放送
長剣が激しく体に襲いかかる。今回、スーツを着ていないため一撃ももらえない。
恵先輩の放送と激しい剣戟の音が夜の廊下に響くこと10分弱。
──時間がない
あの動画が送られ、この作戦の準備を始めるまでにおよそ10分を使っている。九重さんが提示したタイムリミットまでもう10分を切っている。
元々、俺と綾乃先輩の方は賭けの部分が大きく邪魔される可能性も高いため、そこまで期待していない。
問題は恵先輩たちの方だ。
あっちの作戦が本命であるにも関わらず、未だになんの報告もない。
「何か待っているのか?」
長剣を高速で振り回しながら六星レビが聞いてくる。無論、答える義理はない。
「何か動きが不穏だな。この状況で何をするつもりだ」
「少し集中したほうがいいんじゃないか?」
相手の攻撃が緩んだ場所にクナイを振る。牽制の一撃。相手が大きく後退した。
「なんだ!! 当て──?」
言葉の途中で六星レビが動きを止める。
「どうした? お前の方こそ来ないのか?」
「……なんだ、今の放送。いや放送自体じゃない、放送の音だ。今一瞬だけ途切れなかったか? この一帯だけ」
思い切り相手の懐に踏み込む。
「やはりこの放送に何かあるのか!!」
長剣が頬を掠るがそれを無視して相手の懐に切り掛かる。俺たちがそうしているように相手もインカムで繋がっている。すでに九重さんの方にも放送に種があることは、今の六星レビの声で伝わっているはず。まずった!
「放送? ──何もおかしなところはないと思いますが。何かあったのですか?」
「いいから放送を止めに! 俺はこの男の相手で動けない!」
「しかし漠然と放送がおかしいと言われても……? 急に放送の音が聞こえなく──っ! しまった!?」
俺たちの作戦は最初からこの放送にあった。天宮の動画には音がついていた。しかし、以前、俺が芽衣ちゃんを見つけたのと同じような手段は今の俺のコンディションでは取れない。
だから放送を使った。
全体放送を続け、その中で部分的に放送を切り、動画から放送の音が聞こえなくなれば、その時に放送を切った場所が天宮の居場所になる。
相手もインカムで繋がっている以上、校内を部分的に放送を流していけば相手にバレため、順々に切っていく方法をとった。それでもバレる可能性があったから敵を校舎の外、グラウンドに出したかったが、俺に釣られたのが一人だけだったため諦めて校内へと入った。
理事長室の脅迫は放送そのものを止められないようにするためだ。
何より怖かったのは、狙いがばれて動画の音、あるいは部屋のスピーカを切られることだったがうまくいった。
「律! 聞こえる!?」
「問題ない! そっちはどうだ?」
千春からインカムが飛んでくる。
「うん、大方の場所はわかった! 律が一番近い、東校舎の2階のどこか! あとはお願い!」
「俺もそうしたいところなんだがっ!!」
六星レビが俺に切り掛かってくる。それを受ける。互いに互いを足止めしている状況だが、俺たちの狙いがバレた以上、俺は一刻も早く動かないといけない。
「くそっ邪魔だ」
「行かせるか! 九重っ、居場所が割れているぞ! やることやって早くそこから移動しろ!」
「一ノ瀬君!待たせてすまない! 東校舎に走れ!」
追ってくる敵を背に飛ぶように移動する綾乃先輩の姿が見えたと同時、周りを大量の煙幕が覆う。
「ありがとうございます!」
俺はその場から全力疾走で離脱した。
敵二人に対して綾乃先輩一人を置いていくのは心苦しいがあの人ならきっと大丈夫だろう。それよりも今は
「天宮っ!」
指定された場所の教室の窓を次々と叩き割っていく。しかし、全く見つからない。
「律っ! 急いで!」
「わかってる!!」
千春の切迫した声から、見なくても動画の中の天宮がどのような状態にあるのか予想がつく。
急がないといけない。しかし
「!? 千春、本当にこの場所で合ってるのか!? 教室は全部見たぞっ!」
「間違いない! 移動もしてないからそこにいるはず!」
天宮も九重さんの姿も全く見つからない。
その時、
「゛あっ〜〜〜〜!!!!」
大音量の声。これは恵先輩のものだ、普段、天宮と特訓していたおかげだろうか、かなり声が張っている。
しかし、今はそんなことを考えている場合じゃない。今の放送はここら一帯、さらに教室の音を切ったもの、つまり教室以外である準備室や会議室に対して行ったものだ。その中で、おそらく九重さんが慌てて部屋のスピーカーの電源を落としたために、化学準備室だけ音がしなかった。
「天宮っ!!」
なりふり構ってはいられない。綾乃先輩からもらっていた爆薬をドアに投げつける。
激しい破裂音と爆風。
そして
「大丈夫かっ!!?」
天宮の姿を見つけた。




