混じる
教室に入ると天宮と九重さん二人の姿が見えた。
迷わず天宮の方に走り、カメラを飛び蹴りで飛ばす。
「゛んんっ、゛んんん!!」
「待ってろ、今これ外すからな」
天宮の顔はすでに耳まで紅潮していて、呼吸もかなり苦しそうだ。
「くそっ、全然外れない!」
天宮を拘束している拘束具は頑丈で外れる気配がない。椅子自体もドライバーと金具で床にしっかりと固定されている。
ひとまず、後ろの機械の方を壊すしか──
チャリンッ
「?」
後ろの機械を破壊するべく、クナイを大きく振りかざした俺の足元に小さい金属音がする。
「その機械もタダではありません。その鍵で彼女の拘束具は外れるので、破壊しないでください」
そして、持っていたリモコンで機械の動きを止めてから九重さんはゆっくりと教室を出た。追いたい気持ちは山々だが、今この状況のまま天宮を置いていくわけにはいかない。
九重さんが投げた鍵を拾い、天宮の拘束具を一つずつ外していく。
「よしっこれで」
ついに天宮の口元を押さえていた猿轡を取り終わり、全ての拘束具を取り終えた。床に座り込む天宮の肩を支える。息は荒く、何も言わずずっと俯いている天宮は、俺の服の袖を強く握っている。
「……大丈夫か?」
俺は動画を見ていないから具体的に天宮がどんな状態だったのかはわからない。しかし、今の天宮の様子を見ればどんな状態だったのかは予想がつく。
「律さん……ちょっとだけ…ちょっとだけいいですか?」
袖を掴んでいた天宮の手が、俺の背中へと回される。強く握られたシャツが布越しに天宮の手の熱さを伝える。
無言で頭を俺の胸に埋める天宮の背中に腕を回して抱きしめる。少しだけ汗ばんでいる天宮の小さな震えが、天宮の不安を痛切に伝える。
普段ふざけ合っている、普段強がっている天宮の体が思っていたよりも華奢であることに少しだけ驚く。それと同時に天宮が下着姿であることを思い出して、黙って天井を見上げた。
天宮から春の懐かしい香りがした。
「ごめんな、怖い思いさせて」
「そう思うならもっと早く助けに来てください」
いつもの軽口にも力がないことを感じて胸が痛む。
「服着るか? 寒いだろ」
「着ます……」
そう言う天宮はしかし動き出す気配はない。かえって天宮が顔を俺の胸元にごしごしと擦り付けてくる。
「天宮?」
突然、天宮が俺のインカムを耳から取り少しだけ遠くに置く。天宮が小さく千春の名前を呟いたのが聞こえたが正確になんと言ったのかはわからなかった。
そして天宮が耳元で囁く。
「律さん……一瞬だけでいいんです。一瞬だけでいいので強く抱きしめてくれませんか? それでいつもの私に戻るので……」
天宮の顔が近く、肌でその熱を感じる。しかしその表情は見えない。ただ、いつものように笑ってはいないことだけはわかる。
わずかな戸惑いと躊躇いを真夜中の静けさが急かす。
そして、ゆっくりと壊れないよう、全身で天宮の体を強く抱きしめた。
どちらが止めるとも言えずに、俺たちは一瞬のような長い時間をその状態で過ごした。互いの心音が混ざっていたことだけを覚えている。




