私のシグナルを聞け!
自然を侮っていた。
私は無線越しに一ノ瀬君が千春君を見つけたことを悟って二人のいる場所まで移動していた。
二人の話の邪魔をしない方がいいと思い、何かあったらいつでも助けられる位置で待機していたつもりだった。
しかし、いざ土砂崩れが起きるとその速さと勢いは想像を遥かに超え一ノ瀬君の呼び声に反応した時にはほとんど手遅れだった。
一ノ瀬君に届かないと判断した瞬間、私はワイヤー付きのクナイを安全な木の上に引っ掛けて宙を移動し土砂を回避した。
それから、まだ土砂に流されていない木を伝って二人を追っていたが……
「すまない、見失った」
無線越しに天宮君の崩れる音がする。
「律さん……」
悲痛な声が聞こえる。
何が忍の後継者だ。何が先輩だ。自分だけ助かって、後ろで帰りを待つ後輩にこんな思いをさせて。不甲斐ない。
声が震えないようにそんな気持ちを抑えながら必死で二人の名前を呼ぶ。
しかし、これは……
想像を絶する光景が目の前に広がっている。一面は土砂に覆われ、元々の地形は判別不能だ。残酷なことに、一ノ瀬君のGPS反応はその一帯から出ている。
これに飲まれて仮に生きていたとしても見つけ出すことは不可能に近い。見つかる頃にはとうにー。
嫌な想像と弱い気持ちが押し寄せる。それでも生き残ったからには役割を果たさなければならない。私は安全な足場を見つけては高速で移動し続け二人の名前を呼ぶ。
もうすでにこの一帯を何周もしているが反応はない。
動かねばとわかっていても足が止まる。泣き出してしまいそうになる。忍とは言っても自分が一介の学生でしかないことを痛感する。
「これはもう……」
心が折れそうになっていた時だった。
「友達が、友達があそこにいるんです」
天宮君の涙に震える声が無線越しに聞こえる。
「友達が今あそこで戦っているんです! 私には……私一人じゃ何もできないから……どうか助けてください」
あの華奢で小さな女の子が諦めずに必死に叫んでいる。
「これでわかりますから。お願いします。お願いします」
戦わなければならない。
体と頭をフル回転させる。
一ノ瀬君が生きている前提で考える。
彼が生きていたらどう動く? 私にどう動いて欲しいと考える?
先日の一幕が脳裏に浮かぶ。
彼は微かな音から私の存在を見破った。隠遁の術を使っている私を一般人が知覚することなど不可能だ。彼はなぜ、それができた?
―彼は常人離れした聴力を持っている?
もしそうであるならば、私の声が届いていないのはかなり深い場所に埋まっているからかもしれない。もっと大きな音が必要だ。私はスーツの収納スペースからある物を探す。
小型の音爆弾。しかし、弾数は一発しかない。
「頼むぞ、一ノ瀬君」
私は祈りながらそれを炸裂させた。