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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
生徒会編
173/253

宝物

 生徒会との戦いを明日に控えた部室。普段は何かと騒がしい部室が珍しく静まり返っている。

 その静寂を破るように天宮が発言した。

「宝物って何にします?」

 普段はくだらないことしか言わない天宮にしては妥当な疑問だ。明日の戦いで奪い合うことになる宝物は各自で設定する。奪われたら負け、と言うルールだったが。

 封筒にはルールの仔細が書かれた紙があったはず。それを取り出して読んだ。

「宝物は相手に触れられた時点で奪われた認定になるらしい。そしてメンバー6人のうち、誰かが常に携帯している必要がある」

「なら出来るだけ小さいものがいいな」

「なら小さいストラップなんかにして、綾乃ちゃんマリアちゃんが保持し続ければ負けないんじゃない?」

 恵先輩が早速、必勝の策を提案する。

「たしかに……」

 綾乃先輩が小さく頷いた。しかし

「俺は……小さいものにするって言うのには賛成ですけど、それを綾乃先輩や御園先輩に持たせるのには反対です」

「どうして?」

 恵先輩が少しだけ驚いたように尋ねてくる。

「今の生徒会、と言うよりも生徒会長は何をしてくるか本当にわからない。千春や天宮を人質にとる可能性も十分にある。その時にすぐに降参できるように、下手に危害を加えられないようにするために二人のどちらかに持たせるべきだと思う」

 俺の意見を聞いて、他の皆が考え込む。千春には少しだけ悪い気もするが、仕方ない。

「危害を加えられるかどうかは別にしても、人質として利用されるのは考えられるね。こっちは綾乃ちゃんが校内を逃げ回るだけで勝てるわけだし。その対策として人質は十分にありうる」

「じゃあ、千春さんが持ちますか? 私よりも千春さんの方が人質としての効力が強そうですし」

「どういう意味?」

「いやだって私が捕まっても律さんなんか無視しそうな気がしますから」

「いやしないだろ。お前は俺のことを何だと思ってるんだ」

「いや無視しますよ。なんか最近私への扱い、雑ですし」

「おい、何をいじけてるんだ。お前の扱いなんて昔からこうだろ」

 もう出会った頃のことなんて覚えてないが、天宮への扱いが雑じゃなかったことなんてないはず。こいつは何を今更。

 まあ確かに、接していて意外とタフだから天宮ならなんとなく大丈夫だろ、と言う気持ちがないこともないが。

「なんか……私も嫌かも、その宝物持つの」

「おい、千春までどうしたんだ」

「いやなんか、その私のこと信用してないんやかって思って……」

 か細い声で千春が言う。なんとなく皆の視線が俺に集まった。

「信用してないなんてことはない。ただ、そのもし何かあったらってことだ」

「でも、そうしたら皆が私を守りながら動かないといけんやろ? それってかなり不利になるやん。力になれないだけならともかく、私のせいで負けるのは絶対に嫌。持つなら清乃ちゃんが持って」

「千春さん……。気持ちは分かりましたけど、私が捕まったからと言って特に困りませんし、人質にされても無視してもらって構わないので、私が持つのはあんまり意味がない気がします」

 無視していいのかよ。さっきの会話はなんだったんだ。しかも“ふざけ半分でいじけたふりしたら流れで変な空気になってしまいました。どうしましょう”と言う心情が聞こえそうなぐらいの微妙な顔で助けを求めるように俺の方を天宮が見ている。

「わかった。二人がそう言うなら宝物は綾乃先輩に」

「いや、考えたんだが君が持った方がいいだろう」

「?」

 綾乃先輩が押しとどめるように片手を突き出して提案を拒否する。

「この勝負で決まるのは君のこれからだ。もし天宮君や千春君が捕まった時、あるいは危険に晒された時に、君自身が判断できるように君が持っておくべきだ」

 綾乃先輩の真剣な瞳と視線がかち合う。

「分かりました」

 俺がそういうと、綾乃先輩は大人びた表情で優しく微笑んだ。

「じゃあ宝物を決めましょうか。それぞれ案を持ち合ってそこから決めましょうか」

 天宮が早速、自分のカバンを漁り始めた。別に普通に話し合って決めていいと思うが、まあ面白そうだしいいか。俺も身の回りを探り始めた。


 5分後

「いっせーので出しましょうか」

「ああ」

 なぜか天宮が仕切り始めたがまあいい。俺はワイヤレスイヤホンを手に握りしめる。俺はこれにするつもりだ。

「せーのっ!」

 全員が同時に手を広げる中、天宮の手にはピンク色のローターがあって、それはもちろん全員に無視されていた。御園先輩が十字架、綾乃先輩がGペンの先など、混迷を極めたレースだが、ふと千春が出したものに目が止まる。

「それは?」

「これは……その……なんでも、ない……」

 千春の手にはお守り、それも神社で売られているような一般的なものではなく、フェルトで作られたものだ。手作りだろうか。

「もしかして千春が作ってくれたのか?」

「…………うん」

 恥ずかしそうに顔を背けながら小さく頷く。気づくと耳まで真っ赤になっている。

「実は皆のも作ってきとって」

 千春がポケットからお守りを取り出す。それぞれ色が異なっていて、可愛くそれぞれの名前が刺繍されていた。

「わあ、千春さん、ありがとうございます! でもこんな大切なものを宝物に設定してしまっていいんでしょうか」

「いいんじゃないか。これでいっそう取られるわけにはいかなくなる。まあ、千春がよければだが」

「うん、大丈夫。でもなんか宝物って言われるのは恥ずかしい」

 千春は恥ずかしそうにはにかんでいる。可愛い。

「ますます負けるわけにはいきませんね」

「だな」

「皆さん、私は参加できませんけど頑張ってください!」

 潮水さんも応援してくれる。

 俺は千春から貰ったお守りを強く握り、決意を固めた。

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