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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
生徒会編
176/253

敵意・脅威・脱衣(side天宮)

「くっ、殺せっ」

「……」

 無人の教室、椅子に縛り付けられて動けない。目の前には九重さんだけ。縄さえ解くことができれば私一人でも逃げられる可能性はある。

 こんな序盤で捕まって、皆に迷惑はかけたくない。それにもし負けたら律さんがいなくなってしまう。そしたらあの人はきっとまた独りになる。

「あの……さっきのは女騎士が捕まった時によく言うセリフで」

「知っています」

「知ってるなら反応して──え? 知ってるんですか?」

 こんな真面目そうな人でも知っているなんて、知らない間にくっころが有名になっている。まあ、ネット用語が一般にも広まることも最近では珍しくないか。今度、恵先輩に振ってみよう。

「ところで、私なんか捕まえてどうするつもりですか? 私なんて捕まえてもなんのメリットもありませんよ? なんせ戦闘なんてできませんし、人質としても機能しません。私は何をされても助けなんか求めませんし、律さんも私を人質にした程度では降参なんてしませんから」

「……どうして、そう思うのですか?」

 窓の向こう、月光に照らされるグラウンドをぼうっと眺めていた九重さんがこちらを見る。

「どうしてって、それは律さんですから。いつもどんなピンチでもなんだかんだ乗り越えてきたあの人です。今回もなんとかするに決まっています」

「そんなことは聞いていません。どうして彼があなたを人質にしても降参しないと思うかを聞いたのです。あなたの言い方だと他のメンバー、村上千春の場合ならそうではないという言い方でしたが」

「それは律さんは千春さんのことを花よ蝶よと愛していますから。最近では過保護すぎてやや嫌がられていますが」

 私がそう言うと、九重さんはじっと私の目を見つめた後に教室の隅にある段ボールを開け始め、何やら機材の準備を始めた。

「どうして、そういう愛情があなたには向けられていないと思うのですか?」

「はい? 何を言っているんですか?」

「あなたは他人の感情の機微には聡いのに、自分のことになると……いえ、違いますね。あなたはそういうことから目を背けている。気づかないふりをしている。あんたのその態度は卑怯ではありませんか。今回の暴走した会長を非難できないほどに」

「ちょっと何を言っているのかわかりません。目を背けいている? 卑怯? なんの話ですか?」

 この人の言っていることは全く意味がわからない。もしかして何かの策略だろうか。十分にあり得る。これから何をする気かは知らないが、私を動揺させるのが目的だろう。

「……驚きましたね。まさかここまで重症とは。村上千春、彼女も気の毒ですね。こんな人間が好意を寄せる人間の近くにいるなんて」

「あの……怒りますよ? 私たちの何を知ってて、そんな適当なことを言っているんですか?」

「全てです。あなたたちのことはずっと見てきました。それが私の仕事です」

「仕事って……あの変態会長のストーキングの手伝いがですか?」

「彼女も彼女で色々と背負っているのです。そのために彼の情報が、存在が必要だった。それだけのことです」

「詭弁ですね」

「話を逸せて安心しましたか?」

「だから! さっきからしつこいですよ! 何が言いたいんですか!?」

「はあ、ここまで言わないとわからないんですか……」

 気がつくと目の前には大型のカメラが組み立てられている。その大きな瞳が私を冷たく見つめる。

「あなたは一ノ瀬律のことを異性としてどう思っているんですか?」

 散々、不安を掻き立てきたかと思えばこんな質問。拍子抜けだ。

「異性としてって、そんなのどうも思ってませんよ。だって律さんですよ?あんなマゾオス、男として見れませんよ」

「そうですか。まあ別に構いません。すぐにその醜い態度も崩れます」

「……何をするつもりですか?」

 カメラの機材をセットし終えた九重さんは、私の腕をより強い黒いバンドで拘束している。さらに椅子を床に固定し始め、椅子の周りに何やら怪しい機械を設置し始めた。

「どうして最初にあなたを捕えたのかを聞きましたね」

「はい……言いましたが」

「答えは簡単。あなたが一番の脅威だからです」

「脅威? 私が?」

 さらに混乱が深まる。この人の言うことはさっきから意味がわからないものばかりだ。

「ASMR部において服部綾乃をはじめとする戦闘員は非常に強力。そして一ノ瀬律はそれらの力を100%発揮する」

「……」

「しかし、それでは風紀委員会との戦力差を覆すことは不可能だった。さらにいえば、山から村上千春を助けることも田中芽衣を組織から救出することも。そして、私たち生徒会に勝つことも」

「何を言っているのかわかりませんね。実際に私たちはそれら全てに成功を収めています。あなたの計算が間違っているのでは?」

「いいえ。実際に風紀委員会との戦いでは渡り廊下で彼が高梨恵に敗れた時点で敗北が決定していた。しかし、あれから高梨恵が慌てて村上千春を追い、他の味方が一ノ瀬律の確保に来るまでの間にあなたが彼を無人の教室に運び救出した」

「それがなんですか」

 確かにあの時は本当に必死であまり記憶がないが、倒れた律さんを引きずり、背負って3階の教室まで運んだのをぼんやりと記憶している。数日間は全身が痛かった。

「女性が気絶している男性をあれだけの距離運ぶなんて不可能。さらにあの後の催眠による身体強化。意味がわからない。田中芽衣の時の突然のライブもそう。あなたがいると、事態がめちゃくちゃになる。数字が意味をなくす。特に一ノ瀬律とのコンボが最悪で、彼はその混沌から200%以上の結果を引き出す。今回の戦いにおいて私は確実に勝てる用意をしている。そこで一番怖いのは盤ごとひっくり返されること。高梨恵はそれがわかっていなかったから負けた」

「買い被りすぎですね」

 そこまで評価されて悪い気はしないが、私はそうは思わない。いつも律さんたちに頼ってばかりで私なんて何の役にも立てていない。今だってこうして敵にまんまと捕まっている。

「では始めましょうか」

 後ろで何かの準備を終えた九重さんの声が聞こえる。そして、私の前に回り込み

「ちょっ! ちょっと! 何をするつもりですか!?」

 突然、私の服を時にカッターを用いながら脱がせ始めた。

「あなたの居場所に対する執着。それを恋愛感情が上回った時に何が起こるのか。見物ですね」

「あなたの思うようなことになりません!」

 そして、私は下着姿にされた。


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