獅子宮帰零の脱出マジック
祝勝会は賑やかに続いた。
最初はギクシャクしていた生徒会の二人も恵先輩を通して次第に打ち解けていった。
「しかし、十叶先輩、それに九重さんまで来てくれるなんて思いませんでしたよ」
「まあ私たちも参加していいものか悩んだがな」
「ええ、私は断るべきだと言ったのですが」
「いやしかし律の誘いとあれば、断るわけにはいかないだろう」
「まったく……本当にこの人は」
俺の誘い?
帰零先輩が配慮して俺の名前で招待を出したのだろうか。まあ、確かにその方が何かと都合がいいのか。
「それでは私、獅子宮帰零から余興を披露させていただきたいと思います」
帰零先輩がパンパンと手を叩いて言う。
それぞれが興味と気分でバラバラに会話していた中で注目が集まった。
「もちろん、余興は手品だよ。では失礼して」
それから帰零先輩がシルクハットやトランプを取り出し、
「タネも仕掛けもございません。獅子宮帰零の奇術ショー開幕だよ」
パチリと先輩がウインクをして、それから耳元の青いピアスがキラリと光った。
お〜〜!!
流石の手際で次々と手品を成功させていく。
テレビなんかで見ていて、ああ言うのはカメラワークの問題だと思っていたが、目の前でやられると、それこそ魔法のようにしか見えない。
「あれ? 天宮はどこにいったんだ? こういうのはしゃぎそうなのに」
「清乃ちゃんのこと、幼児だと思ってない?」
「違うのか?」
隣の千春が呆れるような、それでわからなくもないという微妙な顔をしている。
「清乃ちゃんはなんかさっき人に呼ばれて行かなくちゃいけないって。たしか環先輩がどうとかって」
「環先輩?」
こんな時に環先輩から天宮に? 一体、何の用だろう。
「一ノ瀬律くん? ちょっといいかな?」
「えっ? 俺ですか?」
「そうそう」
帰零先輩が俺を手招きする。
みんなの視線が集まる中、俺は手品を披露する先輩の隣に立った。
「それじゃあ、協力してね。今回のはとっ〜〜ても難しいから」
そう言いながら帰る零先輩が器用に俺に鎖を巻いていく。そしてあっという間にそれらに南京錠をかけていった。
「これから行うのは脱出ショー! この状態でさらに私にも手錠を。千春ちゃん、してもらっていい?」
「えっ? ああ、はい」
そう言って帰零先輩に千春が手錠をかける。
「ではこの状態で私と彼があのロッカーに入ります。もちろん、ここの備品なので仕掛けはありません」
いやここの備品はとある忍者のせいで仕掛けだらけなのだが、それは黙っておこう。
「じゃあ、ちょっとロッカーを開けてもらって」
そうして、みんなに見せるようにみんなに千春がロッカーのドアを開ける。中には何もない。
「それっじゃ、私たちが入ったらそこにおいてあるチェーンをロッカーにかけてくれるかい?」
「わかりました」
そうして俺と帰零先輩がロッカーに入り、外から錠が掛けられた。
中はもちろん暗い。
目が慣れないせいで感じるのは
「んっ……あんまり動かないでくれるかい?」
「あっすみません」
ここ最近もこんなことがあった気がする。
それはともかく帰零先輩の胸の感触とか、魅力的な太ももの感触がダイレクトに伝わってきていた。
「ところで、これどうやって出るんですか?」
「うん、それは問題ないよ」
暗がりの中でぼんやりと帰零先輩の手が何か棒状のものを持っているのがわかる。
「リモコン?」
その時にはすでに先輩の手には手錠がない。やはりタネがあったらしい。
「じゃあ、ちょっと危ないから怪我しないようにね」
「は?」
そして赤いボタンを先輩が押すと同時に
ロッカーの床が抜けた。




