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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
同好会設立編
22/252

後日談1 天宮清乃と服部綾乃

 A.M 9:00 病院のベッド。

 俺はあれから1週間、意識が戻らなかった。今は目を覚ましてからも三日が経つ。学校では夏休みが始まっていた。

 まだ両腕は使えないが、回復傾向にあるらしくこの調子なら数ヶ月で治ると言われた。

 あの怪我がこのスピードで治ることは異常らしく、医者が驚いていた。

 ついでに言うと、傷ついた右耳の鼓膜が完全に治るのにはもうしばらくかかる。

 千春は俺よりも先に回復して退院したらしい。心配していた後遺症もなく、普通に生活を送っているそうだ。

 今日から家族以外の対面でのお見舞いが許可される。

 天宮達が昼から来てくれるらしく、嬉しいような恥ずかしいような気持ちがする。


「何やってんだよ、兄ちゃん」

 昨日来た律花には少し怒られてしまった。

 いつも通り学校に行って、帰って来ないと思ったらこれだもんな。律花には心配をかけたに違いない。

 無言で頭を差し出す律花を撫でたことで、生きて帰って来たのだという実感が湧いた。

 そして、学校の教材を持ってきてくれたことはかなりありがたかった。

 普段の成績を鑑みて通知表はつけるが、高校に入って最初の定期試験だったために参考にする点数がなく形だけでも試験を受けてほしいと言われている。


「失礼します」

 昼になって部屋のドアが開く。

 制服姿の天宮と綾乃先輩が入ってくる。

 2人は入ってくると、俺のベッドの前に椅子を並べて座った。

「あれ、千春はいないのか?」

 入ってきたのは天宮と綾乃先輩の2人だった。

「本当に千春さんのことが好きなんですねー。私たちじゃ不満でしたか?」

「いや、そんなつもりは」

 天宮が不機嫌そうに言う。

 たしかに2人に対して最初に言うべき言葉じゃなかった。

「今回、色々すまない。そしてありがとう」

 しっかりと目を見て言う。

 2人には今回の件でどれだけの迷惑と心配をかけたかわからない。

 天宮が小さくため息をつく。

「別に謝ることはないですよ。約束通りみんなで戻ってきてくれたんですから。それにー」

 天宮が少し目を伏せる。

「元はといえば、私が同好会を作ろうとしたのが発端なんですから。さっきはいじわる言ってごめんなさい」

 天宮が頭を下げる。

「勘弁してくれ。らしくもない」

 天宮は今回の件で後ろめたさを感じていたらしい。こういうところは変に真面目だから反応に困る。

「先輩も本当にありがとうございます。先輩がいなければ何もできませんでした」

 先輩の方に頭を下げる。

「一ノ瀬君、少しいいか?」

 真面目な顔で先輩が言う。

 どうしたのだろうと顔をあげると

 バチンッ

 頬に痛みが走る。

 ぶった先輩の方を見ると涙をいっぱいに溜めている。

「2度とあんな道具の使い方はしないでくれ」

 先輩の声が震えている。優しい先輩に、こんなことをさせてしまい罪悪感を覚える。

「すみません……」

 本当に申し訳ないことをした。もし、俺があのまま死んでいたら先輩は自身を責めただろう。

 俺が目を覚さない間もずっとに気に病んでいたに違いない。

「私こそすまない。あの時も一緒に落ちてあげるべきだったんだ」

 そう言いながら、叩いた頬を労るように優しく撫でる。

 あの時、先輩は俺達に届かないと判断して即座に対応を切り替えた。

「いいんです。先輩が残ってくれてなかったら全員まとめて生き埋めでしたよ」

 空気を和ませようと笑いながら言うが、どうにも空気が重い。

「そういえば律さん、両腕なんかは分かるんですけど耳はどうなさったんですか?」

「お前のせいだよ!何回、俺の鼓膜を傷つけたら気が済むんだ!?」

 天宮と先輩が笑う。

