one more pray
ドッッッ
救出活動が行われている場所でこもった爆発音がなる。
すでに日没を迎えて辺りは暗い。
頼りになるのは救助隊のヘルメットに付いた懐中電灯の灯りだけ。
服部綾乃はその中で辺りを飛ぶ蛍の光が何かを避けるように一勢に動くのを見る。
―クナイ?
空に浮かぶそれをよく見るとそこにはワイヤーがくくりつけられている。
彼女は考える前に飛び出していた。
今度こそ、その手をとってみせる!
彼女は空高く飛び上がり、クナイを握る。
「全員、ワイヤーを引け!」
突然現れた少女に救助隊は驚くが、その気迫に押され慌ててワイヤーを引く。
そこには確かな手応えがあり全員がワイヤーの先に何があるのかを悟る。
今の爆発で、緩くなっている地盤が崩壊し再び土砂崩れが起きる可能性は十分にあった。その場にいる全員がその危険性を理解している。
しかし、その場にいる人間の頭の中にあったのは全く別のことだった。
震えながら友人を助けて欲しいと叫ぶ少女
不思議なことに全員が彼女のことを思い出していた。
「見えたぞ!もっと引け!」
全員が息を揃えて引っ張る。
作業用の分厚いグローブをしている救助隊と違い、服部綾乃は素手でワイヤーを引いている。ワイヤーの巻かれた手には至る所から血が滲んでいる。しかし、彼女はそんなことを気にも留めない。
そして、ワイヤーにかかっていた負荷が消えるのを感じる。
「急げ!重症二人だ!急げ!」
二人を引っ張り上げることに成功した現場の空気はさらに緊張を高める。
現場の空気で二人の状態がよくないことを悟る。
胸が押しつぶされるような不安が押し寄せる。
「一ノ瀬君! 千春君!」
二人の名前を呼びながら全速力で駆け寄る。
そこにいたのは変わり果てた後輩二人の姿だった。
「これはー」
ひどい。ひどすぎる。
千春君は息をしていない。全身が真っ青で、酸素が十分に体に回っていないことが一目でわかる。
だが、それよりもひどいのはー
「これは生きているのか?……」
状況から察するに一ノ瀬君はクナイを射出するため小型爆弾を作動したのだろう。
千春君に衝撃が行かないようにスーツを破って施し、彼女を自分の体で覆ったのだ。だから、千春君には目立った外傷がない。
代わりに彼のはだけた体にはいくつもの出血と打撲がある。頭部からも致死量に近い血が出ている。何より酷いのはその腕だ。
指はあらぬ方向に曲がって、紫色を超えてどす黒い。両腕はところどころ肉が裂けて骨が露出している。右腕に関しては手首から肘にかけてが人体の構造に反して曲がっている。
「律さん! 千春さん!」
そこに天宮君が駆けつける。
「見ちゃだめだ!」
涙と吐き気を抑えながら慌てて彼女を抑える。これを彼女に見せるわけにはいかない。その使命感が血の気が引いて力の入らない体を無理やり動かす。
「先輩! 二人は!?」
「……」
何も言えない。
ただ、その沈黙は十分すぎるほどに彼女に状況を伝える。
「嫌です、私、一緒にいるって決めたんです!」
私を振り切って天宮君が彼らの元に向かう。
「ダメだ、天宮君……」
だが、追いかける気力はとうに尽きている。引き留めようとする手は力なく宙を切る。
ワイヤーで傷ついた手がジクジクと痛む。自分の無力さに肩が震える。
自分よりもずっと無力感に苛まれながら戦っていた少女の背中がとても強く見えた。
「頼む……どうか」
奇跡でもなんでもいいから
もう一度、強く祈った。




