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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
生徒会編
171/253

交渉

 天宮を締め出した後に九重さんが生徒会室に戻り鍵を閉めた。それでもドアを激しく打つ音がする。

「まったく……俺も本当に信用がないな」

「……? どういう意味だ、律」

「いえ、こっちの話です。気にしないでください。それより早く話を進めましょう」

「そうだな。九重君、書類を」

「はい」

 そして九重さんから書類を手渡される。その中には俺が生徒会に入ることはもちろん、さっき話していた諸々の特典についても記載がある。それを縦に引き裂く。

「は?」

 さらに細かくビリビリと破る。

「律! どうしたんだ? 急に何をやっている!?」

 そして書類をその場に捨てた。

「加減を知らないあのバカは多分全力でドアを殴ってるので、怪我する前に話を済ませましょう」

「話を済ませるって。まさか断るつもりか?」

「当然です」

 会長は動揺を隠しきれない様子だ。九重さんは相変わらずの無表情で何を考えているのかわからない。

「俺は今の場所を、ASMR部を気に入っています。手はかかるし騒がしくもある。けど、あの場所が好きで、自分がいるべき場所だと思っています」

「っ……!」

「何があってもあの場所を捨てるつもりはありません。たとえくだらない脅しにあったとしても」

「くだらない脅し? 私は本気だ。もし君が生徒会に入らなかったら、本気で君の妹の受験を妨害する」

「俺だって本気だ。そもそも」

 会長を指差す。

「やり方がずっと気に食わない!」

 面食らった顔をしている会長を無視して続ける。

「金と権力に物を言わせるやり方、大運動会でのやり方といい、その為政者のような振る舞いに腹がたつ。いいか? そういうのをな、独りよがりって言うんだ。そもそも部活動強制をやめれば解決する話だろう!」

「そっ、それはダメだ! あれはその」

「会長、それは──

 九重さんが慌てて何か言いかける会長を止めようとするが

「あれは……君のためなんだ!」

 なるほど、九重さんが止めようとした理由がわかった。あの人は俺のことをかなり把握しているらしい。

 そう、完全に地雷だ。会長と両親が完全にダブる。“あなたのため”、こういう態度の人間の押し付けがましさと、そして本当は相手のことなんかちっとも考えていない無神経さには心底腹が立つ。

「わかった! ならこうしよう。ゲームだ。ルールはそっちが決めて構わない。得意だろう、そういうの!」

 九重さんの方を見る。

「私たちが勝てばあなたは生徒会に入るとして、あなたたちの見返りは?」

「妹の受験の邪魔を絶対にしないこと。芽衣ちゃんの学費を出すこと。あとは…あんたには会長をやめてもらう。部活動の強制加入制度も廃止だ!」

 俺がそう捲し立てた後、場がしんと静まり返る。流石に欲張りすぎたか?

「いや私たち生徒会にそのゲームを受けるメリットはないと思いますが」

 これに関しては全く九重さんの言う通り。今、会長には妹の受験やそもそも俺の校内での進退も握られている。切れるカードはいくらでもあるのだからゲームを受けるメリットはない。だからルールの設定もあっちに譲歩したのだ。

 ただ、俺の予想ではこのゲームに会長は

「いいだろう、面白そうだ。その提案乗った」

 笑みを浮かべる会長。隣の九重さんの呆れた顔を見るとこうなることはわかっていたようだ。おそらくだが会長は祭好き。やたら凝った大運動会や風紀委員会での介入の仕方などを見て思っていたが当たりらしい。

「いいのですか? 会長」

「私たちが負ける要素は万に一つもない。それにこの形の方が律も納得できるだろう。律が生徒会に入る前夜祭と思えばいい」

「……わかりました。ゲームは私の方で用意します」

 どうやらうまく話がまとまったらしい。助かった。そろそろ天宮の方が気になる。さっきからドアを殴る音が止んで、気配もない。あいつの場合、下手すればブルドーザーでも持ってきそうだからな。

「じゃあ、俺はこれで」

「いや待て。流石にこのままだと私たちのメリットが少なすぎる」

 流石にこのままじゃダメか。まあ、一つや二つ条件が加わるぐらいは許容範囲だ。もちろん内容によるが。

「もし私たちが勝てば、以降君は天宮君との接触を一切禁じる」

「…………いいですよ」

 まあおそらく天宮のことが嫌いだからだろう。どんな無理難題を課されるかと思ったが、そもそも生徒会に入れられた時点で天宮と話す機会も減るわけだし、そこまでの変化はない。それとも他に何か意図があるのだろうか。

「じゃあ、今度こそ俺は」

「ああ、行って構わない。詳細はまた連絡する」

 そして、俺は生徒会室を出た。


 生徒会室を出ると目を真っ赤に腫らした天宮がいた。

「おや、出てきたみたいですね。私はいらなかったようです」

 そして隣には御園先輩がいた。やはりブルドーザーを持ってきていたようだ。早めに話を切り上げて正解だった。

「律さん……ちゃんと説明してください。内容次第ではわかってますね?」

 そう言って天宮が御園先輩の手首を持ってこっちに向けてくる。洒落にならないからやめてほしい。

「いや、急に追い出したのは悪かったよ。その、お前がいると話がややこしくなる気がしたからな」

 生徒会が旨みのないゲームの提案を飲んでくれるかはかなり分の悪い賭けだった。会長と天宮は見るからに険悪、さらに天宮自身何を言い出すかわからない。あの場所に天宮を残すわけにはいかなかったのだ。まあ、ASMR部が好きなんて天宮の前で言ったら、後でどういじられるかわらかないってのもあるが。

「一ノ瀬さん、それにしてももっとやり方があったんじゃ。天宮さん、本当に凄い形相で部室に来たんですから」

「それは……すまない、天宮」

「別に追い出したことは怒ってません。それよりどうなったんですか、まさか本当に生徒会に入るつもりじゃ」

「いやそんなつもりはない。その交渉で残ったんだ」

「交渉? ならなんとかなったんですか!?」

「いやまだだな。その、生徒会とゲームをすることになった。ルールはあっちが決める。経験上、穏やかなものではないだろうな。また皆には迷惑をかけるかもしれない」

 天宮と御園先輩が顔を見合わせる。それから

「今更何を言ってるんですか。これだから律さんは」

「ああ、先の大運動会の雪辱を晴らせるのですね。いいでしょう、思う存分……」

 嫌そうな顔ひとつせず、乗ってきた。生徒会への罵詈雑言を天宮が叫んでいる。

「お前、生徒会室の前だぞ! ここ」

「関係ありません! 敵なんですから」

 笑顔で言う天宮に手を引かれ、俺は部室へと向かった。


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