 意外と天宮はこういうときに気が利くやつなのだ。場の空気を変えるために言ったのだろう。耳の件はそれでも許さんが。

「傷の方はどうなんだ?どれくらいで治りそうなんだ?」

 先輩が心配そうに聞く。

「調子はいいみたいです。数ヶ月すれば治るって」

「ならよかった。毎晩、忍び込んでこれを塗った甲斐があった」

 そう言って、先輩がバッグから取り出した小さな壺を開ける。

「何ですか?それ」

「これは、家に代々伝わる代謝を促進する塗り薬でな。塗ると傷の回復を早めることができる」

 そう言いながら先輩が壺の中身を手に取る。ピンク色のローションみたいな見た目だ。

「性感度が上がったりしませんよね?」

「媚薬じゃないぞ!?」

 そっか、対◯忍でよく見るやつじゃないのか。

「えっ、それ媚薬じゃないんですか!?どおりで変化がないと」

「試しに少しくれと言うからあげたのに、何に使ってたんだ!?」

 俺が眠っている間に何をしてるんだこいつは。


「そういえば、同好会はどうなった?認めてもらえたのか?」

 それを聞いて天宮と先輩が顔を見合わせる。

「何言ってるんですか。律さんが学校に戻ってくるまで待つに決まってでしょう?」

 おかしそうに笑う。

「そうか。なら千春は入ってくれるんだな」

「いえ……それは」

 天宮が言葉に詰まる。

 どうしたのだろう。何かあったのだろうか。

「まぁ、本人に直接聞くのがいいだろう。なに、心配することはないさ。君ならきっとうまくやれる」

 気にはなるが、まぁ先輩がそう言うなら大丈夫だろう。

「ところで律さん、一つお聞きしたいのですが」

「なんだ?」

「地面の中で救助を待つ間、千春さんと何かありました?」

 何か……特に何も無かったと思うが。その辺の記憶って少し薄いんだよな。

「ならいいんです。千春さんに聞いた時に様子が変だったので、律さんがヤッたのかと」

「ヤるわけないだろ!?お前は俺のことを何だと思ってるんだ」

「えっ、シスコンの変態じゃないんですか?」

「変態はお前だ!そういえばお前、俺の股間揉んでたろ!」

「だったら何なんですか?あんなふにゃちんをぶら下げている方が悪いんですよ」

 その理論でいくと、男性は◯起してないと善人になれないじゃないか。

「まぁまぁ、2人とも」

 睨み合う俺と天宮を先輩がなだめる。

「そろそろ時間です」

 そう言いながら看護師の田中さんが入ってくる。

「ああ、すみません。行きましょうか、先輩」

 天宮と綾乃先輩が席を立つ。

 1人でいても退屈だから、もう少しいて欲しかったけど仕方ない。

 2人を見送る。


「……かわるがわる女性が来るんですね」

 田中さんが言う。

 田中さんは俺の担当をしてくれている看護師の人だ。両腕の使えない俺の身の回りのことはこの人がやってくれる。

「いや、昨日のは妹ですよ。知ってますよね」

 チッ

 えっ、今この人舌打ちした?

「まぁ、構いませんよ。そうやってふんぞりかえっているといいんです。そして、私のように婚期を逃しなさい」

 患者に何てこと言うんだ……

「いや、田中さんも美人なんだから相手なんかすぐに見つかりますよ」

「ハラスメントです。死んでください」

 生死の境を彷徨っていた患者に言うことじゃないな。

「それじゃあ、性処理を始めます。ズボンを脱いでください」

「いや、無いでしょ!そんなの」

 田中さんがズボンに手を伸ばそうとするのを身をよじって避ける。

 この人、俺がつっこんでくれるからってめちゃくちゃボケてくるんだよな。

「ちっ、ガキが」

 ペッ

 顔に唾を吐かれる。

 こういうのって色んなコンテンツでよく見るけど、実際に会うと興奮より面白いが勝つな……

「そういえば、この後にも1人女性が面会に来ますよ。妹が4人もいて羨ましいです。両親はさぞお盛んだったのでしょう」

 どうして、この人は社会で働けているんだ?

 俺は日本の人手問題に思いを馳せながら本日3人目の訪問者を待った。

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