決壊
「みんな! そこにいるか!!?」
扉の向こうから綾乃先輩の声がする。
「はい! 私たち3人、とりあえずは無事です!」
「わかった! すぐに扉を破壊して行くから! 持ち堪えてくれ!」
「了解です!」
勢いよく返事をしたものはいいが、しかしどうしたものか。こうなると会長も手加減はしてくれない。
「……もう来たのか。思ったよりも早いな。まあいい、扉を破ることはできないだろうし、こっちもすぐに終わる」
そして俺たちと会長の間を隔てていた千春の肩を掴み部屋の隅に投げ飛ばす。
「千春!」
「人の心配をしている場合か?」
「律さん……作戦通りに」
「わかってる、とりあえず避けろ!」
密着していた俺と天宮は二手に転がって会長の攻撃を避ける。
「何か策があるようだが無駄だ。私には通じない。それに彼女らも頑張っているようだが、どうやら扉は開けられそうにないようだ」
会長とじっと見つめ合う。
部屋の外からは激しい爆発の音や扉を叩く音が聞こえる。
「会長……」
「なんだ? 降参なら」
「嫌いです」
「…………? 聞こえなかった。今、なんて」
「会長のこと嫌いです」
外の爆音が遠くに感じる。会長はぴくりとも動かない。
「わかったぞ、くだらない。天宮の策だな。それぐらいで私が動揺するとでも」
「会長のその喋り方がまず嫌です」
「えっ? あっいやでもこれは仕方ないというか」
「すぐ殴ってくるし。さっき千春を投げ飛ばしたし、そういう乱暴なところすごく嫌です」
「これは勝負だから!! 君だって!」
「いや俺はまだ一回も殴ってないですけど」
正確にはまだ誰にも攻撃がヒットしていないだけだが。
「もういい、やめてくれ。精神攻撃のつもりだろうがちっとも効いていない。時間の無駄だ」
「そうやってすぐ話を逸らすところも。結婚しても仕事を言い訳に全く育児に参加しなさそう」
「結婚!!? 私と律が結婚……って違う! 誰がモラハラ夫だ! いや私の場合はモラハラ妻か?」
「全然人の話聞かないし、武器も変だし」
「武器は関係ないだろう! いいじゃないか、十字架、かっこよくて……」
会長の声が少し涙ぐんでいる。
「あと俺、ロングヘア好きじゃないんですよね。なんか邪魔そうで」
「律!!?」
「律さん!!?」
会長だけでなくなぜか天宮も反応している。そしてなぜか千春が自身の髪を触ってこっちをチラチラとみてくるが、さっき飛ばされた時に怪我がなかったみたいで何よりだ。
「クッ、願掛けのつもりだったが律が嫌なら本末転倒、切るか」
「律さん、私の髪の毛のことずっと邪魔そうだなって思ってたんですか!?」
「あと、会長の気持ち、正直言ってめちゃくちゃ重いです」
「!?」
何も攻撃していないのに会長が膝から崩れ落ちる。
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないか……わ、私だってぐすっ」
会長が本気で子供がぐずり出す前みたいになっている。もう一押しで号泣させられそうだ。いや、もちろん俺は紳士だからそこまではしないけど。
「会長」
ここで初めて九重さんが動き、会長の側に近づいて何か囁く。
「ああ、そうだな。わかっている。これも律のためだ」
そしてすぐに会長が立ち上がる。
「フッ随分とやってくれたな。控えめに言ってかなり効いたぞ。しかし、これまで」
会長が再びジリジリと近づいてくる。今度こそ手はない。俺の体もズタボロだ。あと、一度剣を交えれば負けは必至
「無駄な時間稼ぎだったな」
「いや、十分だ」
天井から声がする、と同時にその天井にヒビが入る。
「まさか!? 九重!!」
「みんな! 机の下に隠れろ!」
そして天井が崩壊した。




