時間稼ぎ
生徒会室
何度も刃を交えても会長には傷一つどころか、息一つ上がってもいない。
それに対して、俺の方は全身にあの大きな十字架の打撃を受けてズキズキと体が痛い。
「律さん! 私たちも何か!」
「いやいいっ! お前たちは後ろにいてくれ」
「そんな会話をしている暇があるのか?」
「チッ」
会長は器用に十字架の先を俺のクナイに引っ掛ける。そして、武器を止められ耐性を崩す俺の横顔に会長の肘が炸裂する。
「「どうした? さっきよりマシになったが、それでもまだ私の足元にも及ばない。九重が出る幕もないかな」
「ッ!!」
「おっと危ない」
一瞬飛びかけた意識をギリギリで繋ぎ止め、反撃する。それもひらりと容易くかわされてしまう。
「私も胸が痛いんだ。君を傷つけたくない」
「なら最初からこんな勝負」
「それは出来ない。どうしても君が必要なんだ。それに……いや、これを機にいう必要ないだろう。これは私たちの、いや私の問題だ」
「?」
「まあいい。そろそろ、決着をつけねばな」
「そうですね、会長。どうやら四宮さんたちの方がやられたみたいです。高梨恵と服部綾乃がこちらに向かってきます」
「御園マリアは?」
「あちらはまだ、粘っているようです」
「ふむ、なら問題ない。まずあの二人では扉を破ることはできない。それに来たところで、私一人で十分だ」
恵先輩と綾乃先輩が来てくれる!? 二人とも足止めに会っていたはずなのにこんなにも早く。だがやはり問題は
「千春さん、やっぱり難しそうですか?」
「うん。そもそもこの扉がどうやってロックがかかっとるのかもわからん。普通のドアに見えるけど、触ってみたら素材も厚い。内側からじゃどうにも」
それに、このままだと二人が来る前に俺がやられる可能性が高い。正直言って、立っているもの怪しくなってきた。
「じゃあ、そろそろ決着をつけようか」
「……」
さっきの天宮との会話で多少ペースが乱れると思ったが、全くそんな素振りはない。
しかし、弱音を吐いてはいられない。先輩たちが来るまでの時間稼ぎぐらいは
「ッ!しまっ」
しかし意気込みとは裏腹に、目眩が訪れ踏ん張っていた膝の力が抜ける。
「幕だ」
そしてかの十字架が俺の横顔へもう一度、今度はトドメの一撃として、残像を描きながら近づいて、俺の意識を刈り
「律さーーーん!!!」
「律っ!!」
取らない。
何が起きたかわからなかったが、気がつくと天宮と千春の二人が俺に抱きついて倒れている。どうやら二人が咄嗟に飛び込んで助けてくれたらしい。
「天宮、お前、頬に掠って血が」
「こんなの破瓜の痛みに比べれば」
「清乃ちゃん、破瓜の痛み知らんやろ」
「えっ? 千春さんは知ってるんですか?」
「はあ!? 知らんけど!! 律、私知らんけんね! その、だから私はしょ」
「千春、言わなくていいこと言ってるぞ」
千春が天宮に乗せられて、やや暴走気味になっている。顔を真っ赤にしてテンパっている様子が可愛いからしばらくこのままでもいいんだが。
「……悪あがきを。早く退くんだ。さもないと君らもまとめて」
「やれるならやったらいいやん! そもそも私たちもこのゲームの参加者、そのぐらい覚悟してきとる!」
ジリジリと迫ってきていた会長に千春が大きな声で言い返す。千春の反応に少し面食らったのか、会長が足を止める。さっきまでのあたふたした様子との差に俺も少しだけ驚いた。
そして、千春は立ち上がり、会長の行く手を阻むように両手を広げて立つ。
「……私がそのぐらいで止まるとでも」
「私はみんなみたいに戦えん。けど、律の身代わりになって時間を稼ぐことぐらいなら出来る。やってみせる」
「千春っ! 無茶は」
「律さん!」
天宮が小声で俺に呼びかける。
「なんだ、今は千春が」
「わかってますが、千春さんが時間を稼いでいるうちに私の話を」
チラリと会長の方を見ると、少しだけ逡巡しているように見える。流石に長くは持たないだろうが、今すぐにちはるを殴り飛ばす様子もない。
「いいですか──」
そして、天宮が俺に作戦を伝える。
その間もなぜか九重さんは動かなかった。




