さあ、ここからが
「これでゲームセットだな」
会長の手元で手作りのお守りが赤い弧を描いている。
それを見て全員が動きを止めた。
「……? なぜ試合が終わらない。まさか、情報がガセ──」
風切り音が会長の言葉を遮る。
「しまっ!」
「今だ! 一ノ瀬君!」
「はい!」
綾乃先輩が投げたクナイを会長がギリギリ弾く。しかし、その反動で持っていたお守りが宙に浮く。
“清乃ちゃん”
お守りにはそう書かれている。
「あの女っ!!」
(天宮! あの時か!)
生徒会室で密着した時のことを思い出す。
そして、持っていたクナイで会長に襲いかかる。
勝機はここ!
激しい金属音
「九重さんっ!」
「……」
クナイとナイフがカタカタと拮抗を鳴らす。
九重さんは何も言わない。
「あなたは何がしたいんですか」
「……」
気のせいか、九重さんの瞳が揺れたような気がした。
「よくやった、九重」
「くっ!」
会長の十字架に打たれる前に後ろに飛び退く。
「すみません、せっかくのチャンスを」
「いや構わない。大した隙でもなかった」
「そうだね、それにまた作ればいい。時間ならある」
恵先輩の視線は後方、廊下の暗闇に向けられている。
天宮と千春の姿はない。
「御園先輩はまだこれなさそうですね」
「相当、粘着質な相手みたいだな」
「仲間はずれか?」
暗闇がゆらりと蠢き、次の瞬間には視界を黒い髪が掠める。
「っ!」
「これを避けるか!」
「綾乃先輩!」
「まかせろ!」
会長の攻撃を避けて生まれた隙に、綾乃先輩が切り込む。
綾乃先輩の短刀が青白く夜の闇を裂き、千切れた黒髪だけがふわりとその場に留まる。
「危なっ──」
「僕を忘れないでもらおうかな」
「ッ──!!」
窓ガラスが悲鳴をあげて、その破片を撒き散らす。
それと同時に月光の元に一つの影が放り出された。
「……ここがバルコニーじゃなかったら死んでいたぞ」
「風紀委員会だからね、そのぐらいはわかっているよ」
2階のバルコニーには4つの影が並ぶ。
「九重、来なくていいぞ」
廊下に一人残った影は貼り付けられたように動きを止め、校内の影と一つになった。
「さあ、やろう。律。ここからがクライマックスだ」
額から血を滴らせ、会長は十字架に月の光を瞬かせた。




