」

「知ってるよ、ばか……」

 あ〜もう限界だ。正直いって休日の昼に自分の部屋で女子と話しているこの状況も意味わからん。

「俺、泣いちゃうぞ?」

「泣いたら湯婆婆が来そうな言い方ですね」

「フッ! フゥッ!」

「ついに言語まで……可哀想に。律さん、性欲の発散を手伝うことはできませんけど、話聞きますよ?」

「いいのか?」

「はい! もちろん、ここでの話は誰にも言いませんから」

「本当に言わないか?」

「はい!」

 そうか、なら──

「綾乃先輩のおっぱいがデカすぎる」

「あ〜確かにそうですね」

「正直いって最近は先輩と話す時に胸しか見てないから顔の記憶がぼやけてる」

「まあ胸は第二の顔って言いますからね」

「あと、千春の距離が近い。なんか色々とずっと近い」

「あ〜はい、それですね」

「恵先輩も十叶先輩の面が良すぎる。あと、この二人も距離が近い! もう部室で安心なのは御園先輩と潮水さんぐらいだ」

「大変ですね……って、私はどうなんです? 安心じゃないんですか?」

「お前は……」

 もうここまで色々と口走った以上、変に隠すのもおかしな話だ。

「お前はんかいい匂いがするんだよ。家の中がもうずっといい匂いがするんだよお!」

「なんか……ごめんなさい」

 どこか恥ずかしそうにしている天宮。

「最初の1ヶ月はいい。なんなら体の調子も良かった。でも2ヶ月目だ。もう頭がおかしくなる。こんな誘惑の中で誰が耐えられるってんだ! 昨日も俺の布団の中に帰零先輩が裸で寝てたぞ! 間違いが起こったらどうするんだ!」

「知りませんよ……」

 ごちゃごちゃ言われて、呆れ返る天宮。

 しばらくの間、部屋が静まり返る。


「……律さん」

「なんだ?」

「今日はみんなでこれから買い物に行くんです。帰零先輩、冬物の服とか諸々持ってませんから。ご両親もいないみたいですよ?」

「……まじか」

「はい……そのなんというか、頑張ってください!」

 両手でガッツポーズをして天宮は部屋を出ていった。

 その日は最高の休日となったのだった。

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