祝勝会
恵先輩とのハプニングから二週間程度、すでに10月。冬に向けて木々が衣替えを始めている。
過ごしやすい季節には違いないが、今年の秋は存外に寒く、水道から出る水の冷たさに驚かされることもしばしばだった。
「祝勝会なのにずいぶん時間が空いちゃいましたね」
放課後の廊下、部室に千春と一緒に向かっていると、天宮と出くわす。
「まぁ、仕方ない。みんな、それぞれ忙しかったからな」
「会長や恵先輩が特に忙しいそうやったけんね」
主催の帰零先輩から中々みんなの予定が合わずに申し訳ないと連絡が来ていた。
俺たちとしてはほとんどやってもらう側だからそんなことは気にしなくていいのに。
「なんか色々準備してくれるみたいですし.楽しみですね」
「なんだか悪いよな」
「気にしすぎですよ。こういうのは素直に喜んだ方がお互いのためですから」
「だな」
3人で会場のASMR部へと向かった。
「来たか、一ノ瀬君」
「綾乃先輩、って人多いですね」
「まぁ、関わった人自体が多いからな。生徒会も来ているのはなんだかなってら気もするが」
「むっ、来てはいけなかったか?」
綾乃先輩との間に十叶先輩が割ってくる。隣には九重さんまでいる。
「いや別に責めるつもりはないんだ」
「いやこちらこそすまない。冗談のつもりだったんだが」
なんとなく気まずい空気が流れる。この二人は打ち解ければ相性は悪くなさそうだが。
「あら、遅かったわね。媚薬ゼリーにでも足を取られていたのかしら」
「いや、そんなわけないでしょ。えっというか何ですか、もしかして怒ってます?」
中央の机に並んだお菓子を一人勝手に食べてながら理乃ちゃんがじぃっと睨んで来ている。
「いや悪いね。この前の一件で風紀委員会からガサ入れがあったものだから機嫌が悪いんだ」
「知音先輩まで! 本当に勢揃いですね」
「まぁ、環くんたちはいないけどね」
言われてみれば姿が見えない。たしかにこの面子ならいてもおかしくないと思うが。
「そう、あなたのラッキースケベのせいでとんだ被害を受けたわ」
「いやあんなもの作るからでしょ。危ないですよ、あれ」
「……使い方次第よ」
「あれに媚薬以外のどんな使い方があるんですか」
「それは使う人次第ね。彼女ならきっとうまく使ってくれるわ」
「彼女って……もしかして誰かに渡したんですか?」
恵先輩の目を気にして、小声で聞く。
「天宮さんに」
「いやダメでしょ」
どうしてあいつに媚薬を渡して、それ以外の使い方を期待できるのか。後で回収しよう。
「やあ、みんなお待たせ!」
そうして、部室のドアが勢いよく開かれる。
入ってきたのは帰零先輩だった。
「うん、みんな揃ってるみたいだね。じゃあ、さっそく始めようか」
天宮がコップにジュースを注ぎ始めたから、俺も続いて準備を始める。
そして
「それじゃあ、ASMR部祝勝会を始めます! 乾杯!」
部長天宮の音頭で祝勝会が始まった。