こんな腐った世界も君となら
生徒会室
「どうした、律? そんなことでは私を倒すことなど出来ないぞ」
とても戦闘にむいているとは思えない十字架で、会長は俺の攻撃を軽々といなしている。こっちはすでに疲労が溜まってきているというのに、あっちは汗一つこぼす気配がない。
「しかし残念だ。ここまでパフォーマンスが落ちるとは。忌々しいな」
後ろに立つ千春と天宮を見て会長がそう言うと、俺のクナイを弾き飛ばす。
「……ここまでして何がしたいんだ。そもそも部活への強制参加の制度がなぜそこまで重要なんだ」
生徒会室のドアに何らかの仕掛けがあれば、こんな時間稼ぎは無駄かもしれない。
しかし、それでもあの先輩たちが駆けつけてくれるまで、負けるわけにはいかない。
「……わからないか?」
「わからないか、だって? そんなの俺が知るわけ」
「君を救うためだ」
「は?」
部屋の中で時が静止したような錯覚に襲われる。
「俺のため? 何がどうしてそんなことになるんだ」
会長はゆっくりと息を整え、集会で演説をするときのような佇まいになる。
「この世の中はクソだ。しかし、これは世界の理ではない。なぜなら、もはや人間はそんな世界なるものから切り離され、自らの世界を作り上げているからだ。それが社会だ。つまり、この世の悲劇はその社会を作った大人にある」
「……」
「しかし、今の大人たちのどこにそんな責任感がある? どいつもこいつも自分のことばかり。そんな世界で最も割を食うのは弱者だ。子供だ。だから私は目指す。子供同士の連帯を。私たち弱者である子供が、クソな社会に大人たちに反抗するために私たちは連帯しなければならない」
「そんなのは理想論でしか」
「そんなことはない。君たちはこれまでそれを見事に実践してくれただろう」
「それは……」
「さらにこの制度のおかげで君と天宮は出会えたのではないか? それが君たち二人にとってどれくらい大きなことかはわかるだろう?」
「……でもそれはあくまで結果だ。あんたがその理想を抱くことと俺に何の関係がある?」
「君の親だ。あれは……クソだ」
胸がどきっとする。この人はそんなことまで知っていたのか。
「私の親もかなりクソだが、あれに匹敵すると言える。そこから君を助けたいと思った。しかし家庭の事情に私のような子供一人が入り込むことはできない。だから大人を使おうとした。しかし、奴らもまるで他人事。いや彼らにとって実際に他人事なのだろう。同じ場所に生きる、目の前にいる子供がどんな境遇でいようと彼らにとっては他人事なのだ。こんな競争社会で、今日を生きるので精一杯の社会で、見返りを与えることのできない子供を助ける理由など彼らにはない。利益でしか物事を考えられない腐った大人たち。だから、私たちは共に助け合わなければならない。協力してあの大人たちを打ち倒さなければならない」
「……」
俺には何も言い返すことができない。なぜなら俺もその考えに少なからず共感できるからだ。もしかするとこの人も俺と同じような境遇なのかもしれない。
「ただ、私の理想にはまだ遠い。この学校一つでも綻びが生まれるほどだ。だから、君の力を貸してほしい。君と一緒なら私は何でもできそうな気がするんだ」
会長が目を輝かせる、もはや勝負のことなど頭からはないような表情だ。しかし、そこに言葉を挟むものがいる。
「私は一人でも律さんのことを助けましたよ」




