作戦開始
「ピンポンパンポーン。校内放送、校内放送。前立高校の清く正しい生徒の皆は耳を澄まして聞いてね」
恵先輩の校内放送を俺はグラウンドから聞いていた。
「ええっと、まず天宮ちゃんの件。降参して今すぐにでも助けたいところなんだけど、僕たちにも意地があるからね。だから僕たちは宝物を誰が所持しているのか、そしてその人物がいる場所を教える。それで天宮ちゃんを解放してほしい」
俺は千春から動画を見ないように言われているため、その交渉がどうなっているのかはわからない。
「じゃあ、宝物を持っている人物を教える。もしかしたらもう察しているかもしれないけど、持っているのは律くん。そして律くんは今、グラウンド中央にいる。まあ、それは見て貰えば早いかな」
校内からなんとなく視線を感じる。
「いや、君たちもわかっていると思うけど、その人質のやり方で勝ったとしても律くんは絶対に納得しないし、きっと生徒会、いや生徒会長のことを一生許さないと思う。どうだろう、このあたりが妥協点だと思うけど」
これでうまくいくといいが。
そう思っているところにインカムから綾乃先輩の声がする。
「一ノ瀬くん、やはり交渉は失敗だ。頑張ってくれ」
ということらしい。
「あれ? 全然、天宮ちゃんが解放されないんだけど。え? それだけじゃ解放するわけないって? 酷い……」
恵先輩のしゅんとした可愛らしい声がする。それと同時に校内から複数の足音がする。どうやら早いところ勝負を終わらせたいらしい。
「ああ、それともう一つだけ伝えないと行けないことがあったんだ。いや僕たちは止めたんだけどね。マリアちゃんが我慢できないって言ってね。うん、今はどこだったかな。ああ、そうだ、会長のお父さんがいつも使ってる部屋、理事長室で暴れてるみたい。頑張って止めてね」
校門の入り口付近にうっすら見えていた人影が動きを止める。今の放送を聞いたからだろう。
恵先輩の言う通り、理事長室と言うのは会長にとって触れられたくないらしい。生徒会室と迷ったが、なんらかの対策が行われていることを考えて、理事長室にした。「
「さて、どのくらい俺に人を割いてくれるかな」
学校入口の方を見ると、人影が一つだけやってくる。
「やあ、また会ったな。一ノ瀬律。あの少女を助けに行かなくていいのか?」
出てきたのは以前、大運動会で戦い敗れた長身金髪ハーフの優男、名前は確か六星レビとかいった。手には前と同じように長剣を携えている。
「もちろん、天宮は助ける。そのついでにお前を倒すぐらいは造作もない」
「挑発のつもりか? 前に俺にボコボコにされたことを忘れているみたいだな」
「お前こそ、天宮に殴られた傷は治ったか?」
互いに口を閉じ、睨み合う。
六星レビが長剣を構えると同時に
「おいっ! どこへ行く!?」
俺は校内へと走り出した。
校内に入ると恵先輩の放送がいまだ続いていた。
「おいっ! 待て! 逃げるな!」
後ろからは依然、六星レビがついてきているが問題ない。
「こっちは一人だけです。すみません」
「おや? 私の方は2人だけですよ。大男と物騒なハンマーを持った少女が一人。会長と九重さんは動かないだろうと言う話でしたが、もう一人はいったいどこに?」
「すまない、私の方だ! チェーンソーを振り回してる頭のおかしい女に追われている! 天宮君を探すのが少し遅れそうだ!」
そこで他のメンバーとの会話が途切れる。
今回、いつものように耳に頼った捜索ができない以上、天宮を探すのは俺の役割ではない。歯がゆいが、それが最善である以上は仕方ない。
だが、俺も諦めたわけではない。
「天宮――――――――――!」
大声で叫ぶ。さらに教室の横を通るたびにクナイを思い切り叩きつけていく。天宮の映像は常に千春が確認しているため、もし当たりならわかる。
いくらこの学校が大きいとはいえ、俺と綾乃先輩の二人がかりでしらみつぶしにしていけば、30分内に見つけることができる。
映像の背景で教室とわかっていることが救いだ。この学校には教室と同じくらい、部室や様々な準備室、会議室がある。それらを全て調べていては時間が足りない。
「さっきから何をしている!!」
「ちっ!」
流石に教室の窓を叩きながら走っていたせいで、六星レビに追いつかれる。
「あの少女を探しているんだろう? 無駄だ。やめておけ」
「黙れ」
「ふんっ、別に好みではないが、今回の勝利の記念に俺も例の動画を九重にもらっておくとするか」
「……」
クナイを構えた。




